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刃草②

「ソラもう上がっていいぞ」


「はーい、お疲れ様でした!」


料理長からお仕事終了の声がかかる、現在の時刻は21時でギルドが定めた15歳以下の終業時間だ。

これはギルド内だけでの規則なのであって街の方では適応されない。


宿場町で働く子供達は割とまだ皿洗いなどをしている時間であったりする、この世界では子供とはいえ貴重な労働力なのだ。

元の世界であればこんな時間まで子供を働かすのなんてありえない!とPTAのおばさま達が猛抗議しに来る所だがここは異世界、子供はまだ寝る時間では無い。


「今日はみんな遠征してんのかな、あんま忙しくなったしラッキー」


ギルド酒場のピークタイムは大体19時〜21時頃、駆け出しや日帰り冒険者達の夜飯の時間だ。

冒険者達はクエストによって森やダンジョン内で野営する事もある、危険な夜道をわざわざ帰ってくる者など居ない。


無理に帰ってくるより日が暮れる前に安全地帯を見付け、見張りを立て魔除けや結界などをしっかりと施し一夜を明かす方がまだ安全なのである。


ギルドの酒場は大体深夜2時頃まで開いてはいるがその時間まで居座る人はほぼ居ない、あまり遅い時間に帰ったり騒いだりすると宿の主人に迷惑がかかるからだ。


しかし独り身の冒険者達は飯を食い終わっても宿に迷惑がかからないギリギリのラインを見定め、怒られない程度にダラダラと酒を飲んで寂しさを埋めていたりする。

冒険者と言う職業上安定した収入は無く、危険も伴うので彼女や嫁を作れるのはC級くらいからであろう。

頑張れ独身冒険者。


「さて、ついにやって来ました。刃草の調理タイム!これは絶対ネギだろ、ネギにしか見えない」


今日1日中楽しみにしていた時がようやくきた、待ちに待った刃草の調理。

楽しみ過ぎて配膳の時顔馴染みの冒険者に沢山語って来たまである、まぁみんなに変な顔をされたが。

そんなおかしいかな…。

だって楽しみじゃん見た事無いんだし。


とは言え俺が突拍子も無い事を言い出すのはもういつもの事なので、大体の人が変な顔をしながらも生温く流してくれるのである。

俺は変に直感働くし異世界人だからね、この世界の人には伝わらない言葉とかがたまーにポロってちゃうんだ。てへぺろ。


「刃草って言っても葉っぱの部分は少し厚みがあるんだな、多肉植物みたいだ。」


刃草は元の世界のネギとは違い、緑の部分は真っ直ぐの形をしていない。

どちらかと言うと多肉植物寄りの見た目だ、アロエと言った方が伝わりやすいかもしれない。


根っこの部分は丸っきり長ネギと同じで1本ではなく3-5本ほど生えていて、その根っこの下部には髭のような根っこがまた生えている。


という事はこの長ネギは植物で言うところの茎にあたるもの…?

だがこの長ネギのような根っこ、真っ直ぐのものもあれば少しうねっているものもある。

さすが異世界植物、意味不明である。


「確かにこんなのがいっぱい生えてたら嫌だなそりゃ踏みたくもなる」


アロエのように細長くしかもこれがスパスパ切れる上に大量に生えているとなると見るだけで嫌気が差しそうだ。なんなら焼き払いたいとまで思いそう。


元の世界基準だと職場に行くまでにとんでもなく針が強いサボテンが大量に生えているようなものだろう。

異世界厳し過ぎないか?


「根っこ部分はネギなんだしネギの匂いもする、聞いたとこ毒も無いみたいだし少しだけそのまま生で食べてみるか」


根っこの長ネギを1本包丁で切り、さらにそのネギを半分に切り少し齧る事にした。


「お味はどうかな…うぇぇえっ!?」


な、なんだこりゃ…!ネギはネギだ。

元の世界のネギの味そのままなんだが、

味が濃すぎる!

