継環省・異能ランク戦(前編)
継環省――その名のもとに異能を管理し、運用する組織には、一つの明確なルールが存在していた。
「異能の力は、必ず比較される」
そのために設けられている制度が、《ランク戦》。
異能者の能力・戦闘技術・応用性・精神耐性などを総合評価し、
S・A・B・C・D・Eの六段階で格付けされるこの制度は、
ただの名誉でも、勝ち抜き試合でもない。
——これは、生き残るための“現実”だった。
◆
「今日からお前たちは“初期ランク査定戦”を受けてもらう」
講義棟のホール。
演壇に立つのは、継環省の査定官・神代礼司。
黒髪スーツに白手袋、無表情の美青年。
だが彼の周囲の空気は、どこか重い。
「勘違いするな。これは“昇格戦”ではない。お前たちの“基準点”を決める査定だ。ここでのランクが今後のお前たちの待遇、任務内容、予算、教育内容に直結する」
裕也は小さく息を呑んだ。
(つまり……ここで、俺の“価値”が決まるってことか)
「なお……」
神代がわずかに視線を流す。
「今回は特例で、既に戦闘訓練を受けた白木裕也も査定対象に含まれる」
「え、もう出るのか裕也」
志摩が横で驚きの声を漏らす。
中原ミナは無言のまま、何かを読み取るように裕也を見た。
神代は続ける。
「初期ランクは“2対2”の小規模戦にて評価する。チーム構成はシステムによるランダムマッチング。異能の相性、戦術、個人評価すべてを記録する」
大型のスクリーンに、参加者とチーム名が映し出される。
《第3試合:白木裕也 × 高取カエデ vs 三木駿 × 君嶋レオ》
「……高取?」
裕也は首を傾げた。見知らぬ名前だ。
直後、声が背後からかかる。
「よろしく、白木くん。私、高取カエデっていいます。異能は《軽重環》ってやつ」
現れたのは、細身で物腰の柔らかい少女。
一見、戦闘向きとは思えないが——
「自分の周囲の“重力場”を制御する異能。スピードタイプの白木くんとは、悪くない相性だと思う」
(重力操作……なるほど、“加速”と“制動”が補える……)
裕也は軽く頷く。
「……頼りにしてる」
控え室から出ると、模擬戦区画B。
そこに立っていたのは、対戦相手となる2人の訓練生。
一人は長身の青年・三木駿。異能は《地鋼牙》。
地面から“金属刃”を生やす攻撃特化型。
もう一人は筋肉質な体格の君嶋レオ。異能は《音盾》。
“聞こえた音”を反射して防御力に変換する特異型。
「よぉ、話題の新入りじゃねえか」
三木が不敵に笑いかけてきた。
「初戦で俺らと当たるとはツイてねぇな。“自称天才”はすぐ潰れる」
「……自称じゃない」
裕也は淡々と返した。
彼の手の中で、小さな“指の鳴る音”が響いた。
◆
戦闘開始のアナウンスとともに、視界がスモークで覆われる。
それは、音と気配の“演出”でもあった。
「いくよ、白木くん!」
高取の周囲に重力の輪が走り、裕也の足元の空間が一気に“軽く”なる。
「(足が……跳ねるように軽い!)」
白木裕也、踏み込み開始。
——疾走。
——音速をなぞるように。
その刹那、三木の異能が地面を裂く。
《地鋼牙》
——無数の金属刃が地面からせり出す!
(……出る!)
裕也は音の“乱れ”を読んで、次の一歩をずらす。
刃の狭間をすり抜け、跳躍。空中で音波を放つ。
《音律干渉・第四形》
——「残響檻」
相手の周囲に反響音が乱立し、空間認識を妨害する。
そこに重力を操作したカエデが“空中制止”の状態を作り、
レオの音盾の反応タイミングをずらす。
(いま!)
《反響する自我・第一式》
——「響破」
――衝撃音が“盾”を打ち抜く。
反射速度を超えた異能が、レオの防御を貫く。
審判の判断により、勝敗決定。
白木裕也、高取カエデ組、勝利。
◆
試合後。
査定官・神代は静かに書類にペンを走らせていた。
【白木裕也:初期査定Bランク】
「ただし……」
彼は独り言のように呟いた。
「この能力。おそらく……“他者由来”」
——神代は気づいている。
裕也の異能が、ただの訓練生のものではないと。




