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暴君陛下

 レイビスの機嫌は、過去一と言っていいほど最悪だった。



「何故こうもこの帝国の元老院や貴族は使えない奴が多い?ディアンが皇帝に相応しい?起きたまま寝言を言うなんて随分と器用なことができる。ああ、それとも…それが遺言か?」



 レイビスが皇子のディアンではなく、皇女のレイシアを皇帝にすると元老院や貴族達に宣言した。そこまではよかった。問題はそれからだ。

 

 元老院も貴族も大反対。女は皇帝に相応しくない、近隣国から縁談が来ているのなら近隣国との仲をさらに深いものにさせるために嫁がせた方が国のためになる。


 そんな言葉が飛び交い合い、仕舞いには元老院の一人が「ディアン皇子はこの帝国を治めることに関してとても優秀なのに対して、レイシア皇女にはその才能はないと伺っておりますぞ。レイシア皇女なんかを皇帝にした日にはこの国は滅んでしまう」と言ったせいで、レイビスは自分がこの上なく怒っていることを馬鹿でも分かるようにと会議室一帯を凍らせ、元老院や貴族達に当たるスレスレに雷を落とした。



「王族に対して“なんか”とは王族侮辱罪で殺されたいらしいな。ブラント」

「はい」

「出ていろ。そして、誰も出入れできないようにしろ。俺がお前の名をもう一度呼ぶまで」

「陛下、お言葉ですがここにいらっしゃる方々は帝国に必要不可欠な重鎮達です」

「こいつらがか?いくら重鎮でも言っていいことと悪いことがあるだろう。それも分からないような奴らがこの帝国に必要不可欠?それなら、レイシアが皇帝になる前に俺の代で帝国は終わったな」



 嘲笑しながら、元老院や貴族達の足を逃げないようにレイビスは凍らせた。そして、嘲笑とは打って変わって、恐ろしい悪魔の様な笑みを浮かべて立ち上がった。



「皇后の子どもと皇妃の子ども、どちらが次の玉座に近い存在かと問われたら、皇后の子どもに決まっているだろ?あと、女は皇帝に相応しくないと言ったな。なら何故、俺の時は俺ではなく女のレイチェルを皇帝にしようとしたんだ?女は相応しくないと言ったくせに、矛盾しているな」

「……ご自分が何と呼ばれているかご存知ですか?」

「暴君、悪魔、魔王、覇王と色々呼ばれているのは知っている。どれか一つに統一してほしいものだな」

「知っているのであればそれが理由ですよ…慈悲の欠片もない皇帝なんて恐ろしいでしょう」

「なら、慈悲を見せればいいのか?それなら、ここでみっともなくレイシアに誠心誠意謝りながら命乞いしてみろ。そうすれば命だけは助けてやる」

「それが慈悲だとは誰も思いません……」



 レイビスの暴君っぷりに頭を抱えながら、補佐官になってまだそんなに経っていないブラントでも、誠心誠意謝罪し、命乞いをした後に、レイビスが何をする気か分かった。

 

 殺さない代わりの罰として、身分の剥奪をするだろう。確実に、数日後にはここにいる重鎮達は今の身分から一転して平民になる。生まれて今までずっと高位貴族だった重鎮達にとって、それは地獄でしかない。

 

 まず、重労働なんかできるわけがない。歳を取っているし、なにより、自分はこんなことをする身分じゃないというプライドで文句を言いまくり、周りから嫌悪されるだろう。稼ぐことができず、食べ物を買えない。しかも、嫌悪されているから周りは助けてくれない。そう遠くない未来、餓死するのが想像に容易い。

 

 殺すのはダメですと遠回しに言っても、レイビスは変わらず重鎮達を絶対に殺す気らしい。身一つで平民になった重鎮達が生きられるはずがない。今ここで殺された方がマシだと思えるような扱いを受けるはずだからだ。

 

 それを分かっていて、命だけは助けてやるなんて言っているんだから残酷すぎる。



「ほら、どうした?死にたくないんだろ?それとも、気が変わったか?なら、殺してやる。思う存分痛めつけた後にな」



 元老院や貴族達に当たらないギリギリの場所に雷を落とし、楽しそうに笑っていると、コンコンと扉がノックされた。

 

 すると、レイビスが雷を落とすのを中断し「入れ」と命令した。



「会議中に失礼致します。陛下、皇女様のお部屋に皇妃様と皇子様が許可なく入室されました」


 

 皇帝の許可なく皇妃と皇子がレイシアの部屋に入った報告で、レイビスの魔力が数秒暴走した。何人かの貴族は下半身まで凍ってしまったり、手や肩、腕に雷が当たり火傷を負った者が出てしまった。


 ブラントの目の前にも雷が落ちて、驚きのあまり気絶するかと思った。

 


