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最悪な空気の執務室

「隣国の次は自分の国のバカ共から縁談か。よっぽど死にたいらしい」



 本当に勘弁してほしいと思いながら、ブラントは顔を真っ青にさせてキリキリと痛む胃を抑えていた。

 

 レイシアの五歳の誕生日パーティーで、レイシアは属性魔法が光と氷の複数の属性持ちだと分かり、魔力量がレイビスより多いと判明した。


 複数の属性魔法が使えるだけでも希少なのに、同じく希少な光属性の魔法も皇后からしっかりと継いでしまったようで、レイビスはあの日、レイシアを部屋に戻すと会場に戻って箝口令を敷いた。


 内容はレイシアの属性魔法と魔力量を言わないこと。言ったものは誰であろうと首を刎ねると警告した。レイシアが光と氷の属性魔法を使える上に、魔力量が帝国一だと敵国に知られたら、狙われるのが目に見えているからだ。


 もし敵国の手にレイシアが渡ったら、使い潰された後に殺されるだろう。そんなことになったら、レイビスは怒り狂って誰も手がつけられない大魔王になってしまう。


 それだけは避けなければいけない。だからレイビスは、バレないように貴族達の監視をできないかと珍しくあの日から二週間、ずっと頭を悩ませていた。


 そんな時に、欲深い貴族達が自分の息子をレイシアの婿にと縁談を送り付けてきた。最悪のタイミングだ。しかも、数が多いせいで余計にレイビスの機嫌が悪くなった。



「ブラント。監視するいい方法がないか考えろ」

「陛下が二週間も頭を悩ませているのに私がいい案なんて思いつくわけがないでしょう……」

「フレッドはないのか」

「申し訳ございません、私もありません。大魔法使い様であれば、何かいい案を持っていたかもしれませんが…」

「二百年前に出かけてくると言ったきり帰ってこない奴を頼れるか。生きているかも分からない」



 ウォーカー帝国には全属性の魔法を使え、呪いの解呪や薬の調合、魔道具の制作ができる大魔法使い様がいる。初代皇帝の親友で、魔法や呪いを研究しまくった結果、自身の時の流れを止めてしまったらしい。

 

 初代皇帝は、親友である大魔法使い様がしたことに激怒したらしいが「俺が生きているかぎり、帝国の皇帝の助けになってやるよ。だからそう怒るなよ」と言って怒りを鎮めたそう。そんな言葉で怒りが鎮められたなんて甚だ疑問ではあるが。

 

 そんな大魔法使い様は、約束通りに皇帝の助けになってくれていたが、二百年前のある日、突然出かけてくると言ったきり行方不明になった。



 その時の皇帝は、必死に大魔法使い様の行方を捜索したらしいが、大魔法使い様がどこにいるのか、手がかりは一切見つからなかったそうだ。その次の皇帝も捜索は続けたが、同じく手がかりは見つからなかった。



「どこにいるんでしょうね」

「死んでるだろ。止めていた時を動かしてとっくの昔にな」

「もしお戻りになったらどうするんですか?」

「どうもしない。シアのために使えそうなら使う」



 いつもなら殺すと言うのに、どうもしないとは珍しいとブラントは思ったが、レイビスが大魔法使い様と戦って勝てるかと言われたら、答えは勝てないだ。レイビスは、そんな相手に敵意を向けるようなバカではない。


 だからもし、大魔法使い様が戻ってきてもレイビスは好きにさせる。文句を言って敵意を向けるのは、バカな元老院と貴族達だろう。二百年も何をしていたと、大魔法使い様を責める姿が簡単に想像できる。


 

「大魔法使いはどうでもいい。今、問題なのは監視をどうすればいいかだ。縁談は送ってきたバカ共を全員殺せば解決するが、監視はいい案が全く思いつかない」

「殺して解決だけはやめてください……人を使うのはダメなのですか?」

「裏切る可能性がある以上、人を使いたくない」

「魔道具は?」

「バカでも勘は鋭い奴がいるだろ。そんな奴は変なところで頭がいいからな、肝心な時に役に立たなくなる。そもそも、魔道具を大量生産できないだろ」

「……お手上げです」



 二週間も頭を悩ませるのが分かる。これは無理だ。いい案なんて思いつくわけがない。これはもう、皇女様の守りを強固にして敵国に拐われないようにした方がいい気がするとブラントは思った。


 フレッドも同じ考えだったようで、そのことをレイビスに進言していた。するとレイビスは、顔を歪めた。レイシアを溺愛しているのに何故?とフレッドの方を見たが、フレッドも意味がわからないようで首を横に振った。



「それだと護衛騎士を増やすことになる。そうなったら、レイシアは窮屈な思いをするだろ。いくら安全のためでも、そんな思いはさせたくない」

「人の心がないと言われていた陛下が、人の心を心配している……」

「死にたいか」

「申し訳ございません!!」



 魔道具に収納している剣を取り出したレイビスに、ブラントは慌てて頭を下げて謝罪すると、レイビスは剣を魔道具の中に戻した。思ったことが言葉に出ないように気をつけないといけない。皇帝補佐官でも代わりがいるのなら簡単に首が飛んでしまう。前補佐官がそうだったように。



「前補佐官のように首が飛ばないよう気をつけるんだな」

「……何故、前補佐官の首を飛ばしたんですか?」

「横領だ」



 なおのこと、ブラントは発言に気をつけようと決意した。レイビスの癪に障り首を刎ねられたなんて、恥晒しもいいとこ恥晒しだから。


 その後もしばらく、レイビスとブラントとフレッドの3人は知恵を絞りあったが、監視するためのいい案は浮かばず、休憩しようとフレッドがレイビスにお茶を淹れようとした時、執務室の扉が荒々しく開け放たれた。



「何事だ。人の執務室の扉を荒々しく開け放つほどのことが起きたのか」



 入ってきたのは息を切らした騎士の一人だった。ブラントは顔も名前も覚えがなかったため一般騎士だと結論づけて、殺されないといいなと騎士の身を案じていると、息を切らしながらもとんでもないことを報告した。



「こっ、皇女様が、何者かに、襲撃されました……っ!!」



 その報告を聞いて、レイビスはレイシアの居場所を騎士に聞き、レイビスの顔を見て怯えきった騎士が何とか居場所を言うと、物凄い速さで執務室からいなくなった。


 追加の騎士を向かわせた方がいいか、ブラントはフレッドに尋ねると「必要ないでしょう。皇女様のそばにはアルベルトがいますし、陛下も向かわれたので」と言って、報告にきた騎士にレイビス用に淹れたお茶を飲むように渡していた。

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