帰還報告
東京都・霞原第七管理区。
継環省・第壱特異災対局、通称《災響部署》。
訓練後の深夜、裕也は高層ビルの最上階にあるブリーフィングルームへ呼び出されていた。
「白木裕也、入ります」
静かにドアが閉まる。
前方にはスクリーン。
その手前に、訓練指導官の一人、《佐倉司令》が座っていた。
「お疲れ。まずは訓練成功、おめでとう」
「……ありがとうございます」
モニターには訓練記録の再生映像。
裕也が《音律干渉》で模擬災異を制圧する姿が映っている。
だが、佐倉の表情は険しいままだった。
「一つ聞かせてくれ。——訓練中、“誰かの声”を聴いたと言ったな?」
「はい。……女性の声で、歌を」
「他の記録には、音声反応は確認されていない。
異能反応も、災異模擬体の構成音以外は“無”。」
裕也はしばらく口を閉ざす。だが、目を逸らさずに言った。
「でも、確かに聴こえたんです。誰かが——“助けて”って」
佐倉はため息をついた。
「……君の異能《反響する自我》は、音に“記憶”を拾う特性を持っている。
おそらく、模擬災異に使われた過去の音源、または……」
「……?」
「本物の災異に由来する“残響”が、混じっていた可能性もある。
模擬体はすでに分解・再検査中だ。詳しい報告は後日伝える」
裕也はうなずいたが、心の奥に引っかかりが残っていた。
(あの声は、そんな記録音源なんかじゃなかった……。
俺を“知ってる”ような、そんな響きだった)
——その夜。
継環省の別区画、上層管理フロア。
二人の男が、密かに会話を交わしていた。
「……やはり、“目覚めた”か。あの能力」
「想定より早い。模擬訓練ではなく、本番環境での揺らぎが誘因かと」
「《反響する自我》と《音律干渉》。……融合は成功している。
だが、この力が本物なら……やつらが、また動き出すだろうな」
「“封印”はあとどれくらい持つ?」
「保証できない。百年前の災異は、そもそもこちらの常識では測れない」
「ならば……第二段階の準備に入れ。
白木裕也には、まだ“自分の正体”を知られてはならん」
闇の中で、ひとつのファイルが開かれる。
そこには、未発表の極秘任務指令が並んでいた。
【任務候補者:白木裕也】
【対象:“遺響群”出現調査】
【コード:オペレーション・セラフィックノート】
画面に映る裕也の顔が、静かにノイズに覆われていく。




