表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/34

視察一日目①

視察一日目

 翌日の早朝、ほぼ閉じかけの目でパパに抱かれたまま執事長と補佐官とアルベルトの三人に「いってきます……」と挨拶をした。


 クラウスは「眠いんなら寝ろよ」と頬を突いてきて、人の頬の柔らかさを堪能していた。あまりにも頬を突くから眠たさからイラッとしてすぐに叩いたけど。



「一週間で絶対に帰ってきてくださいね。絶対ですからね」

「執拗い。分かってる」



 パパに対していつも大きい声を出している補佐官が、早朝なのと極秘の視察だからか小さめの声でパパに何度聞いたか分からないくらい言っていたことを最後に言い聞かせるように言った。


 顔を歪めて聞き飽きたと言いたげなパパに、補佐官は物申したそうな顔をしていたけど、それを察したパパがさっさと馬車に乗った。


 続けてクラウスも馬車に乗って、一言二言何か伝えて馬車が走り出した。



◇◆◇



 目を覚ますと、薄暗かった外が明るかった。私が起きたことに気づいたパパは、クラウスに飲み物を取るように言って私を起こした。



「不調は?」

「ないよ」

「二時間後に昼食のために馬車を止めて休憩が入る。それまではこれを食べてろ」



 クラウスから受け取ったバケットの中から葡萄のジュースが入った小瓶を手渡されてそれを飲んでいると、追加でドライフルーツが練り込まれたパウンドケーキを渡されたから飲み干した瓶をパパに渡して受け取った。


 分厚めに切られたパウンドケーキはちょうどいい甘さで、ドライフルーツがいっぱい入っているからか一切れで十分満足感があった。


 パウンドケーキを食べ終えると、すかさずパパが口周りを拭ってくれて追加で飲み物がいるか聞かれた。だから、パウンドケーキで持っていかれた水分を補うためにいると答えると、今度はリンゴジュースが入った小瓶をくれた。



「今はどこら辺なの?」

「グルニカ領地の近くで、今日はソネッサ領地まで目指した後、明日には帝国を抜けて明後日の昼頃にウェザリアに到着予定」

「グルニカって確か果物が有名だよね?」

「おー、そうそう。果物を育てるのにうってつけの土地だから他の領地の果物より甘くて美味いのが有名の理由な」

「ソネッサは観光領地だったはず」

「正解。澄んだ湖や景色が絶景の場所が近くにあったり、温泉も湧き出ているから観光場所で有名。貴族もよく観光に来るから宿も貴族用のがあって、今日の宿泊場所には持ってこいだな」



 窓から外の景色を見てみたが森の中で、今どこにいるのか分かるヒントがなかった。ガタガタと揺れる馬車は少し乗り心地が悪いなと思いながら、現在地を聞けばクラウスが教えてくれた。


 帝国の地理の勉強を最近初めて、まだうろ覚えの知識を引っ張り出してクラウスに聞けば当たっていた。しかも、追加でその領地の説明を簡単にしてくれるからいい勉強になって思わず聞き入っていると、お腹に回っていた腕に締め付けられた。


 上を浮けばムスッとしたパパが私を見下ろしていて、パパを仲間外れにしていたことに気づいてこれ以上機嫌を損ねないように慌ててパパにも話しかけた。



「パパはグルニカとソネッサの領地に行ったことあるの?」

「ソネッサはある。切り傷に効く温泉があると聞いて本当かどうか確かめに行った」

「パパでも怪我を負う時があるんだ……」

「SSランクの魔物数匹相手にすれば流石に負う」

「……魔物?」

「ん?魔物知らねぇの?」

「怖がると思ってあえて教えてなかった」

「あ〜……じゃあ、昼食まで魔物のお勉強するか」

 


 聞き捨てならない言葉が聞こえて聞き返すと、私が怖がるといけないからあえて教えないようにしていたとパパからカミングアウトされた。


 それに納得しつつクラウスは、魔物の存在を知ってしまったし…といった感じで魔物の説明をしてくれた。

 

 魔物は八つの属性の中のどれか一つの属性を持って人を襲う化け物のことで、D〜SSでランク付けされているらしい。


 一番弱いのがDランク。つよさは属性魔法を上手く使えるのなら誰でも倒せるレベルだそう。


 Sランクからはソードマスターじゃなきゃ即殺られてしまうレベルで、SSランクはソードマスターでも負ける時があるらしい。


 そんな魔物を数匹相手にしたってさっきパパは言っていた気がする。人間じゃないのかもしれないと本気で思ってしまった。


 そして、魔物は山や森の中に普通にいるらしく、今もいつ魔物が出てもおかしくないそうだ。事前に魔物がいるということを知れてよかった。知らずに襲われたらギャン泣きしていたと思うから。



「ちなみに、王都には魔物は出ないから安心しろ」

「何で?」

「俺の魔道具のおかげ」

「凄い…」

「そういえば、どういう原理をしているんだ?お前が二百年いなかった間、メンテナンスもしていないのに壊れもしない」

「希少価値がバカ高い魔石を使ってるからメンテ要らずなだけだ。中の魔石が壊れないかぎり使える」

「それなら、量産は無理そうだな」



 ちょっと残念そうな声で言うパパに、王都以外は魔物に悩まされているのかなと考えた。人を襲う化け物だって言っていたし、属性魔法を使うのなら深刻な被害があってもおかしくないだろうから、量産できれば問題が解決すると思ったんだろう。


 魔王だ暴君だと言われているパパだけど、貴族以外の帝国民には優しいなと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