「護衛とメイド達は」

「いち早く気づき、即座に侵入を防いでおります。皇女様は隣の…陛下の部屋へとアルベルトと共に避難をしました。ですので、皇女様はお二人に接触しておりません」

「二人は今どうしている」

「まだ皇女様の部屋におられます」

「レイシアはそのまま俺の部屋にいさせろ。二人には“皇女に対して接触禁止令を出す。そして、許可なく皇女の部屋に入った処罰は後日言い渡すから今すぐ皇女の部屋から出て行け”と伝えろ」

「かしこまりました」



 一礼をした後、執事長のフレッドは静かに会議室から退室した。

 

 元老院と貴族達の発言と態度だけで今日はもう過去一最悪な機嫌だったというのに、挙句の果てに、皇妃と皇子が一番の地雷源を踏み抜いてくれた。今日は厄日かもしれない。ブラントはキリキリと痛む胃を押さえつつ、巻き込まれないように部屋の隅へ身を寄せた。


 そんな中、レイビスは心底イライラしていた。どいつもこいつも、人を不快にさせる天才だと思いながら、これからどうしようか思案していた。



「いっそ、皇妃も皇子も殺すか」

「いくら皇帝陛下でも、それは到底許されぬ行為ですぞ!!」

「お前は……ああ、バーネット公爵。お前といい、娘といい、孫までも使えないゴミだな。お前の孫であり、一応俺の息子のディアンは本当に俺の血を引いているのかと思えるほど浅慮だ。まあでも、お前の娘に育てられているから当然と言えば当然か」



 許可なく帝王学を少し学んだのにも関わらず、確かに皇子であるディアンは本当に浅慮だったなと、アルベルトは皇帝の発言に同意した。予算が足りなければ帝国民が納める税を上げればいい、近隣国との仲に亀裂が入ったのならその国を攻めて帝国のものにすればいいと、とにかく安直だった。

 

 帝国民が納める税を上げれば生活が苦しくなる。そうなると、帝国民の反感を買ってしまい、革命を起こそうとする者が現れる。どうせ上げるのなら貴族税なのに。貴族は多少税を上げられたところで難なく払える。

 

 その考えにいかない時点で、ディアンは皇帝には相応しくない。もし仮に、ディアンが皇帝になることがあれば、欲深い貴族共のいい操り人形になって終わるのが目に見えていた。レイビスもそれが分かっているからこそ、ディアンを皇帝にする気はないのだろう。



「魔力量だけでも俺と同じであればよかったのに、カスレベルの魔力量しかない、属性魔法も娘と同じ風。浅慮なお前の孫は一体何の役に立つんだ?将来行われるであろうレイシアの魔力調整の為の的か?」

「失礼ながら、皇女様がどの属性を持ち、どのくらいの魔力量があるのか分かっておりません。そんな中で、ディアンより下と決めつけるのはそれこそ浅慮では?」

「……本気で言っているのか?それなら救いようのないとんだ大バカだ。流石の俺でも、お前のことを可哀想だと思った。複属性持ちで魔力量は帝国一多い俺を父に持ち、光属性の魔法が使え、魔力量も俺に引けを取らない皇后を母に持つレイシアが、ディアンより下になると思うか?」



 皇女であるレイシアの属性魔法と魔力量が分かるのは二年後の誕生日。属性魔法は分からなくとも、レイシアは確実に魔力量が多いのは考えなくても分かることだ。


 流石のブラントも、皇帝であるレイビスが元老院や貴族達を使えないと言うのが分かった気がする。確かに、これは酷すぎるほどのバカだ。よく公爵家の現当主で居続けることができているな、とある意味感心する。多分、補佐する人間達が優秀なのだろう。


 そう物思いに耽っていると、雷がまた落ち始めた。不機嫌が最高潮に達しているレイビスが、いつ拘束している元老院や貴族達を殺すか分からない。ブラントはこの状況をどうしようかと頭を必死に回して考えていると、また扉がノックされた。



「今度は何だ」

「伝えましたが、皇妃様も皇子様も私が嘘を言っていると思っておられるようで嘘をつくなと言って部屋から出て行きません。そして、皇妃様があまりにも怒鳴り声をあげ魔法を使って物を壊しているため、皇女様が怖がって陛下に会いたいと泣いておられます」

「今すぐレイシアの部屋に行く。お前はお茶と菓子を用意しろ」

「かしこまりました」

「レイシアのおかげで命拾いしてよかったな。心の底からレイシアに感謝することだ」



 そう言って、レイビスはさっさと部屋から出て行った。元老院や貴族達はふぅ……と深いため息を吐いて、怪我の手当や氷の拘束をどうにかしろと騒ぎ始めた。


 レイビスが居なくなった途端に態度がデカい…とブラントは思いながら、貼り付けた笑みを浮かべて「医者と、すぐに溶かすためのお湯をご用意致します」と言い、腹いせに熱湯を用意して、それを思いっきり足元にぶっかけてやった。

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