視察四日目①
「痛ってぇ…」
「…大丈夫?」
「シア、放っておけ。自業自得だ」
「寝落ちして一緒に寝ただけでぶん殴るとか有り得ねぇだろ」
「い゛っ!?!」という声と大きな音に驚いて飛び起きた。辺りを見渡すと、クラウスがパパに殴られていてギョッとしていれば、パパが私に気づいた。
「シア、おはよう」といつもの挨拶をされて、アンバランスさに頭がパニックになりかけた。
クラウスは殴られたことにキレ出したけど「寝るまでいていいとは言ったが、ここで寝ていいなんて言っていない」というパパの正論に何も言えなくなっていた。
そして、今が次の日の朝だと知って全員そんなに寝るほど疲れていたんだ…と驚いた。でも、よく寝たおかげで体が軽いから疲れは取れたようで、今日の視察は問題なく行けそうだ。
身支度を整えた後、朝食を食べ終えて馬車に乗り込んで鉱山の元へ向かっている道中、殴られたことに納得がいかないのかクラウスがムスッとしながら殴られて赤く腫れている頬を押さえて痛いと文句をパパに言った。
パパは知らんぷりで、むしろ「そんなに痛いのならさっさと治せばいいだろ」とまた正論をぶちかましていた。
そんなパパに、何言っても無駄だと察したのかクラウスは舌打ち一つした後、光属性の魔法を使ってあっという間に赤く腫れた頬を治そうとして、やめた。
どうしたのかと思っていると、私に頬を差し出してきてん??とクラウスのよく分からない行動に困惑した。
「ん」
「…?何?」
「練習、やってみろ」
「私が治すの…?」
「建国祭の日、帝国民にお披露目されるらしいし光と氷属性の魔法が使えるって見せなきゃいけねぇんだからいい練習だろ」
「そ、そうなの!?」
「は…?知らなかったのか?」
二人でパパを見ると、パパから「…言い忘れてた」と言われてズッコケそうになった。パパでも忘れることがあるんだと、意外な一面を見れて新鮮な気持ちになりながら、光と氷属性の魔法が使えることを見せなきゃいけないのならとクラウスの頬に手を伸ばした。
そして、いつものクラウスの顔を思い出しながら自分の手に魔力を集めて怪我が治っていくイメージをした。
すると、手元から神々しい光が出てクラウスの頬はだんだん赤みと腫れが引いていって綺麗な頬になった。それを見て手を止めると、クラウスは自分の頬を触って「お、完璧に治ってるな」と言ってホッとした。
「イメージだけでここまで使えるんならお披露目の時に魔力無感知症だってバレる心配はねぇな」
「魔法を使うまでに時間がかかってるのにか?」
「緊張でって言えば納得するだろ」
「…まあ、小言は言ってくるだろうがそれで誤魔化せるのは間違いないな」
お披露目の時に、魔力無感知症がバレないのならよかったと一安心して、窓の外の景色を見た。見慣れてしまった木だらけの森の景色に、まだ着きそうにないなと思っていると、馬車が強く揺れた。
その拍子に、転げ落ちそうになるとパパが急いで抱き留めてくれて、周囲を警戒していた。
「魔物か?」
「気配からしてそうだな。中にいても馬車ごと潰されるだけだし、出た方がいい」
「出たらすぐにお前が殺れ」
「分かった」
簡潔にクラウスと話して私の目を塞ぐと、すぐに馬車から出た。すると、唸り声が聞こえてビクッとしていれば、すぐに燃えているような音が聞こえて火属性の魔法を使ったんだと分かった。
本当に魔物がすぐそばにいるんだと思うと怖くなってパパの服を掴むと、背中を優しくポンポンされて「大丈夫だ」と慰められた。
「もういいぜ」
「結構魔法使ってたけど、そんなに強い魔物だったの…?」
「いいや、Bランクの狼の魔物。魔法を連発させてたのは群れで行動するタイプの魔物で数が多かったから」
「群れで行動するのもいるんだ」
「大体は単独だが、動物の魔物は群れるのが多いな」
へぇ、と勉強になる二人の解説に耳を傾けながら、周囲を見て壊れた馬車が目に入った。
馬車が壊れたら鉱山に行けないし、帰れないんじゃ…?と最悪な想像をして顔を青くさせながら馬車が壊れていることを伝えると、クラウスが「転移するか」とサラッと言ってえ?とパパと揃ってクラウスを見た。
「転移させる魔道具があるのか?」
「あるぞ。目的地まで転移させることは無理だけどな。これは数キロ先まで転移させる魔道具。数が少ねぇから鉱山の近くまで転移したらなくなるな」
「とりあえず、近くまで行けるのならいい。帰りを考えるのはあとだ」
「んじゃ、早速行くか」
腰が抜けていた馬車を運転していた人をクラウスが腰に抱えると、どこかを掴んでおくようパパに言っていて、パパはクラウスの左腕を掴んだ。それを確認したクラウスは、転移させる魔道具を取り出して割った。
すると、浮遊する感覚がして、気づけば森なのは変わらないけど焦げた木や壊れた馬車が見当たらないから本当に転移したようだった。
凄い…と感激していれば、クラウスが「次の割るぞ」と言ってパキッと音が聞こえた途端、また浮遊する感覚がした。
それを五回繰り返すと、クラウスが「なくなったからここからは風属性の魔法使って飛ぶぜ。しっかりレイシア抱き抱えてろよ」とパパに言っていて、パパに抱え直された。
「どのくらいで着くんだ?」
「飛べば十分くらいで着くはずだ。歩くんならその倍」
「…落とすなよ」
「んなヘマしねぇよ」
風が吹いたかと思えばパパとクラウスが本当に浮いて、風属性の魔法はこんなことができるんだと応用が色々利くことに感動した。
そして、馬車より早いスピードで飛んでいて、景色がどんどん流れていくからこれなら十分で着くというのも納得だと思った。




