新しい部屋のお披露目
あの事件から一ヶ月半、ようやく私の部屋が完成したそうだ。パパからは「楽しみにしていろ」と言われたから、期待がさらに膨らんだ。
部屋を早く見たくて、いつもより早いペースで朝ご飯を食べた後、部屋を見せてと急かす私に、ふっと笑いながら抱き上げたパパは隣の部屋へと移動した。
「ここが今日からシアの部屋だ。そこの左奥の端にある扉は俺の寝室に繋がっている」
「わぁ……!!」
新しい自分の部屋は、前世で漫画とかでよく描かれていた豪華絢爛で、可愛らしいお姫様の様な部屋そのものだった。
天蓋の付いたベッド、ふかふかそうなソファーにクッション、ドレッサーに、沢山のおもちゃやぬいぐるみが部屋にあった。
中でも、首に黒レースのリボンを巻いた私とパパと同じ目の色のうさぎのぬいぐるみが可愛くて、つい駆け寄って抱きしめた。
うさぎのぬいぐるみの手触りはふわふわしていて、ずっと触っていられるほど最高だった。イヌやネコのぬいぐるみもあって、それもうさぎと同じく可愛くて手触りがよかったけど、カラーリングが気に入ってうさぎを手放さずに抱きしめたままおもちゃを物色していると、パパに声をかけられた。
「その綿……ぬいぐるみが気に入ったのか?」
「うん!かわいい!」
「そうか。俺はこれから会議があるから、終わるまで部屋を見ているといい。ドレスも靴も装飾品も、シアに似合うと思ったものを用意させたから退屈はしないだろ」
「早く帰って来てね!」
「ああ。戻ったら、遊び相手になってやる」
私の頭を一撫でした後、パパは部屋から出て行ってしまった。早く帰って来て遊んでくれると言っていたし、パパが選んだドレスがどんな感じなのか気になって衣装部屋の扉を開けると、あまりのドレスの多さに驚いた。
この量は、自分が成長して着れなくなるドレスの方が多いんじゃないかと思ってしまう程、衣装部屋にはドレスが溢れ返っていた。
靴はドレスより多くはなかったけど、それでも結構な数の靴がある。前世の私だったら絶対に見ることのなかった光景に見蕩れていると、メイドの一人のハンナが話しかけてきた。
「いかがですか?皇女様」
「すごい、いっぱいある……」
「ふふっ、そうですね。あれでしたら、お着替えなさいますか?この部屋にある物全て陛下自ら皇女様が着たら似合うだろうとお選びになった物ですので、きっとお喜びになられますよ」
ハンナの提案に乗って早速、沢山のドレス達を見て回った。その多くがふわふわとしたレースがふんだんに使われているドレスで、どれもこれも可愛くてどれを着ようか大いに悩んだ。そんな私を、ハンナとシルビアは微笑ましい顔で見ていた。
悩みに悩んで選んだドレスは白と水色の二色を使った可愛いドレスで、ハンナとシルビアに手伝ってもらいながら着れば「素敵ですよ!」と褒めてくれた。
確かに、ふわふわしてレースがふんだんに使われているこのドレスは今世の私にはよく似合っていて、パパのセンスがいいことがよく分かった。
鏡の前でポーズをとると、ハンナとシルビアがキャーキャー言ってくれるから、しばらく色んなポーズをして楽しんだ。
そして、ポーズをとるのに飽きてしまって、まだ見ていないアクセサリーがある方へいくと、アクセサリーも結構な数が収納されていた。キラキラとして可愛いデザインの物がいっぱいあって、これ総額いくらしたんだろ……と思った。怖くて総額がいくらしたのか聞けないけど、一つ一つが目が飛び出でるほどの額したはずだ。
「皇女様、アクセサリーはどれになさいますか?」
「ん〜と……これ、これ着けたい!」
「かしこまりました」
