皺鳥①
「ソラくん刃草と猪肉の串焼き3つに刃草と猪肉のステーキ5つ追加〜!」
「は、はいぃ〜…」
刃草調理から1週間、ギルド酒場は毎日熱狂的忙しさに襲われていた。
噂が噂を呼び、いつもは冒険者しかいなかった酒場に商人や街の人々も訪れ途切れる事の無い来客が続いている。
「おぉい串焼きまだかぁ!?」
「こっちはステーキ全然来ねぇぞ!」
「ひ、ひいぃただいまお持ちします〜!!」
〜〜~
「っっだぁ〜やっと終わったぁぁ」
時刻は21時、ギルドの定める未成年の修業時間。
昼飯時からこの時間まで休み無しで働いた俺は速攻で裏に周り大の字に寝そべっていた。
「ソラくんお疲れー、今日も大変だったねぇ〜」
「あ、ニャンさんお疲れ様です。最近は本当に忙しいですね、もう一歩も動けません」
「あの日以来街の人も来るようになっちゃったからね。もー本当にお疲れ様だよ」
そう言ってお互いを労う。何も厨房だけが忙しい訳ではない、ニャンさん達給仕係も同じように忙しいのだ。受付嬢としても頑張ってるのに…いつもありがとうございます。
しかしニャンさんは兼業だったり俺はまだこの時間に終われるから寝る時間があるのだが、この忙しさで料理長は大丈夫なのだろうか?
「ニャンさん、料理長朝から日付け変わるくらいまで働いてますけど大丈夫なんですかね?」
「うーん昔から体も強いし丈夫な人だけど…流石にこうも忙しいと心配だね、ちょっと聞いてくる」
そう言うとニャンは店内へ戻って行った。
「あー休みたい、まだ刃草も研究全然出来てないなぁ」
刃草がとにかく美味しいという事は分かったのだが、まだまだ研究の余地はあるだろう。特にあの消臭効果だ。
これは失敗から気付いたのだが、香草焼きに使うと臭みも消えてさらに美味しくなるのでは?と思いやってみた所、なんと香草の香りまで消してしまったのだ。
結果肉の味はするのだが無臭のステーキが爆誕した。いやまぁ普通に考えればそうなんだろうけどさ…異世界パワーで何とかなりそうじゃん?いやこれ逆に凄いか?
臭みを取るというか無臭になる…、元の世界で言う所の脱臭炭みたいな効果があるのかな。うーんだとするとあの成分さえ抽出すれば室内の臭い消しに使えそうだな…。
などと刃草の使い道について色々考えていると俺の様子を見に料理長がやってきた。
「だいぶ疲れて居ると聞いたが、大丈夫か?」
「料理長お疲れ様です!ぶっちゃけかなり疲れました…これいつまで続くんですかね」
「やはりそうか。美味い飯が出来たとなるとこの客足はしばらく途絶えそうに無いだろうな、仕方ない。ギルドマスターに頼んで増員を貰う。明日は臨時休業にしよう」
「え!マジですか、やったあ!」
まさかの臨時休業!増員!助かるマジで助かる。
もーフライパン持つ手がプルプルしちゃってたんだよ、元の大人の体ならまだしも12の体だからね、筋力も全然無いんだよ。
てか料理長疲れて無いの?顔色全然悪くないよ。
「それとガルドフが呼んでたぞ、後で行ってやれ」
「ガルドフが?なんだろう…分かりました」
ガルドフと言う男は料理長の元パーティメンバーで万能型の大盾使いだ。
最近はいたく刃草料理を気に入っており、頼んでも無いのに酒場に来る度刃草を度納品してくる。
「ガルドフー来たよー、何か用なの?」
「おぉ来たか坊主!さっきまで死にそうな顔してフライパン握ってたな!ガハハ、鍛え方が足りねぇんじゃねえか!?」
「酒くさ!今日もめっちゃ飲んでるな…。俺は冒険者じゃないからいいの。てか刃草料理めっちゃある!あんなに頼んでたのガルドフ達だったのかよぉ」
「おおこいつぁ美味いからな!味も濃いし最高だ!まさか毎日踏み潰してたあの厄介者がこんなに美味いだなんてなあ、もっと早く食いたかったぜ」
そう言うと豪快に串焼きにかぶりつく。作りすぎて嫌気が差してるけど美味いよなぁそれ、肉と一緒に食うと味の深みが段違いなんだよ。てか褒められて嬉しい。
「それはどうも。で、味の感想言いたかっただけなの?俺も腹減っちゃったよ」
「そうだった!おい坊主、お前は昔から変な所で勘が良いよな、この厄介者もこんなに美味くしたくらいだ。だから他の厄介者も美味い飯に出来るんじゃないかと思ってな?」
「他の厄介者…?え!もしかしてそれってダンジョン産の無価値食材!?」
「そうだ!だから持って来たんだ。こいつは皺鳥って言ってな、骨がめちゃくちゃ硬い上に見た目に寄らずかなり重い。生きてる時は身がしっかりあるんだぜ?だが血抜きをするとこの通りだ、何故かしわくちゃになっちまう」
そう言ってテーブルに置かれたのは見た感じ鳥っぽいのだが全体的にひょろっとしている、なんだかミイラみたいだ。サイズは元の世界の鶏くらいか。
「血の気が多い奴らでな、俺らを見つけたらどんなに距離が遠くても一直線に攻撃してきやがる。そのくせに食える部分がこれっぽっちも無いと来た、邪魔臭いったらありゃしねぇぜ」
この鶏?やけに好戦的らしい。だか倒すの割と簡単だそうだ。体が重くて飛べる訳では無いので真っ直ぐ走って来た所を剣で切るかハンマーなどで叩くかすればすぐに血が出てしわしわになるんだとか。
だけどしわしわになるから食べれないと。
…嫌がらせみたいな鳥だな。
だが何となくわかる、こいつも食える。
「厄介者の極みみたいな鳥だね…。でも何となく食べれそうな気がするよ、これ貰っていいの?」
「あぁそのつもりで持って来たからな、じゃ頼んだぜ坊主!俺はまだ食うからよ、おーいニャンちゃん!刃草ステーキ追加よろしく!」
「あ!それとこの刃草ステーキって名前何とかならねぇか?昔から邪魔な草だからあんま良いイメージ無いんだよ、料理名変えといてくれ!」
じゃあ頼んだぜと言ったきり仲間内で会話をし始めた。邪魔者を押し付けられたようで若干納得行かないがこの世界の冒険者はこんなもんだ。仕方ない。
「それより無価値食材2つ目だ!皺鳥って言ったな、うぉぉわくわくする」
「明日はせっかくの休みだし、色々試してみるか!元気出てきた!…けどやっぱ疲れたな、早く帰ろう」
刃草の研究もしたいし皺鳥も食べれないか模索したいし名前も考えなきゃいけないし、やる事が盛り沢山だ。
明日は頑張るぞぉ!