第67階層 とある冒険者その2
「ここが日本円ダンジョンか……」
このダンジョンでは真に実力のある者しか進めないと聞いた。
私は、とある町でAランクの評価を受けた冒険者だ。
だが最近、伸び悩みを感じている。
そこで、自分の実力を知るという意味でも、このダンジョンに挑戦する事に決めた。
なにせココでは、敵であるダンジョンが判定するランキングがあると言う。
巷の冒険者のランクは正直に言って、当てにならない部分がある。
一部では金でランクが売買されていると言う話も聞く。
それに、判定する存在が人間だ。
どうしても、好き嫌いで手加減したり、判定が厳しくなったりする。
事実、私の町でも実力はあるはずなのにランクが低かったり、大した実力もないのにランクが高い人が居た。
しかし、このダンジョンではそれがないと言う。
冒険者の真の実力をみて判断される。
まずは1階層。
軽く周ってみたが数時間足らずで完走した。
まあ、ここは手習し、のような場所だ。
2階層、そこでもまだ、苦戦するようなレベルではない。
そして3階層目、ココからはトラップが仕掛けられているそうだ。
落とし穴――――下は肥溜め、毒ガス――――しゃっくりが止まらなくなる、等の嫌がらせのようなトラップがあるらしい。
ただ、死にはしないだろうが、どちらも一発で戦闘が継続出来るような状況でなくなる、危険な罠には違いない。
悪臭を漂わせて戻って来る冒険者を見て、ああは成りたくない、とつくづく思った。
慎重に3階層を駆け抜ける。
4・5階層も順調に進む。
5階層では苦戦したが、なんとかソロで突破出来た。
問題は6階層、モンスターが団体で現れるようになり、一人では厳しくなる。
ランキングは……4位か。
各階層別にランキングが表示され、私の6階層でのランキングは4位となっていた。
しかし、この技術はいったいどうなっているのだ?
4位と書かれた台座の上に、私とそっくりな人物が立っている。
それはゴーストの様に少し透けていて、触れようとしても突き抜ける。
ダンジョンのモンスターの中には、人に化けるモンスターが居るとは聞くが、ココまで鮮明にコピーが出来る物なのか?
自分の体の背後まで見られるとは、鏡などとは比べ物にならないほど不思議な物だ。
とにかく、この階層はソロで突破するのは難しいと判断した私は、私より上位のランカーに声をかけてみる。
「申し訳ございません。私はすでに自分のパーティを持っているのですが……」
どうやら一人だけ5階層を突破してしまったようで、他のメンバーが6階層に来るまで待っているそうだ。
このダンジョン、一度、突破してしまった階層には行けなくなる。
なので一人だけ先行してしまうと、他のメンバーと合流が出来なくなる。
そうなれば、新しいメンバーを探すしかないのだが、この人は、他のメンバーが来るまで待つ事にしたようだ。
「ハッ、俺は、俺よりつぇえ奴としか組まねえ」
ランキング2位の人物をあたってみるとそう答える。
……君より上の実力者は、この階層では一人しか居ないのだが?
その彼と組んでいるのか?
「ハッ、あんな陰気くせぇのと組めるかよ。しかも付与術士だぜ、そんなのが俺より上とかこのランキングもおかしいんじゃねえの」
……じゃあ君、いったい誰と組むの?
実力があるのに次に行けてないという事は、他に問題があるという事かも知れないな。
そして、1位の人。
「………………」
ひたすら無言。
何を話しかけても反応がない。
2位の彼は、付与術士だと馬鹿にしていたが、私はそうは思わない。
むしろ、ダンジョンのランキングが正しく反映されていると、確信するぐらいだ。
付与術士と剣士なら剣士の方が強いだろう。
付与術士×剣士と剣士×剣士、これでもまだ、剣士が多い方が強い。
だが、付与術士×剣士3人と剣士4人ならどうか?
付与がかかる事により、剣士3人には剣士4人分の力を持つ。
さらに付与術士本人が剣以外での攻撃が出来、バリエーションも広がる。
そしてその付与術士が自分の身を守るぐらいの実力があれば、剣士4人など、相手にもならないだろう。
メンバーが増えれば増えるほど、比例してパーティ全体の能力が上がる。
ソロでずっと戦っているような2位の彼には分からないかも知れないが。
それに付与術士なのにココまで一人で来られているという事は、その実力もかなりのものなのだろう。
私よりランキングが上だと言うのも気になる。
ぜひ彼と組んでみたい。
そう思った私は根気よく彼との交渉を続ける。
さらに6位と8位だった人物も交えてパーティを結成、6階層を突破する。
そうして迎えた7階層、これまでの集大成だと言わんばかりに、難易度が上がっている。
全員で協力して、なんとか突破出来たが……
8階層ではほとんど前に進めない。
ランキングも付与術士である彼がかじろうて9位に入り、私の存在はどこにも無い。
今現在、このダンジョンは8階層まで突破済みで、次の9階層が最終ラインとなっている。
すなわち、私の実力は、まだ最終ラインにすら届いていない事になる。