今着ているドレスに似合う物をハンナとシルビアが選んで目の前に並べてくれた。その中から、ヘアアクセを選んで髪をハンナ達が結んでくれようとした時、隣でバンッ!!と激しく扉が開く音がしたかと思えば、衣装部屋の扉も勢いよく閉ざされた。
何があったんだろう?とハンナとシルビアを見ると、2人とも警戒したような目で閉ざされた衣装部屋の扉を見ていた。何だか嫌な予感がするなと思っていると「そこを退きなさい!!私やディアンを誰だと思っているの!?」と叫ぶ声が聞こえて、ハンナとシルビアが即座に私を自分達の背に隠した。
「陛下が許可した人間じゃないと部屋に入ってはいけない決まりなのに、どういうこと?陛下が許可したの?」
「ありえないわよ。無断で来たに決まってるわ」
「それなら、皇女様を陛下の部屋に連れて行った方がいいんじゃない?」
「二人と鉢合わせることになるのにどうやって?騎士達が守るだろうけど皇女様の身に、もしものことがあったらどうするの」
切羽詰まった様子で、ハンナとシルビアがコソコソと話していると、ノックもせずにアルベルトが慎重に部屋へ入ってきた。
「皇妃様と皇子様が部屋に入って来ました。メイドと護衛騎士でこれ以上の侵入を防ごうとしていますが、恐らくそう持ちません。ここは危険ですので皇女様を陛下の部屋へ。その際、二人の視界に入らないよう皇女様を隠して移動してください」
「だったら、何か大きな布に包んだ方がいいわね」
「それでしたら、私のマントを使って下さい。あの二人に魔法で攻撃されても丈夫なので怪我を負うことはないはずです」
「分かったわ。...皇女様、失礼しますね。陛下の部屋に入るまで少しの間我慢してください」
テキパキとした動きであっという間に、私はアルベルトのマントに包まれた。それでも、息をするために顔は隠せなかったから、あの二人を見なくていいように私はうさぎのぬいぐるみで顔を隠した。
そして、シルビアに抱き抱えられてアルベルトの背に隠されながら衣装部屋から出ると、怒鳴り声が鮮明に聞こえ始めた。
「メイドと護衛騎士風情が私達に指図なんて身の程を弁えなさい!!」
「この部屋はレイシア皇女様のお部屋です。そして、この部屋に入るには陛下の許可が必要です。お二人はその許可を貰っていませんよね?」
「異母妹の部屋を訪ねるのに許可など必要ないだろう。僕達は同じ皇族だ」
「ディアンの言う通りよ!!さっさとそこを退きなさい!!」
命知らずというのは、この二人のことを言うんだろう。危害を加えれば首を飛ばすとパパは忠告したのに、堂々とパパの許可無く私の部屋に入るのはパパに首を飛ばされても文句は言えない。バカだバカとパパから聞いていたけど、ここまでバカだとは思わなくて正直、引いてしまった。
二人は騎士とメイド達に怒鳴るのに夢中だったから、私達は気づかれることなくパパの部屋に移動できた。それでも、あの二人が私の部屋にいる限り安心はできない。
メイドと護衛騎士がこれ以上、中に入らないようにしてくれているようだけど、あの勢いじゃ無理やり部屋の中を見て回って私を見つけるまで探すだろう。パパの部屋に入ってくる可能性も高い。嫌だな、あの二人と対峙なんてしたくない。絶対嫌なこと言ってくるに決まってるし。
「皇女様、大丈夫ですか?」
「うん……」
「執事長が今、陛下に皇女様の部屋に皇妃様と皇子様が来たことを報告に行ってくれているそうですから、もう少しの辛抱ですよ」
パパに報告に行ってくれたのなら、本当にもう少しの辛抱だろう。早くあの二人をどうにかしてほしい。急に大きくなった怒鳴り散らす声にビクッとしてしまい、持っていたお気に入りのうさぎのぬいぐるみを強く抱きしめた。




