視察六日目、七日目
「あっという間の二日間だったね」
「初めての城外は楽しかったか?」
「うん!楽しかった!」
どれもこれも前世ではアニメや漫画といった二次元でしか見ることはなかった世界観だったから、この五日間ははしゃいでばっかりだった。
途中魔物が出た時は少し怖かったけど、楽しかった思い出がほとんどだ。帰り道で魔物に遭遇しなきゃいいなと願いながら、シオシオになっている祖父にバイバイと手を振った。
パパ曰く、一日で政務を片付けられなかったらしい。だから、残りを祖父に任せるそう。政務を任せてしまっていいのかと思ったけど、粗方は指示を出しているから問題ないらしい。
思いっきりパパにこき使われてて可哀想だと同情したけど、補佐官の方がもっとこき使われているからそれよりはマシかと思って頑張ってと応援だけはした。
「帰りはナバール王国に泊まって家に帰るの?」
「いいや。ナバール王国じゃなくて、ウォーカー帝国の国境近くにあるルーナン領地で今日は休む。ソネッサ領地は明日、観光予定だ」
「観光するの!?」
「人が起きている時間に堂々と城に帰ったら視察に行ったことがバレるから真夜中に帰るために観光するんだと」
「やった〜!」
前世でたまに温泉旅行に行って疲れを癒したりしていたから、温泉があるソネッサ領地で観光できるのは嬉しい。温泉に入るのは多分できないだろうけど、足湯があれば足湯くらいには入りたい。
だから、足湯はあるのかクラウスに聞くと、あると言われたから大喜びではしゃいでしまった。そんな私を見たパパが「そんなに足湯が好きだったのか?」と聞いてきた。
大喜びではしゃいだのは前世で温泉が好きだったからだけど、今世は温泉に全く縁がない生活を送っていたから私がこんなにも足湯に喜んでいることを不思議に思ったんだろう。
ちょっとやらかしたかもしれない…と内心焦りながら、文系座学を教えてくれているラビリス伯爵夫人からソネッサ領地の温泉を詳しく聞いてて気になっていたとそれらしいことを言って誤魔化した。
すると、奇跡的にもラビリス伯爵夫人はソネッサ領地の温泉に定期的に入りに言っているらしい。2人ともだからかと納得してくれて、助かった…と一息ついた。
ルーナン領地にはいつも寝る時間くらいに到着した。私は眠くてウトウトしていてほとんど覚えていないけど、パパに寝てていいと言われて抱えられて運ばれたのは覚えている。
起きた時には次の日で、ルーナン領地を出発していたからルーナン領地がどんな所だったのか見れなかったのが残念だ。
ソネッサ領地にはお昼すぎに到着した。ウェザリア国の王都より賑わっていて、貴族の人達も護衛を連れて楽しそうに観光している。
イヤリングをつけてもらって馬車から降りれば、果物のいい香りがした。周りを見れば、近くに果物を売っている露店があって、グルニカ領地の果物かなと思いながらパパとクラウスを引っ張って観光に向かった。
「温かい〜!」
「へぇ、足だけなのに結構気持ちいいな」
「冷え性改善、血行促進、疲労回復、リラックス効果等があるらしい」
パパとクラウスを引っ張って向かった先は足湯ができる場所だ。
何も浮かべていない足湯、薔薇を浮かべている足湯、柑橘類を浮かべている足湯、林檎を浮かべている足湯と数種類の足湯があって驚いた。
薔薇の足湯や柑橘類の足湯は見た目や香りがいいから貴族にも人気らしく、商売上手だと感心した。
服が濡れないように私はスカートを上に上げて、パパとクラウスはズボンの裾を捲ってから柑橘類の足湯に入った。
適温を保っているお湯が温かくて気持ちがいい。柑橘類のいい香りも楽しめて、足湯に来てよかった。
しかも、このお店は冷めないように保温効果がある魔道具を使っているらしくて、侯爵以上の階級の貴族が経営しているお店なんだと思った。
パパもクラウスも足湯は初めてだったみたいで、思っていた以上に気持ちがよかったのかパパは説明文をじっくり読んでいて、クラウスは感心しながら足湯のお湯を観察していた。
「全種類試したけど、柑橘類が一番よかったな」
「見た目なら薔薇だ」
「赤、白、オレンジ、ピンクと色鮮やかだったよな」
「どれも最高だった!」
歩き回って疲れ気味だった足が軽い。温泉に入れば体の疲れも取れるんだろうけど、他にも行きたい場所があるし、時間的にも無理だから次来た時の楽しみに取っておこう。
足湯の後は、ソネッサ領地で人気のスイーツタルトを食べたり、お土産にと売られていた日持ちのするお菓子を護衛騎士とメイドの皆に買ったりて時間いっぱい楽しんだ。
◇◆◇
「おかえりなさいませ」
「ああ。何か問題は起きたか?」
「特に起きていませんよ。皇妃様、皇子様のお二方にもこの視察はバレておりません」
「ならいい」
深夜、裏門からこっそりと静かに帰ってきた馬車を出迎えたブラントは、簡潔に一週間の報告をした。
その間に、ぐっすりと寝ているレイシアはメイドに運ばれて部屋へ戻って行った。クラウスの方も「眠いから俺も戻る」と言って部屋へと戻って行き、レイビスと二人になってしまった。
こんな深夜にこの暴君と二人きりなんて、周りの雰囲気もあって普段より怖さが倍増してしまって胃が痛くなったブラントは後で胃薬を飲もうと思った。
「そういえば、グレイクからシアにとこれを貰った。厳重に保管しておけ」
「え、お会いになられたんですか!?」
「鉱山で待ち構えていた」
「ああ…ちなみに、この箱には何が入っているんですか?」
「最高品質のブルーダイヤ。ピンクダイヤの方は面会の日にシアに渡すらしい」
「そんな貴重すぎるものを私に渡さないでくださいよ…!!」
「うるさい。人が来たらどうする。縫いつけられたいか」
とんでもない物が今、自分の手の中にあると思うとキリキリと胃が更に痛くなったブラントは、どこでこれを保管すればいいのか頭を悩ませた。
もし、無くなったなんてことになった場合、間違いなく自分の首は飛ぶ。なんて物を自分に渡してくれたんだとレイビスを恨みながら、ブラントは朝イチで執事長のフレッドに相談しようと決めた。




