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第7階層

「ピョッ!」


 目の前に居る、やんごとなきお方の喉の奥から妙な声が上がる。

 大量に積まれた札束(物理装備じゃないほう)を見てビビッておいでだ。


「一体、私に何をさせようという気だね?」


 そう言いながら、札束を抱え込む。

 相変わらず扱いやすいお方である。


「いえいえ、これはただ単なる『いつもの』寄付でございますよ」

「ふむ……フムフムフム、なるほど『いつもの』だねえ」


 そこでオレはすかさず『世間話』として、ダンジョンコアが欲しいなぁ、と話を持って行く。


「ほうほう、そうだねえ……そう言えば余っているのが、あった様な気がするかも……しれないかなぁ」


 何事も助け合いが大事だよねえ。などと言いながらチラチラとオレの隣を見やる。


「ああ、コレはお土産です。私の領地でとれた一番良い所だけを集めた、最高級品でございます」


 隣に置いていた袋を開き、白い粉がギッシリと詰まっているのを見せる。

 それを見て喜色満面になる、目の前のやんごとなきお方。

 すぐにでも『調理』させようか、と言って、近くで控えてる執事にその袋を渡し持って行かせる。


 二人っきりになった部屋で声を潜めて話を続ける。


「いつなら都合が良い?」

「五日ほどはクライセス家の本屋敷に滞在する予定にしております」

「ならば、その間に持って行かすとしよう、期待して待っていると良いぞ」


 ハハッ、ありがたき幸せ。などと、どこの越後屋と悪代官だよ、みたいなやり取りをする。

 そして目の前にいるお方、自由に王宮の宝物庫に出入りできる権限を持たれたそのお方、その名をアクレイシス・カーラードと言い、何を隠そう、このカーラード王国の王子様、次期国王となる人物であった。

 悪代官などと言う小物では無い、悪の王子様である。


 ただまあ、書面上は王位継承権第一位なのだが、誰もこの王子様が次の王様になれるなんて思っていなかったりする。


 なにせ、すこぶる評判が悪い。

 ゴロツキのような悪友共と、毎晩、あちこちを練り歩いては問題を起こしている。

 遊ぶ金が尽きたら、王宮の備品を持ち出して、寄付という名の資金に換えている。


 こんだけ大量の資金を得ても、数日で使いきってしまうほど金遣いも荒い。


 下にいる二人の弟王子がこれまた優秀で、それと比較されたりもして、さらに評価が下がる一方。

 本人はすでに諦めているのか、そんな状況でも何食わぬ顔で遊び惚けている。

 王様? そんなの成りたい奴がなりゃ良いじゃん。みたいな感じだ。


 その所為で、この第一王子の後ろ盾は、我が家、クライセス家のみという悲惨な状況。


 ただ、オレはこの王子様、嫌いじゃない。

 王子としてはどうかとは思うが、人の也としては気に入っている。

 ケチケチせずにパァッと金を使う所とかな。


 確かに色々と問題を起こしているが、きちんと賠償もしてお金を置いていく。

 まあ、問題を起こしてもお金で解決している。と言えはそこまでだが。

 お金すら出さずに放置するような奴よりゃマシだろ?


 それに、街の奴らにゃそれほど悪い感情を抱かれていない。


 なにせ、大金をばら撒いていくんだ。

 王宮にプールされた資産を金に換えて、下町でばら撒いている。

 それはまるで、前世の政府がやっていた、低所得者向けの給付金に近い。


 さらに、普通なら王子様なんて顔を見るのですら滅多に無いはずの平民でも、隣で酒カッ食らって一緒に笑っている状況だ。


 上流階級の評判は底辺でも、市民からの人気はそこそこあるんじゃないかと思っている。

 だからそこら辺をつけば、ワンチャンあるんじゃないかと企んでいたり。

 ダメならダメで、それでも構いはしないけどな。


 誰が王様になろうと、辺境の領主にはそうそう関係は無い。はず。


「お待たせしました。こちらが『調理』済みの物でございます」


 暫くすると、白い粉を持って行った執事が帰って来た。

 そしてその手には、ふかふかの白いパンが乗ったお皿を持っていた。

 そう何を隠そう、先ほどの白い粉――――ただの小麦粉です。


 別にヤバい粉じゃ無いんだよ? いや、この世界ではある意味ヤバいんだが。

 なんで小麦粉なんかをありがたがっているかと言うとだね、実はこの世界、穀物は食料として見なされていなかったのだ。

 なら何を食ってんだよって話なんだが、一番多く食卓に上がっている物はお肉である。


 贅沢だなコイツラ、と思う方も居るかもしれないが、それにはこの世界特有の事情がある。

 なにせ肉、いくらでも獲れるんですよ。

 ちょっと森に入ればモンスターが居る。


 イノシシでも軽トラサイズ。


 一頭の牛からは1000人分の肉が摂れると言われている。

 そんな牛よりでかいサイズの奴がゴロゴロ居やがる。

 しかも、いくら乱獲しても減りそうな気配がしない。


 中にはマンモスサイズのモンスターだって居る。


 マンモス一体でいくらの肉がとれるか知っていますか?

 毎日三食、肉を食っても50人が一月を過ごせるそうです。

 倒すのは命懸けだが、一体倒せば数か月は生きていける。


 そして、前世で主食となっていた穀物の保管や調理法が進化していたのと同じように、この世界では肉の保管や調理法が進化している。


 小麦と同じような、粉々にして乾燥させて加工して、みたいな事までやっている。

 子供の頃に出て来た、四角い豆腐のような物体を見てナニコレと聞くと、肉と答えられた。

 食べてみると確かに肉の味がする。


 種類も色々あって、見た目は四角い豆腐なのに、食ってみると、ハンバーグやステーキの食感がする。


 初めて食べた時は脳がバグったほどだ。

 肉料理だけなら前世よりかなり進んでいる。

 きっと前世でも、未来の宇宙食はこんな感じになっていたのかもしれない。

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