追跡者たち
翌朝。
訓練棟の第七演習場。
「もっと速く! 足が鈍ってるぞ!」
久世の怒号が響き、裕也は息を切らしながらも動きを止めなかった。
今日は機動戦特化の模擬戦。敵役として訓練生二名と同時に戦っている。
裕也は瞬間的に床を蹴り、二人の間をすり抜ける。
(正面突破は無理——なら、音で惑わせる!)
《反響する自我》を発動し、床の足音を複製して左右から迫るように響かせる。
敵役が一瞬、動揺した隙に背後へ回り込み、木刀で肩を叩いた。
「一本!」
久世が腕を組み、ようやく口元を緩めた。
「……よし。動きは悪くない。だが昨日の件を忘れるな。実戦じゃ相手が何を仕掛けてくるか分からん」
裕也は頷いたが、頭の中では別のことを考えていた。
(もし、相手がまた“あの方法”で能力を封じてきたら……?)
◆
同じ頃、街の外れ——廃工場群。
黒いローブをまとった二人組が、地図を広げていた。
「宿主はここ、中央区の訓練施設にいるらしい」
「警備は?」
「厳重だが……夜間なら侵入経路はある。問題は、迎撃班が動く前に確保できるかだ」
二人の背後には、鉄骨の影からゆっくりと姿を現す金属の災異。
その目の奥に宿る赤い光が、不気味に明滅していた。
「……命令は“確保”か?」
「いや——」
闇の奥から、別の声が割り込む。
「生け捕りは不要だ。優先は排除だ」
◆
夜。
裕也は食堂で夕食を終え、寮の廊下を歩いていた。
窓の外には、いつもより濃い闇。
その中で、一瞬、赤い光が瞬いた。
(……今の、何だ?)
警戒心が全身を駆け巡る。
次の瞬間、窓ガラスが粉々に砕け、黒い影が飛び込んできた。
「——ッ!」
咄嗟に床を蹴り、廊下の端へ飛び退く。
影は人の形をしていたが、腕は金属の刃に変わり、床を切り裂いて迫ってくる。
(……来やがった!)
裕也は反射的に《音律干渉》を発動し、刃の振動を乱して軌道をずらす。
だが、相手はすぐに立て直してきた。
「宿主——排除」
あの声だ。
胸の奥に、冷たい何かが広がっていく。
(……逃げ場は、ないか)
裕也は構えを取り、全身の力を解き放った。
「来いよ……!」




