水底
お疲れ様でございます
ちょっと短編なんて書きたくなっちゃった病が出てしまいまして
いや、先にぼくコレ書けよって話ですけど
これから頑張って書きます
それでは水底、どうぞ
「…さて、どうしたもんだろうな…」
椅子に座って反り返り、男が一人、考え事をしている
その傍には一人、男の死体が転がっていた
紐で首を絞められており、既に息の根は止まっている
男の名は、石崎幸治―――
恋人の由紀子を脅迫し続け、長らくたかり続けていた男を、たった今絞め殺したところである
そしてその男はどうやら、息を引きとる間際にスマホで110番を押していたらしい―――
現在階下に、パトカーのサイレンが響いている
恐らく、時間の問題でこの部屋まで上がって来る事だろう
スマホの位置情報だけでは、何階からの発信かは分からない
1階から虱潰しに当たって、6階のこの部屋まで辿り着くには少々の時間がある筈だ
幸治はビニール紐の玉から端を掴み、数十メートルほどを引き出し始めた―――
チャイムが鳴り、疲れた顔の刑事が、インターホンの前に顔を出す
警察手帳を開いて示しながら、インターホンの向こうから話し始める
「…夜分に申し訳ございません、山口県警です…ちょっと話をお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あ、はい。少々お待ち頂けますか?ちょっと服を着てきます。今私、Tシャツとパンツ一枚なものでして」
最後に、殺した男のスマホからSIMを抜き、トイレへと流す
指紋を綺麗に拭き取ってから、スマホ自体はベランダから近くを流れる川へと投げ捨てた
これでもう、誰の仕業なのかは分からない―――
調理用の薄いビニール手袋を剥いで捨てながら、玄関の刑事の方へと向かう
「…すみません、お待たせ致しました。何のお話でしょうか?」
「はい。この辺りで通報がありまして、現在被害者の方を捜索中なんです。お宅の方を拝見させて頂いても、よろしいでしょうか?」
言葉遣いこそ柔らかいものの、有無を言わせないといった雰囲気である
後ろにいるもう一人の刑事も、どうやら同じ考えのようだ
「…あ、はい。どうぞ。ちょっと服とかゴミ袋とか散らかっているんですけれど、お気になさらず」
最後まで聞く事もなく、刑事が部屋に上がり込む
二人目も続いて部屋に上がり込み、その辺りの家探しを始める―――
何か、おかしい…
刑事の勘が、そう告げている
他はまんべんなく脱いだ服やペットボトルが散らかっているのに、何故ここだけ何にも物が無いのか、
何故、絨毯に何かを引きずったような跡が残っているのか
この跡は、大人一人を引きずった、といったサイズと一致する
「…少々、お話をお伺いしても宜しいでしょうか?」
もう既に、刑事は幸治を容疑者として疑っている
連絡がつかないという事は、お前が殺してしまったんだろう?―――
その被害者の死体が、今この部屋にあるんだろう?―――
言葉にこそしないものの、刑事の目がそう言っている
僅かに動揺を見せた幸治の顔色を見て、刑事はその確信を持つに至った
「…いえ、部屋に一人で居ただけですので、お話するような事は特に何も。Youtubeで音楽を聴いて、猫動画を見ていただけです」
「ああそうですか、では捜査の方を行わせて頂きますね。失礼します」
もう既に家探しを始めている刑事が、気のない声で答える
恐らく、この男だ―――
この部屋で被害者は殺されて、その絨毯の上を引きずられたのだ―――
そこまでは、どうやら間違いない
問題はその死体が、この部屋のどこに隠されているかだ
トイレ…風呂場…押し入れ…
人一人が入りそうな場所を、次々と暴いていく刑事
だが、どこを探しても死体は一向に見つからない
最後にベランダを開け、念入りに見渡したところで捜査は終了した
「…どうも失礼致しました。またお話をお伺いさせて頂く事もあるかも知れませんが、その際にはご協力の方をお願い致します」
「はい…あ、私の番号、お伝えしておきましょうか?平日は仕事で居ませんので、こちらの方にご連絡頂けると助かります…いや、会社にお巡りさんが来るとか、流石に何事かって思われちゃうでしょう?」
メモ用紙に番号を書き、刑事へと手渡す幸治
お前なんだろう?―――
メモを受け取りながら、幸治を真っ直ぐ見つめている刑事の目は、そう言っている
「…はい、ではこちらの方にご連絡させて頂きます…それでは捜査を続けますので、失礼致します」
探すだけ探したが、この部屋では死体は見つからなかった
後は6階の残りの部屋を当たって、他に怪しいヤツが居なければ、こいつに見張りをつける
犯人を探し求め、二人の刑事が次の部屋へと赴く
幸治が狙っていたのは、このタイミングであった―――
まだ捜査の初期段階であり、他の刑事の見張りは居ない
夜のベランダから辺りを見渡して、その事を確認したうえで、幸治はベランダから吊るしてあるビニール紐を切った
紐の先には殺された被害者が毛布に包まれて吊るされており、縛っている紐は植木鉢で隠されていたのだ
落ちた先は植え込みであり、バサッという少々の音がしただけである
すぐさま階下へと階段を駆け下り、己の車の後部座席へと死体を運び込む
誰かに見られていなかっただろうか?―――
いや、問題ないだろう
現在、夜の22時半
このマンションの住人達は、この時間に出歩いたりする事はまず無い
車のエンジンをかけ、とある漁港を目指す―――
幸治が発車して数分後に、見張りの刑事達の車がマンションの傍に集まり始めた
漁港で使い古されて捨てられている、錆びた鎖を拾う幸治
この長さであれば、恐らく十分であろう
小さな漁船に入っては懐中電灯で中を照らし、鍵がついている船を探して艀を渡ってゆく
見つけた一隻の漁船のエンジンをかけ、沖へと船を走らせる―――
「…お前があんな真似をしていなかったら、俺もこんな真似なんてしなくて済んでいたんだ…じゃあ、悪く思うなよ?お前のせいなんだ」
全身に錆びた鎖をグルグル巻きにされ、腐って体にガスが溜まっても浮いてこないように、肺や腸に包丁で穴を空けられた男が、ゆっくりと水底へと沈んでゆく―――
船で戻って車の扉を開いたところで、幸治がスマホを取り出した
「…ああ、由紀子さん?…話はつきました…もう、大丈夫ですよ」
ホントにね
PCがまともに動かないのって、私みたいにPCと一体化しているような人間にとってはマジで最悪です
はやくなんとかしないと