ウェザリア国
パパのお仕事が落ち着いたのは、あのティータイムの日から三ヶ月後だった。その間に、私は座学と帝王学の勉強が追加されて、この国の字を読み書きできるようになった。
座学は文系と理系に分かれていて、二人の先生が分かりやすく教えてくれた。一応、前世の記憶があるから算数とかはスラスラと解いていると先生に驚かれてしまった。
帝王学はクラウスが教えると知った時は大丈夫かなと心配になったけど、魔法の授業とは違って分かりやすくて驚いた。魔法の時は分かりにくくて苦労していたのが嘘みたいだ。
そして、パパのお仕事が一ヶ月延びた理由は、もうすぐ二ヶ月が経ってお仕事も終わりが見えてきた時に、誘拐計画を企てていたウェザリア国に動きがあったから。
そのせいで、もう暫くは護衛がクラウスとアルベルトの二人だそう。フィリア、オリビア、グレース、ジェシカの四人は元気かな。怪我してないといいけど。
ちなみに、書類がもうすぐ机から消えそうって時に、追加の書類が来た時のパパの顔は、クラウスが言うにはとてもじゃないけど人に見せていい顔をしていなかったらしい。
そんなウェザリア国がどうなったのか、今日やっとパパから話を聞くことになっていて、クラウスとアルベルトと一緒に執務室を訪ねたけど、めちゃくちゃ不機嫌だったから回れ右して部屋に戻りかけた。
「お茶会?」
「元老院の皆様から『ディアン皇子は交友を目的に定期的にお茶会を開いているというのに、レイシア皇女はお茶会を開くご様子が見られないのは次期皇帝としてどうかと思いますぞ。少しはご立派なディアン皇子を見習ってはいかがか』と言われたんです」
「あれのどこがご立派だよ。カスじゃねぇか」
「大魔法使い様、いくらそれが事実だったとしても口を噤んでください……一応相手は皇子です……」
「俺より上の立場は皇帝と次期皇帝の二人だけ。他は下だ。問題ない」
パパとそっくりすぎて双子に見えてきたな…とクラウスを見ていると、視界の端で補佐官が胃を押えていた。絶対胃に穴空いてそう。
可哀想だったからそばに寄って胃痛が治るようにと思えば、補佐官はパッと顔を上げて、私を見て驚いた顔をした。
その顔から、胃痛は消えたんだろうなと判断して良かったと思っていると、パパに声をかけられた。
「シア、そんなのにいちいち属性魔法を使わなくていい」
「そんなの……」
「パパのお仕事を補佐してくれる人なんだから大事にしないとダメだよ」
「皇女様…!!」
「補佐官の胃より、ウェザリア国はどうなったんだよ」
パパにそんなの扱いされて落ち込んでいる補佐官が憐れだったからパパに苦言を呈すと、キラキラとした目で拝まれてしまった。
とんでもなく苦労していたんだろうなと横にいる補佐官にしゃがんでもらって頭を撫でてあげると、泣き始めたからギョッとしてしまった。
それなのに、クラウスとパパは補佐官を無視してウェザリア国の話を始めた。
「誘拐計画は最終段階まで練られていた。今から半年後のウォーカー帝国建国日のパーティーが実行日。人がごった返すから攫いやすいと思ったんだろうな」
「でも事実、人でごった返すだろ。友好国の王族や貴族達に普段都市にいない貴族が都市へ集まって城下はお祭り騒ぎで人で賑わうから侵入も容易い」
「ああ、そうだ。だから、もう面倒だから一ヶ月後に攻め入る。お前も加われ」
「ウェザリア国を攻め入る!?!正気ですか!?」
「どこをどう見たらお前は俺がとち狂っているように見えるんだ?」
正直、私も補佐官と同じ意見だったけど、口を噤んだ。触らぬ神に祟りなしだから。
パパがクラウスに渡した書類を覗き見れば、どんな誘拐計画なのかが詳細に書かれていた。その詳細さに、調査した人は相当有能なことが分かる。
書類を読み終えて、ウェザリア国は思ったよりも綿密に私の誘拐計画を練っていたみたいで凄いなと思ってしまった。何を企んでいるのか知らないけど、私を攫っても無駄でしかないんだから、自国がさらに豊かになるような政策でも練ればいいのに。
まあでも、いかにパパに気づかれずに私を攫うかに重点を置いているから、パパがどんな人か知っているんだろう。その上で、私の誘拐計画を練っているのはバカだなとしか言いようがない。
「攻め入ることに反対はしねぇけど、加減はどれくらいすればいい?」
「加減?」
「更地にはするな、建物は残せ、ウェザリア国の何の罪もない民達は殺すなとかそういったのはあるだろ?」
「何も指定しなかったらお前はどうする?」
「そこに国があったなんて思えねぇ状態にするだけだな」
「絶対にやめてください!!!」
「大魔法使い様は限度を知った方がいいかと」
補佐官と私とアルベルトでドン引きしながら止めると、クラウスは不貞腐れた。何百年も生きてるくせに、その姿が子どもに見えて笑いそうになったのを堪えた。
話し合いの結果、パパとクラウスが補佐官の止める声を聞き入れるわけがなくて一ヶ月後にウェザリア国へ攻め入ることが決定してしまった。
クラウスが兵を率いて攻め入ることになり、ウェザリア国の王族や貴族は殺しても構わないけど領地にするために平民は殺してはいけないこと、建物や土地を更地にしないことをパパが言い聞かせていた。
そして、クラウスが私のそばから離れるため、私の護衛はクラウスが帰ってくるまでパパとアルベルトの二人でするらしく、クラウスが「俺に丸投げして家族団欒する気かよ」と文句を言っていた。
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