皺鳥②
「さぁ始まりました!第2回異世界食材研究会〜!実況はわたくしソラ、解説もわたくしソラが担当しまぁっす!」
「それでは今日取り扱う食材を紹介します…。今日の食材はこちら、デデン!この鳥の名前は皺鳥と言って、まるでヤクザの事務所にカチコミをかける鉄砲玉のような……」
「イセカイ?カチコミ…?ど、どうしたのソラくん…」
「ヒュッ」
こんにちは皆さん今日は一日お休みのソラが羞恥ギリギリでお送ります。
今日は臨時休業となっているがギルド酒場は基本的に毎日営業しており営業中の客足はほとんど絶えない。
ここは様々なランクの冒険者の憩いの場でもあり情報交換の場でもあるから常に人の出入りがある。
酒場がある事によって緊急事態への対処も迅速に行えるし個人への指名依頼も通しやすくなる。
後は単純に冒険者達は酒好きな者が多いためもはや生活の一部となっているのだ。
だから久しぶりの休日でテンション爆上げ天元突破していた所、初っ端からニャンさんに見られてしまった。
「最近忙しかったしソラくんはまだ子供だもんね…。ほんとに辛かったら言うんだよ?力になるからさ」
「あああい、いえ大丈夫です!はい!多少は疲れてますけどそんな大袈裟な程じゃないので!はい!!」
「そう?ならいいけど…」
「あ、あはは…」
そう言ってニャンは受付に戻っていく。
しまった失念していた。酒場は休みでもギルド自体は休みじゃないんだ…。
そりゃここにニャンさんが居ても不思議じゃない。
「恥をかくとこだった、いやもう手遅れかな…。ま、まぁ気を取り直して早いとこ調理しちゃおう、うん」
多少のトラブル?で心にほんのちょっぴり傷がついたが気にしない。
早速皺鳥の調理に取り掛かる。
「ダン芋も刃草も水につけたら調理出来るようになったしな、まずはこれから試してみるか」
ダン芋は3時間、刃草は1時間ほど水につけたら調理が出来る状態になったのでとりあえずその方法から試して見る事にした、が。
「うわ、全然なんも変わってない」
水につけてから役1時間、様子を見てみると入れる前の状態から何一つ変わっていなかった。
多少水が染みているくらいか。
「えぇ〜どうしたらいいんだこれ、水じゃないのかな。あ、もしかして冷水だからとか?」
水じゃないなら温度かな?と思い今度は少し温めたお湯につけてみたのだが変化無し。
「血が抜けたらしわしわになるんでしょ?血はだいたい人肌位の温度だからいけると思ったんだけどなぁ」
それから色んなやり方を試してみた。
沸騰した水に入れたり、蒸してみたり、油で揚げたりもした。
だが全くの変化無し、火すら通らないのは一体なぜ…!
「うぉぉ異世界、ガチの異世界食材だ。何しても全く状態が変わらない!」
思い付く調理法は全て試してみたのだが何も効果的な物は無かった。
なんならこれはベーコンみたいなものなのか?と思い燻製器で燻したりもしたのだが何の成果も得られませんでした。
「お手上げだ。知ってる限りの調理法は全部試したけど何も意味無い。うーん調理法じゃないのかなぁ…。ってかお腹空いたな」
やけくそ気味に皺鳥を水へ戻す。
気付けば辺りは日が落ちてきていた。
皺鳥調理に熱中しており朝も昼も食べてない事に今更ながら気付く。
「はあぁ〜成果無しか…、思った以上に厄介者だなぁ。とりあえずなんか食ってから考えるか…って、ダン芋の仕込み全然されてないじゃん」
普段時間のかかるものは朝に済ませそのまま調理の仕事に取り掛かるため様々なものが仕込まれていなかった。
「うわ気付いちゃったよ。えーと刃草は朝イチでも全然間に合うから、一応ダン芋だけやっとくかぁ…」
桶いっぱいに水を張り、ダン芋を大量に突っ込む。
辺りが少し暗い為全部しっかり入ったかちゃんと確認は出来ないがダン芋は硬いので落ちていても問題ないと思い、食事を取るためその場を後にする。
「1回帰るか、飯食ってからまた来よーっと」
〜〜~
「いやあお腹いっぱい。ダン芋ってなんであんな美味いんだろうなぁ、元の世界より芋感がめちゃくちゃ強い。ダン芋でポテトフライとか作ってみたいな」
俺は今宿を借りて生活している。
異世界転生した当初はもちろんお金など持ってるはずもなく、料理長に保護された事もありギルドの一室を借りて生活していた。
しかしいつまでもギルドの一室を借りて生活していくのは申し訳なさが出て来た為、去年から一人暮らしをしている。
料理長は気にしなくて良いと言ってくれたがこの世界で生きる以上どこかで踏ん切りを付ける必要があるだろう。
「ん?あれ、見間違いかな、ちょっとだけ皺鳥がふっくらしてるような」
「いや、間違いない。ほんの少し肉厚になってる!えでもどうしてだ?さっきと同じように水に入れてただけなのになんで!?」
食事に出てた時間はだいたい1時間くらい。
ほとんど朝と変わらない条件でただ水につけていただけなのに何故か皺鳥の肉に厚みが出ていた。
「まさか夜だからとか?日中は日差しのせいで余計乾燥が進んでしわしわなるとか…。いやそれもありうる話か、月光花とか満月の日にしか咲かない花もあるくらいだし…あれ?」
いくら試してもウンともスンとも言わなかった皺鳥の変化、たった少しの変化だがこの変化を逃すまいと必死になって原因を探した。
「ん?なんで桶の中にダン芋が…あっもしかしてあの時入り込んだのか?」
何故か皺鳥が入ってる桶の中にダン芋が入っていた。
暗くてよく見えなかったのでおそらく仕込みの時に落ちてしまったのだろう。
「まさかダン芋が皺鳥を復活させた…ってそんな訳無いか、ダン芋だって3時間水につけなきゃ意味無い奴だしってダン芋ツルツルなっとるーーー!!」
「あれぇ!?いつもならダン芋は3時間必要だしその上黒い土みたいなのが大量に桶に落ちてるはずなのに!何一つ落ちてない!」
「皺鳥…血…ダン芋…。もしかして、ダン芋にこびりついてる土って砂鉄なのか!?」
驚く事に皺鳥と一緒に水に付けられたダン芋は3時間経たずにこびり付いた黒い土みたいなものが全て剥がれ落ちていた。
その上桶に溜まるはずのダン芋から剥がれ落ちた土がほんの少しも溜まってなかったのだ。
「そうか…きっとこれはダン芋の砂鉄を皺鳥の肉が補充出来たから少し復活したんだ!なるほど、少し見えてきた!」
その後俺は皺鳥を手羽やモモなど様々な部位に分けて切り離し、ダン芋と同じ水につけて放置した。
「もし本当に砂鉄が皺鳥の肉を甦らせるなら大量に与えれば調理できる。待ってろ皺鳥ー!!」