皺鳥④
「やっぱり思った通りだ、この粉豆砂鉄が含まれてる!砂鉄と…あとはなんだろう、これは粗挽き豆パウダー、としか表現出来ないな」
粉豆を食べて見たところやはり砂鉄が含まれていた。ダン芋と同じで黒い土のようなものがある。
ただこの粉豆、豆と言っても植物の薄い皮に包まれた中身が粉の丸い種のようなものだ。
元の世界で言うと見た目はそら豆が近いだろうか。
ちなみに皮は食べれた、全然味しない。
「これはアレだ、飼料に近い!」
見た目はソラ豆、中身は砂鉄入り飼料。ダンジョン内のモンスターが食べてるのも納得だ。
この豆パウダーならもしかして水に溶かせば豆乳とか作れちゃうのでは…?
もし作れるならば豆乳シチューとかいけちゃいそう。
「ダン芋以外のしわしわ部分を補充するならきっとコレだ、皺鳥達が主食として食べているこの粉豆。これで体が作られているならいけるはず!」
「ツタ1本に付き豆はだいたい30個くらいか…?シチュー作りには十分過ぎてお釣りが来るくらいだな。よし、調理開始だ!」
現在は朝の9時頃なので、昼頃までには決着をつけなければいけない。
「皺鳥もうん、肉厚は昨日と同じ感じだな。残るしわは半分くらいか」
皺鳥も確認した所で善は急げだ、早速やってみよう。
フライパンに火を入れ少し油を敷き熱する。
ある程度火が通ったらシチューに使う具材をいれる。
今回は急ぐので玉ねぎとダン芋くらいで良いだろう。
もちろん皺鳥も入れる。
全体に火が通り馴染んで来たら火を止め、ここで1粒ずつ粉豆を投入していく。
「うぉぉ、かなり本格的になりそう」
この粉豆予想以上に小麦のような役割を果たしてくれている。いやダンジョン産と言う事もあり小麦粉以上か…?
3粒くらい入れた頃、水をまだいれていないのに全体から出た水だけでもかなり粘り気が出でおり、まるでドライカレー改めてドライシチューのようになっていた。
さらに2粒入れ塩と胡椒で味付けをし、少しづつ水を入れる。この世界にコンソメは無いが玉ねぎとダン芋、皺鳥の味で何とかなるだろう。
本来なら火をかけながらゆっくりと入れないとトロミがつかないのだが、そんな必要ないかもしれない、なんかめっちゃトロミついてる。
「…もう全部水入れるか。時短時短!」
さすが異世界食材、トロミをつける作業をすっ飛ばしても必要以上にトロミがついた。
というよりドロドロしてるなぁ…。
「刃草の時もそうだったけど、異世界食材はみんなこうなのか?いや皺鳥はしわしわしてるからそりゃ違うか。振り幅がすごいな」
それから少しづつ水を足しトロミを調整してたらあっという間に完成してしまった。
「あれ?粉豆の皮どこ行った?まさか熔けた?」
粉豆の皮、どうやらオブラートみたいなものだったらしくシチューに溶け込んでしまった。
まぁ無味だったから大丈夫だろう。
「ちょっと水多く入れないといけなかったから完全に具材が見えなくなったな…。皺鳥も気になるけど仕方ない。とりあえずシチューの味見からしてみよう」
具材を取るにも長めの菜箸やトングが必要になるためシチューの味見からしてみる事にした。
「さぁてお味は…。んえ!うっ、うまい!なんだこれ本当に豆乳か!?特濃ミルクで作ったシチューみたいだ!」
まぁさすがに牛乳のようなミルク感ではなかったのだが豆乳特有の豆臭さはほとんどなく、どちらかと言うとスッキリとした風味であった。
それなのにこれでもかと言うくらい深い味わい。なんならかなり甘みを感じる。
牡蠣が海のミルクと呼ばれるようなものだろうか、この粉豆には圧倒的な栄養素が入っているのだろう。旨味や深みが段違いだ…。
言うなればダンジョンのミルク…。という事はこれはダンジョンの母乳…!!
まさか俺の異世界母はココに居たのか!?
