出発
クラウスがウェザリア国へ攻め入る日がやって来た。まだほとんどの人が寝ているであろう時間に出発するとクラウスから言われた時は、起きれるかな…?と心配になった。
だから、叩き起してでも絶対に起こすようハンナ達にお願いして、何とか起きれた私はアルベルトに抱き抱えられてクラウスの元へと向かった。
「……寝てる?」
「…………起きてる」
「いや、目が閉じたままじゃねぇか。眠いなら寝ろよ」
「おみおくりするの……」
「ンなのしなくていいってのに。アルベルト、ちょっと貸せ」
舌っ足らずでほぼ眠りかけの私を自分の腕の中へ移動させたクラウスは、少しキツめに私を抱きしめた。
そして、私にだけ聞こえる声量で「すぐに戻るからいい子で待ってろよ」と言ってきた。無駄にいい声だったせいで眠気が吹っ飛んだ。
「ちゃんといい子で待ってるよ」
「はいはい。じゃあ、ン」
「……??何?」
「何ってお前、前にレイビスが執務室に戻る時行ってらっしゃいって言って頬にキスしてたじゃん。それ、俺にもやれよ」
「陛下に殺されますよ」
「殺せねぇよ」
確かにパパに殺されることはないだろうけど、だからって頬にキスを強請るなんて、寝不足が原因で頭が働いていないのかな。
そんな状態で戦なんて行って大丈夫なんだろうかと心配でクラウスを見ていると、額をクラウスの額で軽く頭突かれた。
多分、考えていたことを察したんだろう。ムッとした顔を至近距離で見せられた。
「寝不足でも気が狂ったわけでもねぇからな」
「何で分かったの」
「顔に大丈夫かこいつって出てたぞ」
「……えへ」
「ったく…ほら、さっさとやれよ。そろそろレイビスが来る」
頬を差し出して引く気のないクラウスに、仕方なく「行ってらっしゃい」と言ってキスしてあげると満足そうに笑って、私をアルベルトに戻した。
その数分後にパパがやって来て、ウェザリア国へ向かうクラウス達へ歯向かう者は徹底的に潰せと命令して見送った。
そして、クラウス達の姿が見えなくなるまで見送ると、吹っ飛んでいた眠気が戻ってきた。うとうとと船を漕いでいると、頬を誰かに撫でられた。
薄目を開ければパパがいたからパパが撫でたんだろう。何か言おうと思ったけど、眠過ぎて目も完全に閉じればすぐに意識はなくなった。
◇◆◇
次に目を覚ますと、余裕でいつも起きる時間を過ぎていてびっくりした。遅めの朝食を軽く食べて、特にすることが思いつかなかったから出された課題をすることにした。
「一昨日出された課題をもう終わらせてしまわれたんですか?!」
「一週間分の課題をそんな短時間で終わらせてしまうなんて…皇女様は優秀すぎます!」
「あはは……」
暇だったこともあり、昼食だとハンナとシルビアが知らせてくれるまで休憩なしで課題をした。
そのせいで、一週間分の課題が終わってしまった。簡単だったのもあるけど、これじゃあ暇な時に何をしたらいいのか悩むことになってしまった。
クラウスが話し相手になってくれて暇なんてなかった生活が当たり前になっていたせいで、クラウスがいないだけでここまで暇なのかと驚いた。
早く戦を終わらせて帰ってきてほしい。暇は嫌だ。
そんなことを思っていると、顔に出ていたのかパパに心配されてしまった。
「あいつならさっさと戦を終わらせて帰ってくる。それができる力を持っているからな」
「…うん。ねぇ、パパ。パパは暇な時何してるの?」
「暇だと思う時がない」
聞いた自分がバカだったと思った。皇帝のパパに、暇だと思う時間があるわけがない。しかも、建国記念日を控えているから余計に。
昼食を食べ終えたらまた暇になるから何しようかと考えていると、パパから「建国記念日の夜はパーティーが開催される。今回はシアも参加予定になっているからその時に着るドレスやアクセサリーを選んだらどうだ」と提案された。
その提案に即答で選ぶことを言えば、デザイナーを呼んでくれるそうで「着たいもの、付けたいものを選べばいい」と言ってくれた。
「はじめまして、皇女様。デザイナーのクロエと申します」
「急な申し出なのに来てくださってありがとうございます。よろしくお願いします」
「とんでもありません。お気になさらないでください。早速ですが、陛下から建国記念日パーティー用のドレスとアクセサリーをお探しと聞いております。今年の新作のカタログをご覧になって決めていきましょう」
「わっ……凄い、いっぱいある…」
急な申し出だっただろうに、デザイナーの人はすぐに来てくれた。ちょっと息切れしていたからお茶を用意して、息が整ってから挨拶を交わした。
そして、新作だと言って手渡されたカタログは分厚くて、中身を見てみれば可愛いデザインのドレスから大人びたデザインのドレスと色々なデザインのドレスでいっぱいだった。
見ているだけで楽しいそれに、一ページ一ページ真剣に見ていると「ふふっ」と笑い声が聞こえた。顔を上げれば、笑い声はデザイナーのクロエ夫人からで、嬉しそうな顔をしていた。
「っあ…申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。こんなに沢山のデザインのドレスを作るなんて、クロエ夫人は凄いですね」
「ありがとうございます。ずっと、デザイナーになることが夢でしたので、皇女様に褒めていただけてとても嬉しいです」
「でも、こんなに沢山のデザインがあると、今日中に決められるか不安になってきました…」
「今日中に決める必要はありませんよ。パーティーが開催される一ヶ月前までに決めていただければ大丈夫ですので、ゆっくり選んでいきましょう。皇女様のためなら、何度でも私を呼び出して構いませんので」
「…ありがとうございます」
やっぱり、クロエ夫人は優しい人だと思いながら、クロエ夫人とハンナ達でカタログを見ながらどんなドレスにしようか話し合った。




