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皇妃と皇子

 クラウスが出発して五日後、執務室にてリディアとディアンの監視をしている騎士から報告が上がり、その内容にレイビスは眉間に皺を寄せた。



「複数の孤児院に食料や玩具を贈った、か」

「……支持を得ようとしているのでしょうか」

「それ以外にないだろ。今、貴族達は皇女派と皇子派に別れている。皇女派の数が多いが、皇子派も決して少なくはない。だから、帝国民の支持を多く得ようとしているんだろうな」

「それは、大丈夫なのですか?」

「問題ない。バカ共が漏らすせいで、もうシアの属性魔法と魔力量を知っている国はいくつもある。だから、建国記念日の時にシアの属性魔法と魔力量を公表する。そうすれば、帝国民は皇子より皇女を支持するだろうな」



 ゲス顔で言うのはやめてほしいとブラントは切実に思った。顔のせいで悪いことをしているように感じてしまう。


 だけど、レイビスの言っていることは尤もだった。いくらディアンがボランティアをして名声を上げても、レイシアの属性魔法と魔力量を公表されたら敵わない。


 貴族達と違って、帝国民は自分達の身の安全や豊かな生活を保証してくれる方に支持をする。身の安全は属性魔法と魔力量で判断され、豊かな生活は帝国民のために何をしたかということが判断材料にされることが多い。


 実際、レイビスが暴君なのに皇帝になれたのもこれが理由だった。


 複属性持ちで魔力量が当時帝国一だから身の安全が間違いなく保証されるし、帝国内のどこかの領地が襲われたら必ず駆けつけて襲った者達を処理しただけでなく、手厚い補償までしてくれたという名声があったため、レイビスを支持する者が多かった。


 今回だって風属性の魔法を持ち、魔力量は少ないディアンと、氷と光の属性魔法を持ち、魔力量は帝国一のレイシア、どちらが身の安全の保証をしてくれるかと帝国民が考えた時、満場一致でレイシアだと思うだろう。


 だから、ディアンが国民の支持を得ようとして行動している姿は、レイビスにとっては無駄な足掻きでしかない。



「少し考えれば分かることだというのに、誰がそんな提案を皇妃と皇子にしたんだ?」

「元老院のメンバーの一人、オーウェン・ブレイトン様です」

「ブレイトン公爵家は皇子派でしたよね?」

「オーウェンが皇子派だから当然だろう」

「公爵家の中で皇女派なのは皇后様のお家のラングフォード公爵家と、バーネット公爵家と不仲のダンヴァーズ公爵家ですね」



 フレッドが付け加えで教えてくれた皇女派の公爵家は2つ。残りの3つは皇子派だからその家はもちろん、周りの貴族達にも注意が必要なことが知れた。


 ブラントは追加しなくてはいけない要注意人物を頭の中で並べて、ふと気になる人物を思い出した。



「ブレイトン公爵家にはレイチェル様がいらっしゃいますけど、レイチェル様も皇子派なんでしょうか…?」

「あれはどっち派でもないだろうな」

「面倒くさがってどっちでもいいと仰っているのではないでしょうか」

「えぇ……」

「あれのことはどうでもいい。敵にもならないからな」



 敵にもならないとレイビスが言うのなら、本当なんだろう。フレッドも深く頷いている。


 要注意人物の中からレイチェルを削除したブラントは、まともな人間が少なすぎると痛感した。もし、大罪を犯した家が出てきたら、処分や処罰を受ける家が大量に出てきそうだ。


 そうなったら、地獄の様な仕事量になって書類に埋もれて寝不足な生活を送ることになるんだろうと思うとゾッとした。


 どうか、どこかの家が大罪を犯したりしませんようにと願っていると、クラウスが出発する前に渡してきた通信用の魔道具が起動した。



「何だ」

〈戦が終わった報告を一応な〉

「もうですか!?」

〈そりゃあ、俺がいるんだからすぐに終わるだろ〉

「被害は?」

〈王族と抵抗した奴は全員殺した。それ以外は降伏すると言って大人しいな。建物は城が少し崩れただけでそれ以外の被害はない。怪我人は出たがもう治したからゼロだ〉

「上々。今後のこともお前に一任するから任せたぞ」

〈分かった分かった〉



 必要なことを簡潔に言って会話が終わればブツっと通信が切れた。移動に三日、戦が終わるのに二日というあまりの最短さにブラントは絶句した。


 ウェザリア国は鉱山を多く所有している。その鉱山から出る金や銀、宝石を他国に高値で売ることで繁栄していた国だ。その国がウォーカー帝国のものになったということは、ますますこの国は繁栄されることが約束された。


 反対していたが、繁栄するのはいいことだとブラントが思っていると、執務室のドアがノックされた。



「誰だ」

「グレイグ・ラングフォードでございます」

「入れ」



 「失礼致します」と一言言って入ってきたのはラングフォード公爵の前当主だった。意外な人物の訪問に三人揃って不思議に思っていれば、信じられない報告をされてあのレイビスも目を見開いて驚いていた。



「それは本当か?」

「間違いありません。ラングフォード家は皇女様を皇帝にすべきだと思っております。それに、嘘偽りはございません。なので、ダンヴァーズ公爵家と手を組み密かに皇子派の家を探っていました」

「その結果が、皇妃を皇后にさせて皇子を皇后の推薦で皇太子にさせようと考えたバカが今の皇后、お前の娘のアリシアを殺害しようと計画を立てているということか」

「その通りでございます」



 頭が痛くなり、その場にいた全員で頭を抱えた。ただ、ブラントだけは問題がまた降ってきた……と胃が痛くなり、胃を押えていた。

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