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刃草③

「さて、ネギちゃん達はどうなってるかなぁっと」


あまりにネギがネギネギしていたのでとりあえず1時間水につけてみようと思い水につけたまま放置していた。


その間特にやる事も無く暇だったので刃草の知識を得ようとまだ酒場に居る顔馴染みの冒険者に話を聞きに行ったりしていたのだが、特に得られた情報は無かった。

ほんとに邪魔な草認定されていたようで、駆け出しの頃からよく踏み付けて居たらしい。


この世界に食への探求をする人は居ないのか…。

いやそもそもこれは見た目からして食材では無いよな、根っこもとんでもなく酷い味だし。


「うーん、見た感じじゃ全然分かんないな、ちょっとだけ切ってみるか。おっ、あれ?さっきとは匂いは少し違う気が…」


水につけられたネギたちは1時間前とは変わらない状態で浮いていた。水を吸って沈むとか、ネギエキスが漏れだして居たりだとか、そんな事は無かった。見た感じのままじゃ全然違いが分からなかったのでとりあえず切ってみる事に。


すると少し匂いの変化はあった、どうやら葉がついたままの刃草だけかなり匂いが薄い。

途中で切られてる物と、そのまま1本のもの、どちらも弱くは無い臭いが漂っている。


「うぅーん、わからん…。刃がついたものだけが元の世界のネギみたくなってる。…えぇい、食ってみないと分からん!」


とりあえず食べて見る事にした、するとなんと刃のついたネギだけとんでもなく美味しくなってるではないか。

半分に切ったネギは断面からネバネバしたものが漏れ出て匂いも強く、1本そのままのものは葉に近かった所が少し臭いが抑えられシャキシャキとした食感が目立った。


これはひょっとして、刃の部分に強い消臭効果があるのでは?

そう言えばネギ本体からは強い臭いが出ているものの、葉の部分からはなんの匂いも感じられない。


「これならいける!調理できるぞ!確か、今日卸されたばかりの猪肉があったはず。」


それから俺は猪肉と刃草を色んな調理法で試した。

旨味は強いが強い臭みのある猪肉。だが刃草の刃の部分と一緒に調理すると驚く程に匂いが消えた。


それだけではなく、猪肉を煮込む時に葉とネギと刃を同時に入れるととんでもなく旨味が増したのだ。

ネギのネバネバ要素も加わりまるで片栗粉でトロミをつけたように味が絡まり、1口スープを飲んだだけでも分かるくらいに絶品だった。


葉をつけたまま水につけたネギは味も匂いも抑えられ、そのまま薬味として使えるほどだった。ただ調理を続けている時間ずっと水につけて居たため、消臭効果が強まりほとんど味も匂いもしなくなっていた。

どうやら水につける時間で匂いと味が変わるらしい。


「う、美味い…。美味いぞ!これが刃草、初の異世界食材!」


調理出来た嬉しさと、古い故郷の味を堪能出来た喜びでつい1人ではしゃいでいた所、美味そうな匂いを嗅ぎ付けた冒険者達とニャンに猪肉料理を見つかり奪われてしまった。ふざけるな!それは俺の長ネギだぁぁあ!


「ま、待ってくれ!それは俺の故郷の味…うおおおおぉ」


「おいなんの騒ぎだ!ニャン、お前まで何をやってる!」


「はっ!り、料理長これは違うんです!ソラくんが刃草料理を作ったんですけどこれが信じられないくらい美味しくて」


「刃草料理だと…?」


料理を奪い奪われドッタンバッタンしていた所騒ぎを聞き付けた料理長がやってきて、騒ぎは沈静化された。

だがここまで臭くなく、旨味の強い料理は初めてだとの事で俺は料理長に刃草料理を説明する事となった。


煮てよし、焼いてよし、薬味にしてもよし。

今まで無価値だと思われていた食材に日の目が当たった瞬間であった。


「刃草にそんな効果が…。だからソラ、それはそれとして、今日仕入れた猪肉は全部使ったのか?」


「ハッ!」


この後俺は料理長からかなり怒られ、罰として明日の仕込みをほぼ全て1人でやらされた。

だが料理長も認めるくらいの美味しさだったらしく、今後刃草を使った料理の数々は調整をした上で新メニューとして出す事に決まった。


〜〜〜


「ようやく終わった、うわもう深夜2時!?くそっギルドの労働基準法どうなってんだ。料理長め…。だけど、美味しかったなぁ。ただの長ネギがあそこまで肉を引き立てるとは」


ようやく明日の仕込みが終わり罰と言う名の強制労働(自業自得)が終わった。

かなり時間はかかったが、実は仕込み自体はは難しいものでは無い。


食事レベルの低いこの異世界において複雑な味付けや何時間も灰汁を取りながら煮込み続けるなんて料理は存在しない。

単純に皮剥きや肉への塩胡椒など、下味をつける作業などだ。


ただいつもは料理長とギルドの給仕係のメンバー数人でやっている作業の為、1人でやるとどうしても時間がかかってしまう。

というか一緒に食べたあいつらはどこ行った?試作を作りすぎたとはいえ相当な量冒険者達も食べてたはずだぞ、ニャンさんも食べてたし。


「まぁいいか、忘れない内に今日のレシピを書いておこう」


ちなみに今日作ったのは5種類。

刃草とダン芋と猪肉のシチュー、刃草と猪肉のステーキ、刃草と猪肉の串焼き、刃草と猪肉のパン包み、後は薬味として刻み刃草だ。


いつもなら猪肉の臭みがスープに溶けだしてしまう為シチューなどには出来なかったのだが刃草と一緒に猪肉に火を通すと焼いても煮ても臭いが消えるのだ。


まだ火が通り始める段階では肉に含まれる水分の蒸発と共に猪肉の臭いが広がるのだが、そのまま刃草と一緒に調理していくとだんだん臭いが消えていき、ついには具材の甘い香りが広がって来る。


ステーキなんて凄かった。

最初は肉を焼く音がバチバチと鳴り臭みが広がるのだが、火を通し続けると段々音がバチバチからパチパチに変わり、最終的にはシュワァァァと言うまるで炭酸水かのような音になっていた。

油が浄化されているのか?とまで思うほどだ。

しかし元日本人としてはシチューにネギが入っているのはどうも違和感を感じ得ない。


「味はまぁ、ネギって言うかもはやフルーティーな風味まであるから間違いなく美味しいんだが…。まぁ美味しければなんでもいいか!」


これぞThe異世界クオリティ。

この世界の長ネギはシチューの具材なのである。

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