対面 ――記録者と継承者
継環省・戦闘訓練スタジオ第三室。
そこでは今日も、白木裕也が一人で訓練を続けていた。
仮想災異との模擬戦。
動きの予測、反射、音の反響による攻撃干渉——
そのすべてを、彼は“誰にも教わることなく”体で覚えていた。
「……タイミングが早い。0.2秒、ズレてる」
裕也は小声で自分に言い聞かせる。
(空間にある“残響”が、いつもより不規則だ……誰か、いる?)
その瞬間、背後の自動扉が静かに開いた。
「君が、白木裕也か」
振り向いた裕也の前にいたのは、
白衣にノイズキャンセリング・ヘッドホンを首にかけた青年。
中性的な顔立ち。無感情な目。
その名は——御神楽 奏
「君の能力、“反響する自我”と“音律干渉”……
少し、実演してもらえるかな」
裕也は少し眉をひそめる。
「誰だ、お前……訓練課の人間か?」
「違う。僕は分析官だ。君の“音”に興味がある」
その言葉に、裕也の肩が一瞬ぴくりと動く。
「“音”って、なんだよ……?」
「君の力は、ただの異能じゃない。
まるで“記録された旋律”を再生してるみたいだ。誰かの、過去の演奏だ」
裕也は少しだけ目を細めた。
「それが、何だって言うんだ」
「確認したいことがあるんだ。
……もし君の音が“過去の誰か”のものなら、その旋律は再び“災異”を呼ぶ」
(……どういう意味だ)
「だから、試してみよう。僕の“記録”と、君の“継承”——
どちらの音が強いか」
奏が指を鳴らした瞬間、訓練室のスピーカーから低周波音が流れ始めた。
反響しない“デッドトーン”。空間そのものを圧迫する音波。
「……お前も、音の能力者か……!」
裕也の足元の空気が震えた。
「いくよ。白木裕也。——これは記録された音による、実戦評価だ」
次の瞬間、無音の中でぶつかり合う“二つの旋律”が、空間を満たした。
音が走る。
記録者 vs 継承者——
今、初めての衝突が始まる。




