第63階層
さて、ヴィーガンなお国から来た皇子様について、野菜料理に穀物を足してお出しせにゃアカンかな、と思っていたのだが、普通に肉を食っていやがるよこの方。
しかもバクバクと。
この世の天国だ~、みたいな顔をして、毎日3食、欠片も残さずにキッチリ平らげている。
オカシイナ? ヴィーガンなお人が、急に肉を食べ始めると拒否反応があるはずなんだが、それも無い。
もしかして、こっそり隠れて食べていたとか?
なお、一緒に付いてきた主治医の方などは、そんなに肉を食べていない。
護衛の方達については、戦闘職だから、元々、肉は食べているから参考にはならない。
小麦効果の検証の為に来た平民なお人達も、お肉は普通に食べている、と言うか肉しか食ってなかった人達だ。
その方達と同じぐらい、肉を食べている皇子様。
「カーラード王国って凄いね! 何を食べても美味しいや。もう美食の国って呼んじゃうよ!」
話し方もとても皇子様とは思えないんだが……最初のアレはどこ行った?
まるでアクレイシス女王様がもう一人増えたような気分。
そしてその二人、妙に仲が良いんだよね。
良く二人で話し込んでいるのを見かける。
今日も夜遅くまで、女王陛下の私室に入り込んでいた。
「それにしても深夜に寝室に入るのはどうかと思うのだが……もしかして浮気されている?」
オレがそう呟くと、オキクさんの表情がピクリと動く。
珍しいな、何時も無表情なのに?
そのオキクさんは、オレが気落ちしているのを見てか、スッとレモンティーを机の上に置いて、隣に座る。
なんか落ち着くね。
こういう、控えめで凛としている女性――――やまとなでしこって言うか、嫁さんにするならこういう女性が良いよね。
女王が浮気してあっちの皇子様とくっつくなら、オレはこのオキクさんとくっつくか。
まあ、そういう訳にもいかんだろうが。
女性として意識していない、つもりではあるはずなんだがなあ。
最近、女性としての経験値が上がったのが、仕草や表情が……偶にドキッとしてしまう時がある。
唯一の救いは、男性経験が長かった所為か、露出が多い服装を好まないって事か。
おかげで、まだ一線を越えずにいられる。
と、オキクさんが立ち上がるとオレの後ろに回って、そっと抱きしめてくる。
えっ、何? これ、どういう反応?
困惑していると、スッと離れて部屋を出ていく。
何なの一体?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「聞いてくれないかい! あのイース君が、嫉妬していたのだよ!!」
急にメンバーを集めたかと思うと、そんな事を言ってくる、カーラード王国、アクレイシス女王様。
まあ、私は護衛としてその場所に居たんで知っているんですけどね。
しかし、イース様もすっかり騙されていますよね。
オキクさんみたいな女性が良いとか……本当はあの女王様と同一人物ですのに(笑)。
「思わず、つい、後ろから抱きしめちゃったよ!」
奥手の女王様にしては良くやった方だと思います。
イース様は困惑してただけですが。
耳元で愛してます、ぐらいは囁いても良かったと思います。
「ファリスさん、これって私が聞いても良い話?」
最近、新メンバーになった、グランサード帝国の第一皇子、クレスフィズ・グランサード様が私にそう問いかけてきます。
まあ、疑問に思う気持ちは良く分かります。
なにせ、王国の女王と王配の微妙な関係の話です。
他国の主要人物に知られて良いような話ではありません。
でもまあ、大丈夫でしょう。
ガー様も何も言いませんし。
それにこのお方、とても大国の皇子様とも思えません。
もしかしたら、影武者か、あるいは……どちらにしろ、逆にグランサード帝国の内情を知るのに貢献して頂けるかもしれません。
あとはアレですね、オキクさんに変装している時の女王陛下のアリバイ作りにも使えますし、なんと言ってもイース様への揺さぶりに大変貢献しています。
「そこで何故、愛してる、の一言が言えないのですか?」
あっ、ガー様が私が思ったのと同じ事をアクレイシス女王に言っています。
「そ、そんな事を言われても……照れくさいじゃないか」
「何の為に別人に成り代わっているのですか……そんな事では、イース様は私が貰いますよ」
えっ、それは困る。と言って、ペコペコとガー様にお辞儀をしてご機嫌を取ろうとしている女王様。
一国の女王様の態度じゃありませんよね。
ほら、クレスフィズ皇子も困惑の表情を浮かべています。
「新しいメンバーも入りましたし、おさらいといきますか」
私はそう言って、クレスフィズ皇子へ説明を始めます。
まず、アクレイシス女王とイース様は婚姻関係にあります。
しかしながら、イース様からアクレイシス女王は男だと思われています。
「そこが意味が分からないよ」
ですよね? 部外者であったクレスフィズ皇子の突っ込みはもっともだと思います。
女王は生まれてから即位するまで、表向き、男性として育てられてきました。
理由は、跡継ぎ問題。
中々跡継ぎに恵まれなかった王家。
やっと生まれたと思ったら女の子。
今後、男の子が生まれる保証もないので、その女の子を跡継ぎにさせるために、王子誕生として発表した。
当然、イース様との付き合いも男性として接して来ました。
「でも、実は女性だったと打ち明けたのしょ?」
「その後がだね……」
「そうですよね、何であんな事に頷いたのでしょうかね?」