五歳の誕生日
メイドと執事にいじめられたり、私が次の皇帝だとパパに宣言されたり、皇妃と異母兄の恨みを買ってしまったり、出来上がったばかりの新しい部屋に皇妃と異母兄が突撃してきて部屋をめちゃくちゃにされたりと色々あったけど、パパが皇妃と異母兄に私との接近禁止命令を出してからは平穏な日々だった。
パパとお茶したり、遊んだり、話したり、メイドと護衛騎士達と一緒に散歩したり、話したり、遊んだりして誰かに邪魔されたり、嫌なことをされることなく二年が経った。
そんな二年が経った今日は、私の五歳の誕生日だ。ようやく、私が何の属性魔法持ちで、魔力量がどれくらいなのか分かる特別な日。楽しみだったせいでいつもより眠れなかったけど、眠さは全くない。
そんな特別な日だからとメイド達は張り切っていて、お風呂に入って念入りに綺麗にしてもらって、その後はマッサージをしてもらった。マッサージが終われば全身ケアをされて、ドレスに着替えて軽くお化粧をして、最後に髪を整えてもらって準備完了になった。
騎士の人達やメイド達に「最高に可愛いです!」、「とても似合っていますよ」、「誕生日おめでとうございます!」と褒められたり、お祝いされたりして嬉しい気持ちになっていると、扉がノックされて正装をしているパパが入ってきた。
「シア、準備はいいか?」
「うん!」
「なら行くか。ああ、でもその前に...誕生日おめでとう。これは俺からのプレゼントだ」
左手を取られて腕に何かを通された。何だろ?とよく見ればブレスレットで、とても高価そうな物だった。
「レイビス・ウォーカー皇帝陛下並びに、レイシア・ウォーカー皇女殿下の御入来!」
パパに抱き上げられて入場したまではよかった。そんなに緊張もしていなかったから。だけど、初めての大勢の人から向けられる視線に、私はガチガチに固まってしまった。
それに気づいたパパが「大丈夫だ。何も緊張しなくていい。シアに何か危害を加えられる者なんかここには一人もいない。もし、そんなバカがいたら俺が殺してやるから心配しなくていい」と慰めてくれたけど、誕生日に人殺しをしようとしないでほしい。せっかくの気分が台無しになる。
玉座に座ったパパの膝の上に座らせられて始まった私の誕生日パーティーは、退屈の一言に尽きた。挨拶に来る人全員、欲を持った目で見てくるから仲良くしたくないし、話も長くてつまらない。そのせいで、あんなに眠くなかったのに眠くなってきて欠伸を零すと、その場の温度が一気に下がった。
「いつまでどうでもいい話を長々と聞かせ皇女の貴重な時間を奪う気だ?いつからお前達はそんなに偉くなった?皇女に話しかけていいなんて許可を俺は出していないのにベラベラ話しかけて無礼だと思わないのか」
ああ……暴君が始まった。欠伸は我慢した方がよかったみたい。そばに立っているアルベルトの顔が青くなってる。
でも、退屈だったんだもん。これがあとどのくらい続くかも分からなかったし、早く終わらせて私は水晶を触りたかった。属性魔法が何なのか知って、早く魔法を使ってみたいから。
「パパ」
「どうした?」
「水晶触りたい!」
「お前は本当に偉いな。ゴミ共の挨拶なんか聞く価値がないと分かっている。流石俺の娘だ」
いや、そんなこと思ってません。早く属性魔法が何か知りたいだけです。
早く早くとパパを急かして、運ばれてきた水晶は想像していたよりも小さかった。大きい水晶じゃなくて、占いとかで使われてそうなサイズ。
じーっと水晶を興味深く見ていれば、パパから「これに手をかざしてみろ。属性魔法と魔力量がすぐに分かる」と言われ、言われた通りに手をかざした。
すると、水晶が強く光って文字が現れた。この世界の文字がまだ分からない私は、何て書いてあるのか分からなくてパパの服を引っ張ってどうだったのか聞こうとしたら、パパが声を上げて笑い始めた。
「ほら見ろ!光属性と氷属性の複属性持ちに魔力量が俺よりある!次の皇帝は誰が何と言おうとレイシアだ!」
私が複属性持ちで、パパより魔力量があることが大変愉快なんだろう。パパはご機嫌に笑っている。こんなパパ初めて見た。
いやそれよりも、氷属性の魔法は簡単にイメージできるけど、光属性の魔法って何なんだろう?回復?それとも、光を使った攻撃魔法?分からないことだらけでう〜ん…?と考えていると、強い視線を感じた。何だろうと、その方向に視線を向けて後悔した。
視線の先には、皇妃と異母兄がいた。皇妃は今にも殺しにかかってきそうな怖い顔をして私を睨みつけていて、異母兄は憎たらしい者を見るような目で私を睨んでいた。多分、何でこんな奴が…とか思ってそう。
他の貴族も同じ反応なのかなと周りを見渡したら、口を大きく開けて驚いている人が多かった。何で?
「シア、俺の可愛いシア」
「パパ…?」
「ああ、こんなにもいい日はないな。シアが皇帝になることを元老院も貴族共も文句が言えなくなった」
最高の気分だ…!と、私を高く持ち上げてご機嫌なパパは、さっさと皇太子の即位式をしようと張り切っている。
そして、属性魔法も魔力量も分かればここにいる必要はないからと、帰ろうと立ち上がろうとした時「納得いきません!!」と大声で誰かが叫んだ。
「皇妃の分際で声も態度もデカいな」
「ディアンはどうなるのですか!?次の皇帝の第一継承者のディアンがいるのに、第二継承者の皇女なんかを皇太子にするなんて…!!」
「お前の息子が第一継承者?笑わせるな。皇妃の子どもと皇后の子ども、どちらが王位に最も近い存在かと言われたら皇后の子どもだと何度言えば理解する?魔力量はカスで属性魔法も満足に使えない、お粗末な学しかない、全てにおいて皇女に劣っている皇子が、皇帝になんかなれるわけないだろ」
この上ないほどご機嫌だったのに、一瞬で不機嫌になってしまった。よっぽど皇妃は異母兄を皇帝にしたいらしい。あの様子なら、いつか異母兄を皇帝にさせるために暴走しそう。
そうなったら、私の身が危険な目に遭うんだろうな。魔法を上手く扱えるようにしておかなきゃかもしれない。近いうちにその訓練が始まるだろうし、その時は頑張ろう。
なんて決心をしていると、パパは私を抱え直してパーティー会場から出てしまった。いつもならまだ何か言ったり、魔法をぶつけたりしているのに珍しい。
「シア、すぐに戻るから待っていろ」
「どこ行くの?」
「さっきまでいたパーティー会場だ」
部屋に戻って私をメイドのハンナに預けると、パパは会場へ戻って行ってしまった。会場にいる人達は大丈夫かな?氷漬けにされないといいけど。
「皇女様、食堂に移動しましょう。今日は料理長がいつも以上に腕を奮って夕食を作っていたんですよ!」
「わぁ…!楽しみ!」
ハンナ達と食堂に移動して十分くらい経った頃に、パパは戻ってきた。服のどこにも返り血がついていないから、多分暴れたりはしていなさそう。脅したくらいかな。
パパが座っていた私を抱き抱えて自分が椅子に座り、私を膝の上に乗せると「何が食べたい?」と聞いてきて夕食が始まった。
デザートは料理長からの誕生日プレゼントで、大好きなイチゴのタルトだった。タルトを食べ終わると、メイドと護衛騎士の皆がお祝いの言葉と一緒にプレゼントを渡してくれて、楽しくて最高の誕生日になった。