ネギを3本くらい絞ってネギエキスを濃縮して1本のネギにしたんじゃないかって思うくらい濃い。

とても食えたものじゃない、1口齧っただけでも分かる濃さだ。

恐るべしネギエキス……!


「うぇぇ…しかも口に残る…。しかも臭いも凄い。」


あまりの衝撃にぐおおと唸り声を上げバタバタと裏手に周り水を飲みに行くと、騒音を聞き付けたのか店内の方から近付いてくる足音が聞こえた。


「なになにどうしたのソラくん大丈夫?変な声出してたけど。…うわくさっ!変な臭いする、これなんの臭い?」


店内から駆けつけてくれたこの人はギルドの受付嬢兼酒場の給仕係のニャンさんだ。

ニャンと言う名前を聞くとつい猫を思い浮かべるがこの人は猫の獣人ではなく、ハチの獣人だ。


猫や犬の獣人であれば耳や尻尾がはえているがハチの獣人には耳や尻尾は無い。あるのは頭にぴょこんと生えているハチのような触覚。

それがコロコロ変わる表情な合わせてしょぼくれたり元気にピコピコ動いたりする。かわいい。


ハチの獣人ハニー族のニャンさん。

冒険者からはちにゃんと親しみを込めて呼ばれている。


「うわ、ソラくん刃草なんて食べたの?これめちゃくちゃまずかったでしょ〜、間違っても葉っぱの所なんて食べちゃダメだからね?」


「うぇぇ…まだ残ってる気がする。ニャンさんすみません、なんだかこの刃草食べれる気がしたので調理しようかと思って」


「むむっそうなの?ソラくんがそう言うならもしかしたら食べれるのかもね。でもちゃんと気を付けてね?葉っぱの所はほんとに危ないから」


そう言ってただ不味い物を食べただけだと確認したニャンは店内へ戻っていく。

ニャンさんは優しい人だ、いつも細かい所に気が付いて声をかけてくれる。


それに加えて面倒見も良く、駆け出しからベテラン冒険者まで幅広く人気の受付嬢だ。

特に駆け出しには危険が及ばないように様々な知識やサポートなどをしている。

ニャンさんがギルドに来てから駆け出しのなんと生還率が2割も上がったんだとか。


そのせいかニャンを聖女と見立てて崇拝する熱狂的なニャン信者なども生まれており、様々な悪漢や陰口などから守られているのである。

徳が高いって言うのはああいう人の事を言うんだろう。


ちなみに1年ほど前にニャンに優しくされたよその街からの冒険者が「俺は一目惚れされた!」などと勘違いして、ニャンの宿まで押し掛けるストーカー紛いの事件が発生したんだとか。

騒ぎがあった翌日には既に本人は詰所に連行されており、その後の行方は分からない。


きっと知らない方が良いんだと思う。


「まじかぁ食えると思ったんだけどな、このままじゃ薬味としても使えない。」


「うーん味が濃すぎるんだよな、どうにか薄められないか?」


俺はネギに入っている成分が何なのかは全然分からない、元の世界では工業高校出身でありそのまま就職をしたくらい理数系には疎い。


確かネギのネバネバは甘み?旨味だったかを助ける働きがあったとか…、持ってる知識はその程度だ。


「あっ、そうだダン芋。あれは水に漬けたら皮剥けるようになるし、水に漬けたら少しは薄くなるんじゃね?」


硬いなら水でふやかせばいい、濃いなら水で薄めれば良い!と単純な考えの元、さっそく水に入れてみる。

…単純すぎるだろうか?


「一応変化見る為に何本か別の桶で試してみるか」


せっかく5本も根っこがあるので、3本くらいで試して見る事にした。

1本目は刃の部分が着いたままの長ネギをそのまま。

2本目は刃に限りなく近い所で切り落とし、長ネギだけを。

3本は刃を切り落とし、またさらに長ネギを半分に切ってから髭のような根っこが付いている方を水にいれた。


「これで大丈夫かな…とりあえず様子を見よう。」


ダン芋は3時間だから…とりあえず1時間置きに見てみるか、そう思いながら未だに強烈なネギ臭がする口をゆすぐのであった。

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