異能研修、前哨戦
今日まで林間学校でしたの遅れましたごめんなさい
継環省・訓練区画Eブロック。
その中でもとりわけ広大な「模擬戦闘演習場」は、異能者同士の実戦訓練のために設けられた専用空間だった。
地形は任意に変化可能。地面の構造も、視界の霧も、すべてが人工的に作られている。
まるで戦場のテーマパーク。
だが、ここでは“生き残る”ためにすべてを出し切らねばならない。
「各員、耳を傾けろ。訓練生第4班、模擬戦闘を開始する」
インカム越しの厳しい声が響く。指揮官の名は——
「俺が今回の戦闘指導教官を務める、伊庭だ。異能名は《戦斬》」
整列する訓練生たちの前に立つのは、浅黒い肌と鋭い眼光を持つ壮年の男。
その身から発される空気が既に“刃”だった。
「ルールは単純。三対三の小規模戦闘。制限時間は十五分。敵を“無力化”するか、時間切れでの生存数で勝敗を決める」
裕也の班には、すでに異能を扱う訓練生が2人いた。
「……白木裕也。お前が今日から正式に配属された《第4班》の新入りだ」
裕也は一歩前に出て頭を下げた。
「白木裕也です。異能名は、まだありません。よろしくお願いします」
反応はまばらだったが、仲間の1人が小さく手を挙げる。
「オレは志摩レイジ。《火装》って異能だ。よろしくな」
もう1人の少女も小さく頷く。
「……中原ミナ。異能は《視音》……感覚系です」
伊庭は無表情で言い放った。
「この戦いでは、白木の異能を他者が“どうサポートするか”も評価対象に含まれる。つまり、連携重視だ。個人戦じゃねえぞ」
――そう言われて、裕也の背中に冷たい汗が流れる。
(俺……今まで、誰かと戦ったことなんて、なかった)
だが、逃げる理由にはならない。
初めての“チーム戦”。
それが、戦いの新しい扉を開く。
◆
模擬戦・開始10分。
裕也たちはすでに敵班と接触し、交戦状態に入っていた。
敵も3人。異能の詳細は不明だが、感知系の存在と、空間操作系が含まれている。
「右! 来るぞ!」
志摩の叫びと同時に、爆風が走る。
裕也はとっさにジャンプし、空中で姿勢をひねって着地。
地面の“鳴り”から、次の攻撃を予測する。
「視覚に頼るな。音だ……音の乱れが、位置を教えてくれる……!」
空気が震え、鼓動のようなノイズが耳に触れる。
音の波が、自分を中心に広がっていく。
(今だ……)
裕也は指先を鳴らし、微細な“反響波”を放つ。
《音律干渉・第三形》
——「振動破」
衝撃波が空間を揺らし、敵の感知遮断フィールドを打ち破る。
同時に志摩の火弾が飛び込み、一人を“無力化”。
「よっしゃ、決まったな!」
残る敵は二人。だが空間の視界が歪む。
「中原、どう?」
「……上から来る。四十五度の角、重力傾斜あり」
裕也は即座に走り出す。スピードに任せ、斜面を駆け上がる。
(来るなら、こっちから迎えに行く!)
音の軌跡を視るように、彼は空間を切り裂くように突撃した。
相手が攻撃を振り上げる前に、裕也の“無音の波”が突き抜ける。
——“反響する自我”が共鳴を貫く。
《第六形:無音断》
——決着。
残り時間、二分。
敵班、全員無力化。
◆
模擬戦後、訓練室。
「……上出来だ」
伊庭の口元がわずかに緩む。
「白木、あの“音波による索敵と回避”は見事だった。異能の使い方に“直感と理屈”が伴っている。スピードに頼るだけでなく、読んでる」
裕也は息を整えながら、頭を下げた。
「ありがとうございます」
志摩が笑う。
「意外とイケんじゃん、新入り」
中原も小さく「……悪くなかった」と口にする。
裕也の中に、ほんのわずかだが確かな感触が生まれた。
(これは、“戦えた”ってことだ……)
だがその陰で、伊庭の端末には別の通知が入っていた。
【識別番号R-00:反響指数測定値、異常上昇】
【旧記録との一致度:72.1%】
伊庭(……やはり、こいつの中にあるのは“ただの能力”じゃねえ)
それが何なのかは、まだ誰にも分からない。
ただ、響いている。
あの古い旋律の続きが——確かに。