「ハッ!あ、危ねぇ意識が飛びかけてた」
「うますぎる。豆に入っていた粉だけどこれ豆要素皆無だぞ…。あっ!忘れるとこだった皺鳥!どうなってるかな」
粉豆シチューのあまりの美味さに一瞬忘れかけてしまったが今回の主役は皺鳥だ。
単に水とダン芋に付けるだけではほぼ回復しなかった肉厚だが、皺鳥たちの主食となる粉豆を使ったシチューではどうなるか…。
「…!!シワがない!凄いパンパンに身が詰まってる!張り裂けそうなくらいハリがあるしいくら火を通しても変わらなかった赤身が綺麗なキツネ色に…!」
思った以上の成果だった。
きっと元の皺鳥より大きくなってるんじゃないかってくらいぎっしり身が詰まっていた。
ここまで身が詰まった理由はおそらくあの栄養だろう。
鉄分だけではダメだったんだ、たった5粒入れるだけであそこまで美味いシチューが作れてしまうくらいの高い栄養素、鉄分で肉を復活させる要素をもつ骨をめちゃくちゃパワーアップさせてくれた。
「しかもこの皺鳥…。めちゃくちゃうめぇ…!」
なんか涙が出てくるくらい美味い…。
これ作るまでに苦労したからかな、異世界に来て色々苦労したからかな…。
うめぇ、うめぇよ…お母ちゃん…。
鳥肉ってこんな美味いんだってびっくりするほどだった。
モモ肉はさらに柔らかく深い味わいに。
むね肉は豚のヒレ肉と同じくらい柔らかく歯ごたえがあった。肉の繊維どうなってんだって思うほど。
ヤゲン軟骨はコリコリ感が増し、噛めば噛む程味が出てくるので飲み込むタイミングが分からない程だ。
手羽に関しちゃ肉が大きくなりすぎて骨が完全に埋まってる。
これ揚げ物にしたい…!
「美味い…ダン芋もシチューと完全にマッチしてる、玉ねぎもシチューと皺鳥のダシを吸ってて美味い…!後なんか体が楽になってきた…。」
美味い…美味いと呟き、涙を流しながらシチューを食べているとその声を聞き付け、料理長が様子を見にやってきた。
「ソラ、どうかしたのか…うおっ!どうした?!」
俺は泣き食べながら料理長に事情を説明し、料理長にも食べて貰った。
すると料理長は目頭を抑え裏に行ってしまった、美味しくなかったかなあ?
「何この美味しそうな匂い…あっソラくん!また何か作ったの?私も食べた〜い!」
受付嬢の仕事をあらかた終えたニャンが厨房の方までやってきた。
もう昼頃みたいで給仕の手伝いに入る所だろう。
「ソラくん…ぐすっ、これ…ぐすっ、美味しいね。なんか地元に帰りたくなっちゃった。クイン母様…元気にしてるかなぁ」
「なんか良い匂いする!あっソラ!それ食べて良いのか!?」
「リクダメだよ!私達は今日配達に来たんだよ!?でも凄い良い匂い…」
「あぁ…食べていいよ…。上手く作れたから…。」
「良いのか!?やったぁ!モグモグ…。父ちゃん…ごめんよ、ありがとう…。」
「ソラくん、ありがとう!いただきます…。あっ…母様…父様…やはり見捨てられたんじゃなかったんですね…」
シチューを食べた皆が泣きながらうわ言を発していた。
きっと皆何かに苦労してきたんだろう…。
「おうソラ!今日から増員なんだってな、良かったじゃねぇかってうおお何があったんだこりゃあ!?」
どうやら朝の仕事を終えたガルドフがギルドに昼飯を食いに来たみたいだ。
そしてそのままシチューが発見されてドナドナされていく…。
あまりの美味そうな匂いに付近の冒険者たちも吸い寄せられ、全員でシチューを食べていた。
数秒後大歓声が花火のように起こり、そしてまた数秒後大号泣が嵐のように起こった。
その後しばらくして裏から出てきた料理長によって騒ぎは沈静化されたが、その余韻は激しかったようでその後数日間冒険者達は皆優しい顔で過ごしていた。だけどしっかりシチューの催促はされた。
あぁ…美味かったな、シチュー。