交響 ――音の使い手
継環省・能力特異分析局──
モニターには、白木裕也の戦闘映像が繰り返し再生されていた。
それを見つめるのは、分析官・御神楽 奏。
白衣にヘッドホンをかけた青年。感情の起伏は少ないが、音の記録に対しては異常なほど執着する。
「この“反響”……明らかに、自然発生じゃない」
彼は独りごちた。
「構造が整いすぎている。あの干渉波、解析可能だ。
だが……どこにも“類似構造”が存在しない。まるで——“逆再生された記憶音源”」
すると、室内ドアが開く。
「勝手に解析ログにアクセスしてんじゃねぇよ、奏」
入ってきたのは、現場部隊所属の青年隊員、笹原 拓人。
音属性とは無関係の“振動系”能力者。裕也と同世代だが、階級は一段上の実戦班所属。
「また白木のデータかよ。あいつの何が気になる?」
「“似た音”を、俺は聴いたことがある」
奏の表情が、初めて揺れた。
「10年前、極秘で保管された“音災記録”の中に。
かつて、“音を用いて災異を鎮めた者”がいた。けど……そいつの存在は、記録ごと消えてる」
「は?」
「白木裕也の“反響”は、その時の波形と“完全一致”した」
——それはつまり、
彼の中にある異能は、かつて歴史の裏で抹消された存在と“同じ音”を鳴らしているということ。
笹原は眉をしかめた。
「じゃああれか……裕也ってのは、偶然能力に目覚めた被験者なんかじゃない?」
「……仕込まれた“転生音”。
いや、それ以上だ」
奏は静かに立ち上がる。
「“誰かの音”が、あいつの中でまだ響いてる。
俺はそれを止めなきゃいけない」
「……何勝手に物語ってんだ、バカ奏。
勝手に白木を敵視してんじゃねぇよ」
「敵じゃない。——けど、“継承された旋律”が暴走したら、組織じゃ制御できない」
そして奏は、無言で部屋を出る。
彼が向かうのは、戦闘訓練室。
白木裕也と、**“音を使う者”同士で対面する時が、近づいていた。
——その頃、裕也は訓練用スタジオで黙々とスピード強化訓練に励んでいた。
呼吸を揃え、音の反響から“未来の動き”を読み取り、身体を加速させる。
だが彼の耳には、あの災異が残した“旋律の断片”が、まだ響いていた。
(俺の力は、誰かの音の続きなんだ。
だったら……俺は、何を奏でる?)
彼の問いに、まだ答えはなかった。




