襲撃
属性魔法と魔力量が分かって二週間、パパから座学や魔力操作等の勉強が来月から始まるからそのつもりでいるように言われた。だから、ルーティンである庭園の散歩をしながら、護衛騎士達に光属性はどんな魔法なのか聞いてみた。
「分かりやすく言うなら結界と治癒ですね。属性魔法の扱い方が上手ければ怪我だけじゃなく、解毒もできたりします」
「確か、ママは光属性の魔法が使えるんだよね?解毒もできるの?」
「いいえ。軽傷程度の怪我の治癒ができるくらいです」
「フィリアはママのこと知ってるの?」
「一年ほど皇后様の護衛騎士をしていたので少し知っていますよ」
「じゃあ、ママってどんな人なの?何で私はママに会えないの?」
光属性はどんな魔法なのかアルベルトが答えてくれて、ママがどのくらい光属性の魔法を扱えるのかは、一年くらい護衛騎士をしていたらしいフィリアが教えてくれた。
それを知って、それならとずっと疑問に思っていたことを聞けば、皆の表情が曇って黙ってしまった。聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
どうしようかな。やっぱりいいやと言うべきか悩んでいると、フィリアではなくグレースが口を開いた。
「皇后様は幼い頃からとても怖がりでいらっしゃるそうで、陛下のことを怖がって皇后宮の寝室から滅多に出てきません。皇女様のことも、陛下の血が半分流れているからと怖がっているのです」
「グレース!!」
「いずれ嫌でも知ることよ。だったら、皇女様が聞いてきた今、教えるべきだとフィリアは思わないの?」
「だからって…皇女様はまだ幼いのよ!?」
「大丈夫だよ。別に傷ついてないから」
これは本当。特に傷ついていない。むしろ、怖がりだから暴君のパパが怖くて部屋から滅多に出てこないのも、私に会わないのも納得できてスッキリした。
よく、そんなのでママは私を妊娠できたよね。妊娠して子どもを産めば、自分は用無しになってパパと関わらずに済むとか考えて頑張っただけかもしれないけど。
「ほ、本当ですか…?無理していませんか?」
「本当だよ。なるほどって納得しただけだから傷ついてないし、私にはパパがいるから大丈夫!」
そう言ったけど、皆の表情は変わらなかった。多分、痩せ我慢していると思われているんだろう。母親に怯えられて会えずにいるなんて、普通の五歳の子どもなら悲しくて泣くぐらいするだろうから。
どうすれば本当に大丈夫だと信じて貰えるか頭を捻らせていると、突然護衛騎士の皆が剣を抜いて、気づけば私はグレースの腕の中にいた。
「敵襲!!敵の数は!?」
「分からない!とにかく皇女様をお守りしなきゃ!」
「数が多い!俺の魔法を使うから全員皇女様を中心に一塊になれ!!」
グレースが私に気を使ってか、周りを見れないように頭を固定しているからよく分からないけど、誰かに襲撃されたらしい。アルベルトの指示で皆が私の周りに集まると、アルベルトは火の属性魔法を使って壁を作った。
これなら、敵は火の中に飛び込まなきゃいけないから時間が稼げる。敵が飛び込んで来ないのを確認して、ようやく私は固定されていた頭を解放された。
「皇女様!大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫…」
「白昼堂々狙ってくるなんて、相当な手練なの?」
「いいや、弱い。ただ、数が多い」
「アルベルトの火ならいけたでしょうに、何でやらなかったの?」
「ここは庭園だ。そんな所で火を使えば大火事になる。それに、オリビアが魔法を使えなくなるだろ」
「確かに、アルベルトがここで火を使って庭園が燃えているところにオリビアが風を使えば燃え広がるだけね。でも、この壁で結局燃えるんじゃない?」
「あちこち火を飛ばすより燃えないだろ。それよりも、ここは城内だから陛下がすぐに来る。それまで俺達は敵を倒すんじゃなく、皇女様を守ることに集中しろ」
護衛騎士の皆はそれに納得したようで、頷いていた。メイドのハンナ達も、怖いだろうに震える手で私の手を握って励ましてくれている。
アルベルトが言っていたように、誰かが知らせてすぐにパパが来てくれるはず。だからそれまでは、皆にこれ以上負担をかけさせないよう気丈に振舞おう。誰かに狙われるなんてこと、前世でも今世でも初めてで怖くて今にも泣きそうだけど。
そう覚悟を決めて皆と一緒に警戒してしばらくすると、雷の落ちる音と氷のバキバキ音が聞こえてきた。
「パパ……?」
「恐らくそうですね。もう大丈夫ですよ、皇女様」
私を安心させるためにニコッと笑ったハンナの手を握り返して、変わらずアルベルトの火の中でジッとしていると「魔法を解け。もう敵はいない」とパパの声がした。
それを聞いて、アルベルトは魔法を解いた。
「シアに怪我は」
「ありません。力及ばず陛下にお手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
「皇女を優先に動いた結果であればいい。数が多く、場所が場所だからな。お前の火は返って危ない」
庭園は酷い有様になっていた。氷漬けにされた人、パパに斬られた人、雷の魔法で感電して倒れている人があちこちにいる。薔薇は凍っていたり、折れていたり、焦げていたりしていてボロボロ。
しばらく薔薇の庭園で散歩はできそうにない。いや、そもそも散歩をしばらくできないかもしれない。
「シア」
「パパ…」
「もう大丈夫だ。助けるのが遅くなって悪かった」
「ぱぱぁ…っ!!」
パパがそばに来て大丈夫だと言ってくれたから、張り詰めていた糸が切れて涙が溢れた。パパに向かって手を伸ばすと、グレースの腕の中にいる私をグレースから受け取って抱きしめてくれた。
安心するパパの腕の中で気の済むまで泣いて、私は泣き疲れて眠ってしまった。
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