狙われた宿主
夜。
市街地第三区の後方支援拠点。
裕也は応急治療を受けながら、未だに頭の奥に残る“声”を反芻していた。
『……排除セヨ……宿主……』
(やっぱり、あれは俺に向けて……)
◆
作戦会議室では、前線班からの報告が続いていた。
「敵個体は機動性が高く、接近戦を主軸に行動。武器は両腕一体型の湾刀。通常の物理攻撃は有効だが……」
「……ただし、撤退判断が異常に早い。まるで指令を受けて動いているようだった」
桐生局長は腕を組み、スクリーンに映る影の輪郭を睨みつけた。
「災異に“戦術判断”……。やはりリーダー個体の存在は確定と見ていいだろう」
そこで、情報局員の一人が口を開く。
「……それと、被害現場近くにいた白木訓練生が、敵から直接狙われた可能性があります」
室内の空気が一瞬で変わった。
桐生「白木。何か心当たりはあるか?」
裕也「……ありません。ただ——」
裕也は言葉を飲み込んだ。
“宿主”という単語を口に出すことに、なぜか本能的なためらいを感じた。
桐生は鋭い視線を向けたが、無理に追及はしなかった。
「……まあいい。白木、お前はしばらく前線支援任務は外す。訓練と警戒に専念しろ」
裕也は頷いたものの、胸の奥のもやは晴れない。
◆
その夜。
寮の屋上で一人、街を見下ろす。
(……宿主。あの声。そして、俺の《反響する自我》が効かなかった理由……)
風が頬をかすめたとき、背後から足音。
振り返ると、訓練棟の鬼教官・久世が立っていた。
「よ、ずいぶん深刻そうな顔してるな」
「久世さん……」
「昼間の件、聞いた。お前、反応は悪くなかった。だが——」
久世の目が鋭く光る。
「相手は、お前の能力を知っていたかもしれねぇぞ」
裕也は息を呑んだ。
「……どういう意味ですか?」
「攻撃の“音”を打ち消す。あれは偶然じゃない。お前の《反響する自我》を封じる手段を、最初から用意してたように見えた」
久世は煙草をふかし、夜空に煙を吐く。
「敵が“お前を狙う理由”はまだ分からん。だが——そういう奴らは、一度狙った獲物は諦めねぇ」
裕也の背筋に冷たいものが走った。
(じゃあ……また来る、ってことか)
◆
同じ頃——
廃ビルの地下。
金属の災異が片膝をつき、暗闇の奥にいる“何か”に報告していた。
『——宿主、確認。排除、未完了』
闇の奥から、低く響く声。
『……良い。まだ時期ではない。だが、確実に捕らえろ。“あれ”は我らのものだ』
災異の兜の奥の光が、不気味に明滅した。




