第95階層 地球は……
衝撃の地球は丸かった事件から一夜が明けた。
ダンジョンの中ではお祭り騒ぎ状態。
昨日は地球は丸かった衝撃で忘れられていた様だが。
成功したのだ!
人工衛星の打ち上げに!!
各部屋には、人工衛星チャンネルなる物が追加され、いつでも地球を眺める事が出来るようになっている。
それで、ようやく実感が湧いたのか、今日は朝からどんちゃん騒ぎでござる。
そしてなぜか、そんな中でもクレスフィズ皇子だけは、オレを見張って来ている。
なんなのあの人?
打ち上げ計画に熱中していたはずなのに、今日ぐらい成功を喜べば良いだろうに。
人工衛星の打ち上げも終わった、まもなく、アクレイシス女王との婚姻も決まる。
そろそろオレを排除しよう、とでも思っているのだろうか?
まあ良い、そちらの懸念事項はひとまず置いておいて、先にこっちを片付けよう。
そう思い、アメリカ$ダンジョン――――――メイクィースさんのダンジョンの最深部に向かう。
そこでは、ハーキャットさんとメイクィースさんが頭を突き合わせて何やらやりとりをしていた。
メイクィースさんが『ニゴウキ、ハ、ホシイ』と言えば『分析が先!』というアニメキャラのスタンプを出しているハーキャットさん。
もう一つの懸念とは、この二人の事。
打ち上げ前はギスギスした関係であったが、成功した今では、互いの知識を交換しあっているかの様だ。
まあ、今、宇宙の知識を持っているのはハーキャットさんだけだ。
メイクィースさんも折れるしかない。
2号機がほしい、なんて言ってはいるが、はっきり言って、昨日のはまぐれだと思う。
もう一回、同じことをヤレと言われても無理だべ。
なお、オレにコントローラーを渡した理由は、一番冷静に操作ができるだろう、と思いつたからだそうだ。
いい加減、思い付きで行動するのは止めてもらえませんかね?
当初、コントローラーを握るのは女王陛下の役目だったらしい。
それが直前になって日和った様で、オレの顔を見たとたんバトンタッチして来たという。
すでに爆発のタイマーも入っていた様なので、説明している暇もなかったそうだ。
しかし、最後のやつは、一つ間違えれば、真下に向かってブーストしていたかも知れん。
目押しのパチスロじゃないんだから。
ちゃんと実験して準備して、万全の体制で挑むべきだと思います。
切り離し機構が難しいからと、爆散させようって誰が言い出したの?
まあ、それが誰かは予想がつきますがね。
しばらくするとハーキャットさんが姿を消す。
どうやら本格的に宇宙空間の分析に入る模様。
あの人工衛星は、ハーキャットさんのダンジョンの一部として認識されているそうだ。
なので、人工衛星まで状況を確認しに行った。
さて、あとはこちらの問題だな。
オレは一人になったメイクィースさんの元へ近づく。
今回の人工衛星の開発によって、多少は人間の事を理解してくれているはずだ。
アメリカ$ダンジョンでは未だ多くの人が亡くなっている。
なんとか手加減してもらえないか交渉するなら今しかない。
モンスターのレベルを下げろ、とまでは言わない。
だがせめて、即死級のトラップぐらいは減らしてほしい。
メイクィースさんは千年以上を生きるダンジョンだ。
人間など餌としてか思っていない。
消費して何が悪い、と言った所だろう。
そこら辺の意識を変えてもらうためにオレは一つのアイテムを持って来た。
それをメイクィースさんの前で開く。
そこには一枚の絵が描かれていた。
オレが下書きした物を、バーセルク兄上に頼んで清書してもらった物だ。
そこには、地上から延びる一本の柱。
それは、地球をぐるっと囲む、土星の輪の様な建造物まで届いている。
そう、そこに描いている物は、軌道エレベーター並びに、宇宙ステーション計画、である。
ダンジョンには、塔の様な、地上から上に伸びるタイプもある。
だが、その高さは、せいぜいが雲に届くかどうか、まである。
宇宙まで続くダンジョンは存在しない。
だが今回、宇宙に行く手段を手に入れたことにより、逆に宇宙から地上へ向けて成長させるダンジョン作成が可能になったという事だ。
さらに地上からも延ばせば、いずれその二つは交差する。
千年もかけて成長してきたダンジョンだ、成長だって頭打ちだ。
ここでは、人間はただ、自分が生きるためだけの餌として消費されている。
そこでオレは、千年を掛けて成長する、ミレニアム計画を立ち上げる。
だがこれには人の協力が不可欠だ。
消費して減らせば、その分、完成が遅れる。
そう人は消費するエサではない、成長するための資源である。
という事を力説してみる。
メイクィースさんはジッとオレが持って来た絵を見つめている。
しばらくして『オマエ、キョウリョクスルカ?』と問いかけてくる。
「もちろん、協力いたしましょう!」
オレがそう言うと、手を差し伸べてくる。
オレはその手をガッチリと掴むしぐさをする。
と、一瞬、何やら不思議な感覚が手に伝わる。
メイクィースさんはホログラムだ、ホログラムだからこそ、実際にその手を掴める訳ではない。
訳ではないはずなのだが……何か本当に手を掴んだ、そんな感触がしたのであった。




