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バケモノ

 魔力無感知症だと分かって二日後、魔法の授業は変わらず行うらしく前回と違う指定された場所に向かうと、周りに木や建物が一切ない草原のような場所で、四方に魔道具らしき物が置かれていた。


 何だこれとアルベルトに指を指して視線で訴えると、首を横に振られたから知らないらしい。他の騎士達も知らないようだから、何をする気なんだろうと気になって見ていると、髪を縛ったクラウスがやって来た。



「これ何?」

「この魔道具は結界みたいなものをはってくれる。そして、その中にいると周囲から何をしているか分からなくさせる物だけど…作ってから一度も使ったことがねぇからきちんと作動するか分からねぇんだよな」

「えぇ…」

「起動させるから誰かきちんと作動されているか確認してくれないか?」

「では、私がします」



 右手を上げて名乗り出たのはグレースだった。グレースが範囲外に出たのを確認して、クラウスが魔道具を起動させたけど、何も変わった様子が見られなくてあれ?となった。



「起動してなくない?」

「してるぞ」

「え?でも、周りの景色とか見えるよ?」

「見れるようにしているだけだ。透明な結界をはっているって言えば分かるか?」



 なるほどと理解して、改めてクラウスの作る魔道具は凄いと感動した。こんなにも便利道具を持っているなんて、頼もしいったらこの上ない。


 数分魔道具を起動させた

 後、確認のために魔道具を停止させて、外にいたグレースにどうだったかクラウスが聞けば、バッチリ見えなくなっていたらしい。



「じゃ、始めるか」

「今日は何するの?」

「ちょっと色々試すんだよ」



 何を?と疑問のままの私を無視して、見えなくさせる結界の範囲内にグレースが入ったのを確認したクラウスは、魔道具を再び起動させた。


 そして、今日は光属性の魔法を使えるか確認するなんて言うから驚いた。


 私は、自分の魔力を感知できないから光属性の魔法は使えないと言われていたのに、何で確認する必要があるんだろ?


 そう思って聞いても、クラウスは理由を教えてくれなかった。意地悪だ。



「まずは結界をはってみろ。あ、自分を守るための結界な」

「どうやって…??」



 クラウスは教師に向いていない気がする。いきなりやれって言われてできる子なんていないのに。


 仕方なく目を閉じて自分を結界で覆うイメージをしてみると、周りから「えっ…!?」とか「うわ…」と驚いた様子の声が聞こえた。


 だから目を開けて様子を見てみると、範囲は少し広いけどイメージ通りに自分が結界で覆われていた。



「魔力無感知症は扱いが難しい光属性の魔法を使えねぇ。なのに、何でお前は使えているんだろうな?」

「魔力無感知症じゃないとか?」

「いいや。魔力を感知できないお前は間違いなく魔力無感知症だ」

「クラウスが分からないなら私が分かるわけないでしょ」

「まぁ、そうだな。今現状言えるのは、お前がバケモノってだけだ」



 いくら何でも失礼すぎやしないかと思ったら、何故か周りの皆もうんうん頷いててちょっとショックを受けた。


 でも、使えないと言われていた属性魔法が使えたんだからそう言われても仕方ないのかもしれない。逆の立場なら、私でもそう思う自信がある。


 顎に手を当てて何かを考えているクラウスに話しかけてみると、無視された。多分、考えることに夢中になってこちらの声が聞こえていないんだろう。


 仕方なく、クラウスが考え終わるのを皆で待っていると、10分くらいで何かを思いついた顔をしたクラウスが私に話しかけてきた。



「お前、魔法を使う時何をしてる?」

「何って?」

「結界を自分にはると意気込んでやっているか、結界をイメージしているか、それ以外のやり方かどれだ?」

「自分が結界に覆われた状態をイメージしてる」

「具体的なイメージをしているからできた可能性が高いな。今度は治癒だ」

「え?ちょっと…!?」



 心做しかワクワクしているクラウスに若干引きつつも質問に答えると、今度は治癒だと言って止める間もなく自分の腕を風属性の魔法で容赦なく傷つけた。


 血がドバドバ流れているのに、クラウスは「あ、加減間違えた。まぁいいか。よし、やってみろ」なんて言って傷ついた腕を差し出してくるから神経を疑った。


 ドン引きしつつも、傷のないクラウスの腕をイメージしてやってみると、みるみるうちに傷が治って治癒の魔法が成功した。



「やっぱお前はバケモノだ。魔力無感知症なのに具体的なイメージだけで問題なく光属性の魔法が使えるとか聞いたことがねぇよ」

「これは、知られていいものなんですか…?」

「間違いなくいいものじゃない。具体的なイメージで使えているのは一つの仮説だ。体の作りが他と違うからって可能性がないとは言えない。その時は、下手したら他国に魔力無感知症を治すヒントになるかもしれないと攫われて体をバラされる可能性がある」

「ひぇ……」

「だから、お前が魔力無感知症なことは絶対に知られてはいけない。知られたら敵が増えて守りきれねぇ。分かったか?」

「分かった」



 バラされるなんて絶対に嫌だから、クラウスの言うことに全力で頷いた。皆も改めて危険性を実感したのか、何かを決意した顔つきをしていた。


 そして、クラウスから昨日、皇妃と異母兄に私が魔力無感知症かもしれないと思わせてしまうことが起こってしまったことを話された。


 偶然で起こってしまったことだから誰が悪いとかはないけど、最悪だ。周りから自分達を見えなくさせる魔道具をクラウスが引っ張り出した理由が納得できた。


「皇妃に命じられて探りを入れている人物がいる可能性が高いから言動や行動には気をつけろよ」と忠告をされて、バレないようにしようと意気込んだ。他の皆も、クラウスの忠告に黙って頷いて今後どうするかを話し合っている。


 そんな様子を見て、苦労かけまくっているなと申し訳なく思っていると、クラウスからデコピンをされた。


 そんなに痛みは感じなかったから手加減してくれたんだろうけど、いきなり何するんだとクラウスを見上げれば「ンな顔するな。それだけお前のことを皆大事に思って守ろうとしているだけなんだから」と励まされて、気持ちが少し晴れた。

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