ファイヤーワークス・ツインサマー
前回の投稿から1ヶ月立ちました。時の流れって早いですね。
皆さんは今夏、花火をご覧になりましたでしょうか?
では、拙いですが最後まで読んでもらえると幸いです。
「夏だね」
透明な彼女はそう呟く。微笑みは僕には見えない。実態はない、でも確かに彼女は今ここにいる。
「私と喋れて嬉しい?」
幽霊。そういえば今日からお盆だったと思い出す。
会えて嬉しい気持ちと、あの時救えなかったやるせない気持ちがないまぜになって、僕の心を覆う。返答のタイミングを逃して、結局は頷いた。
「あの話?仕方ない事故じゃん。◯◯は悪くないよ?」
見透かされていた。その言葉に少しだけ救われたが、やはり心に刻まれた罪悪感を消すことはできない。
「…でも、やっぱりもうちょっとだけ生きていたかったなぁ」
表情は見えないが、感情は推察できる。僕だってそうだ。もう少しだけ生きていてほしかった。
「一緒に夏祭り、行こうって約束してたのにね」
生前の彼女との、生々しい記憶が蘇る。無意識に涙がこぼれ落ちる。
胸が押しつぶされそうなほど苦しくなる。
「ご、めん」
あの時、助けてやれなかった自分を責める。誰も悪くないとわかっていても、それでも、僕は何もできなかった。臆病だった。怖かった。
そうして彼女だけが亡くなって、僕はぬるま湯に浸って生きている。いつしか僕は自己嫌悪になって、現実から目を背け続けていた。
謝ってもなにも変わらない。でもそうしないと、僕は永遠に現実から逃げてしまうだろう。
彼女は返す言葉に困ってるようだったが、しばらく経つと「ううん、気にしないで」と力なくささやいた。
そのままお互いに降りる沈黙。いつもはうざったい肌を刺す紫外線はしかし、今はその痛みが心地よかった。
不意に、彼女の感覚が肌を撫でる。続いて彼女は、場違いなほど明るい声でこう言った。
「夏祭り、連れってってよ」
「綺麗だね〜」
どうやら彼女の声は他の人には届かないらしい。会話をしようとすると傍からは一人芝居に見えてしまうらしいので、適当に相槌を打っておく。
幽霊は飲食や物体に触れることもできないようだ。少し悲しそうな雰囲気で僕を見ていたが、金魚掬いや射的では緊張のせいか手が震えていた僕を言葉でサポートしてくれたし、食べ物はしきりに食レポを求めてきていた。正直味はあまり感じなかったので、美味しいとだけ伝えた。
そして今は夏祭りのトリ、花火大会が行われている。河川敷に腰掛けた僕と、隣に座っている彼女は、揃ってその美しさに目を奪われていた。
「今日はありがと。ごめんね?無理言っちゃって」
僕は黙って首を横に振る。彼女が隣で微笑むのがわかる。
目の前の色とりどりの花火が、彼女の美しさを際立たせている。
「先に逝っちゃって、思い出も全然できなかったけど、今日は幸せだったなぁ」
僕も幸せだったと、そう言おうとしてやめた。
この花火大会を、彼女だけのものにしてあげたかった。
最期に1番大きな花火が打ち上がって、散った。
夏祭りが終わったあと、人々は1人また1人と帰っていき、僕と彼女だけが残された。
「じゃあ、私たちもそろそろ帰ろうか」
そう言って彼女は立ち上がった。続いて僕も立ち上がろうとして、奇妙な感覚に陥る。
足の感覚が、ない。
手の感覚も、ない。
僕が困惑して彼女の方を見ると、これまでに見たことのない邪悪な目でこちらを見つめていた。
「あ、気づいちゃった?」
逸る鼓動を抑えながら、僕は違和感に今更ながら気づき始めた。
彼女が見えている。透き通っていた彼女は、いつの間にか夏らしい浴衣に色づいていた。
幽霊は味覚がないそうだ。今年の屋台は外れだと思っていたが、どうやら僕の舌が外れていただけらしい。
そして僕の前に立っているのは、僕そっくりの少女。
僕と彼女は双子だった。
彼女は僕の姉で、僕は彼女の妹。
「ごめんね?悪気はなかったんだよ?
でも私のほうが生への執着が強かった。ただそれだけ」
肉体を僕から奪った『姉』は、唯一透き通っている瞳で僕の目を覗き込む。
「双子ってすごいよね。見た目も何もかも一緒。
一人称だけ変えないといけないのがめんどくさいなぁ。
じゃあ、ばいばい。ありがとね」
感覚も何もかも失くなっていく。
鏡に引き込まれるような感覚の中で、僕は――
「ねえ、僕と一緒に花火見に行こう?」
瓜二つの少女に僕はそう呼びかける。
来年は、僕の番。
夏らしく少しホラーな感じにしてみました。いかがでしたでしょうか?
妹の一人称が『僕』なのは、最初は双子にする予定ではなく、もともとはカップルにする予定でした。
途中で結末を決めるときに、双子にしたほうがよくない?と思ったあと、一人称を直すのが面倒になって結局僕っ娘になってしないました。まあでもミスリードっぽくなったので良し(良くない)
最後まで見てくださり、ありがとうございます。よろしければ是非他の作品も見てください。