紙飛行機での殺人
何処からともなく飛んできた紙飛行機が首筋に当たり、出血した。紙飛行機の先端で皮膚を切られたのだ。先端に針が仕込んでいったから、立派な傷害事件だ。朝は忙しく警察へ行けなかったので、仕事終わりに被害届を出そうと思って退社した。警察署への途中、人通りの絶えた場所で見知らぬ男が私を呼び止めた。
「そろそろ気分が悪くなってきただろう?」
「何だと?」
「紙飛行機に付けた毒針には猛毒のリシンをたっぷり塗っておいた。青酸カリの一万倍も強力なリシンに特効薬はない。お前は呼吸が出来ず苦しみ抜いて死ぬ」
特に息苦しさを感じなかった私は男に尋ねた。
「何も変わらないが、紙飛行機の針にリシンを塗ったというのは本当か?」
「ああ、そうだ。これは連続殺人の第一回だ。お前を殺したら、同じ手口で大量殺人をやるさ」
私は懐から紙飛行機を出した。証拠品として警察に提出しようと思って持ち歩いていたのだ。
「この先端に毒を仕込むわけか」
男はニヤッと笑った。
「リシンなら少量で死ぬからな、それで十分だ」
「そのリシンは何処で手に入れた?」
「ネットで買った」
私は心の底でニヤッと笑った。偶然とは恐ろしい。私が売りつけた偽物のリシンを買った奴が目の前にいるとは、本当に驚きだ!
男に売ったリシンは同じリシンでも必須アミノ酸のリシンだ。人体の害ではない。
周囲に防犯カメラがないことを確認した私は男に近づくと隠し持っていたクマ除けスプレーを噴射した。男が怯んだ隙に、猛毒のリシンを中に仕込んだ万年筆を相手の首筋に突き刺す。毒を注入後まもなく男は倒れた。私は現場を後にした。