視察一日目②
外が薄暗い時間にソネッサ領地へ着いた。夕食が近い時間に着いたからお腹がペコペコで、早く宿泊先に着いてほしいと思っていると、パパがクラウスから何か受け取っていた。
何だろうと目を凝らして見れば、イヤリングだった。大分可愛らしいデザインのようだけど自分につけるの?と不思議に思いながらパパを見ていると、パパの手が伸びてきた。
「…?何?」
「じっとしてろ」
「変装だ変装。極秘で視察に行くのに、この姿で馬車から降りたらすぐにバレる」
「イヤリングつけただけで変装になるの…??」
「クラウス様特製の魔道具に決まってんだろ」
耳に何かをつけられた感覚がして、あのイヤリングはパパじゃなくて私用だったようだ。パパが可愛らしいイヤリングなんかつけるわけがないのに、勘違いしてしまった自分を内心で笑ってしまった。
ただ、何で急にイヤリングをつけられたのか分からなくて聞けば変装用らしく、これが…?と困惑していると、クラウスが手に持っていたシンプルなドロップイヤリングを自分の耳につけた。
すると、あっという間に目が青色、髪は銀色に変わった。しかも、髪の長さも変わってロングからショートになっている。凄い凄い!と興奮しながら拍手をすれば、嬉しいのかドヤ顔になった。
パパも私のをつけ終わるとドロップイヤリングを自分の耳につければ、赤色の目に金色の髪へ色が変わった。髪の長さはウルフからロングに変わっていて、顔は変わらなくてもカラーリングと髪の長さが変わるだけでここまで別人に見えるんだと感心していると、自分の髪色を確認したパパはげぇ…と嫌そうな顔をした。
「よりにもよって金か」
「皇妃と息子とお揃いになったな」
「やめろ言うな気色悪い」
「ねぇ、私は何色になってるの?」
「赤い目にピンクの髪色になってる」
「長さは肩までだったのが腰まで伸びたな」
そんなに伸びたの!?と驚いて自分の髪を触ると、確かに腰の辺りまで伸びていた。それに、確かに綺麗なピンクの髪色になっていて、おおっ…と感動した。目の色は分からないから、宿泊先で鏡があったら見てみよう。
イメチェンしたことによって新鮮な気持ちになった私は、空腹感を忘れてガラリと変わったパパとクラウスの姿を凝視していた。
元々顔のパーツがいいからどんな髪色や髪型になってもよく似合っている。異性に大変モテるだろうなと、異性に囲まれている二人を想像していれば、馬車が停まった。
どうやら今日泊まる宿に着いたようで、降りる準備をしている二人を大人しく見ていると、一足先に準備を終えたパパに抱き上げられた。
「想像より綺麗な宿だな」
「そりゃ貴族御用達だからな。内観はもちろん、外観にも気を使うだろ」
「凄い…」
外観は貴族の屋敷と変わらないくらい立派で、広い薔薇の庭園もある。パパ曰く、薔薇の庭園は迷路になっているらしい。迷子になるから一人で行くなと注意された。
内観も外観と同じように貴族の屋敷の中という感じで、掃除が行き届いていて清潔感のある宿だった。
「ようこそいらっしゃいました。ご予約名を教えていただけますか?」
「エイデン・グロッドだ」
「グロッド様ですね。お待ちしておりました。早速、お部屋へご案内いたします。お荷物の方はこちらでお運びいたしますので、お任せ下さい」
パパが偽名を名乗って、思いの外あっさり受付が終わると、三人の人が現れて二人が荷物持ち、一人が案内役で予約していた部屋へ案内された。部屋は一人部屋と二人部屋の二部屋予約していたらしく、一人部屋へ「あとでな」と言ってクラウスは入っていった。
二人部屋はベッドが二つ置いてあっても狭く感じさせないくらい広い部屋だった。バルコニーから見える空は、さっきまで薄暗かったはずなのにもう真っ暗になっていた。
「ご夕食はすでに大食堂にご用意されていますので、いつご利用しても大丈夫です。お荷物の方はここに置かせていただきますね。それでは、失礼いたします」
丁寧に一礼した後、荷物持ちの人は部屋を出て行った。パパは私をベッドへ下ろして、置かれた荷物をソファーへ置き直して荷解きを始めた。
その間、私は暇だから部屋の中を見て回ろうとベッドから下りた。
お風呂場は自分の部屋と比べると少し狭く感じたけど、前世で泊まったことのあるホテルと比べれば十分な広さがあった。トイレはそんなに変わりはない。
バルコニーに近づけばちょうど迷路の薔薇の庭園が見えて、複雑そうな迷路に、中で迷って出られない自信しかないなと思った。
ドレッサーを見つけて椅子の上に乗って鏡を覗き込めば、本当に赤い目をしていた。おぉ…と自分の目と髪を見ていると、ひょっこりクラウスの顔が鏡に映った。
「びっくりした……」
「自分の顔に夢中だったもんな」
「いつものクラウスじゃないから余計にね」
「顔の造形は変わってねぇしそこまでだと思うけど…まあいいや。前向け」
何をするんだろうと疑問に思いつつ、言われた通りに前を向けば、クラウスの手が髪に触れた。そして、そのまま器用に編み込んでいって、リボンで髪を結べばあっという間に髪がまとまって凄い…と感動した。
「夕食食べるのにこれで邪魔じゃなくなったろ?」
「うん、ありがとう」
ニコッと笑うクラウスの顔は、満足そうな顔をしていた。ただ、その後ろで、パパがジト目でクラウスを睨みつけていた。




