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災異、動き出す

Bランク査定を終えた翌日。

裕也は訓練棟での基礎練習を終え、汗を拭きながら更衣室に戻っていた。


 


そのとき——


 


「全員、緊急招集だ!」


 


館内放送が鋭く響き渡る。


 


一瞬で更衣室の空気が張り詰める。

まだ訓練中の新人も、休憩中の先輩隊員も、一斉に動き出す。


 


裕也は廊下を走りながら、胸の奥がざわめくのを感じた。


(この空気……何か、来る)


 



 


作戦会議室。


壁一面のスクリーンに、都市マップと赤い光点が複数表示されていた。


継環省情報局局長・桐生きりゅうが口を開く。


 


「昨夜未明、災異が市街地に侵入。現在も拡散中だ」


 


赤い光点が、一つ、また一つと動いていく。


 


「数は少ないが、確認されたのは“統率”された行動を取る災異群。単発行動ではない」


 


室内にざわめきが走る。


通常、災異は単独で暴れるだけの存在。群れを形成し、統率されるなど——

ほぼ例外だ。


 


「現時点で推定リーダー個体は未確認。ただし、指揮下の災異は人型。武装を使用している報告もある」


 


桐生は鋭い目で訓練生たちを見渡す。


「——新人は直接戦闘には投入しない。だが、戦闘区域の後方支援と避難誘導の任務には同行してもらう」


 


裕也は安堵と同時に、妙な胸騒ぎを覚えた。


(……“統率”か。なんでこんな嫌な響きなんだ)


 



 


夕刻。

裕也は後方支援班として、市街地第三区に配置された。


灰色の空。

遠くで煙が上がり、焦げた匂いが風に乗ってくる。


 


「——っ、こっちに来るぞ!」


 


避難誘導の最中、通りの向こうから“それ”が現れた。


 


人間の骨格を模した金属装甲に、異様に長い腕。

両腕には刃のような湾曲した武器。


頭部には、まるで“兜”のような形状があった。


 


(……こいつ、他の災異と違う)


 


背後から、支援班の指揮官が叫ぶ。


「白木! 下がれ、そいつは前線班が——」


 


その瞬間、金属の刃が空気を裂き、裕也の足元を掠めた。


(やば……!)


 


——耳に響くのは、甲高い金属音。


だが、その音の奥に——


 


低く、重い“指令”の声が混ざっていた。


 


『……排除セヨ……宿主……』


 


裕也の背筋が冷たくなる。


(今、“宿主”って……言ったか?)


 


次の瞬間、金属の災異は信じられない速度で踏み込んできた。


裕也は反射的に《反響する自我》を展開。


しかし、刃と刃がぶつかる“音”が、まるで相殺されるように掻き消えた。


 


(……音が効かない!?)


 


逃げるしかない——そう判断した瞬間、災異の兜の奥で光が揺れた。


 


赤い、意志を持つ瞳。


 


裕也の胸の奥で、“誰か”の声が響く。


 


『……あれは……昔……!』


 


——記憶の奥底を抉るような衝撃。


裕也はその場で息を詰まらせた。


 



 


「白木! 下がれ!」


前線班が突入し、爆発音が響く。


視界が煙で覆われたその一瞬——


金属の災異は、跡形もなく姿を消していた。


 


裕也は動けないまま、汗ばむ手のひらを握りしめた。


(……今の“声”は、誰だ……?)


 


遠くでサイレンが鳴り響く。


都市は、確かに何かが“動き出した”ことを告げていた。

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