第62階層 浮気……?
それから暫く話し合いがあり、最終的に、何名かの人員をカーラード王国へ派遣する事に決まった。
そしてその中には皇帝陛下の息子である、第一皇子クレスフィズ・グランサードと言う人物も入っているらしい。
オレ達二人に紹介するので、と、皇家の夕食会に招かれた。
しかし、またしても机の上に載っている物は草ばかり。
せめて芋か豆を置け、ほんとに体調を崩すぞ。
人間は草食動物じゃないんだから。
草食動物には長い腸があり、その中に沢山の微生物が居ると言われている。
そのおかげで草を食べて生きていける。
だが、肉食動物にはそれが無い。
だから肉食動物は草を食べて生きていけない。
その代わり、草食動物を食べる事により、間接的に草からの栄養を得ている。
世の中が肉食動物だけになれば、遠からず絶滅するだろう。
そして人間はどちらかと言えば、肉食動物寄りだ。
草食動物が持つ、長く消化の良い腸は持っていない。
一度に大量の野菜を食べても、消化しきれず、ほとんどが排出される。
さらに、肉食動物の様に間接的に草食動物からの栄養も得られない。
あれは、生で草食動物の腸を食べる事により摂取出来ているそうだからな。
当然、人間が生で食ったら腹を壊す。
だから雑食動物である人間は、肉も野菜も、バランスよく摂取しなければならないのだ。
とまあ、栄養学の話をここでしても理解してはもらえまい。
それを証明する手立てもないしな。
しかし、長年、野菜ばかりを食べて来たなら、そこら辺も気づいているはず。
気づいていても認められない、とか言う奴かも知れないな。
肉には毒がある、だからと言って野菜ばかりでは体に悪い、じゃあ、何を食べれば良いんだって話。
と、座っている内の一人が立ち上がってこちらへ向かってくる。
「これはこれはアクレイシス女王、初めまして、クレスフィズ・グランサードと申します。噂に違わずお美しいあなた様にお会い出来て光栄にございます」
等と言って、うちの女王様の手に口づけを交わす、気障な皇子様。
(どう、うまく皇子様が出来てる?)
(うん、良いんじゃない)
何コイツ、なんでいきなり人の奥さんを口説き始めているんだ?
しかも、何やらうちの女王様と目と目で会話をしているような気がするし。
絶対、初めまして、じゃないだろう。
「おや、イース様がご嫉妬なされている?」
「えっ、マジか!? 旦那にもそういう情緒があったのか」
「これは帰ったら皆さんにも拡散しないと」
聞こえているぞお前ら。
というかブロス、側近の護衛役が主人の醜聞を言いふらすとは何事だよ?
人選、間違えたかなあ。
「今更ですよね、私、元暗殺者ですよ?」
「右に同じく」
「俺なんて盗賊だぜ」
だよね。
ま、今更だ、もう換えようがないし。
こいつら以外に、オレの事を分かって付いて来てくれる奴は居ないもんなあ。
そのうち何やら親密気に、二人並んで食事を始める女王様と皇子様。
アレ? そこ、オレの席じゃね?
後、空いてるのは皇帝陛下の隣なんだが……
なんで皇帝陛下も何も言わないの、どうなっているのコレ?
もしかして、女王陛下に皇子様を婿入りさせて、オレは人質になるとか?
いや、さすがにそんな事はしない、と思いたいが、前世の江戸時代ではそう言う事をやってたんだよなあ。
男女の役が逆だけど。
仕方なく、皇帝陛下の隣に腰を下ろす。
本当に良いのかコレ?
陛下の顔を見ると、呆れたような表情で皇子様を見ている。
「うむ、まあ、教育は追々……」
今から留学なのに?
えっ、教育係も一緒に行くから大丈夫だって?
違う国で教育させて本当に大丈夫なのだろうか?
と、言うかせめて、人の奥さんを口説かいないぐらいは教育して置いて欲しい。
「そちらの女王と我が国の第一皇子の仲が良いのは良い事だろう」
「……そうですね」
限度もありますがね。
「ふむ、そなた意外に愛妻家なのだな」
愛妻家? オレが? ふと女王と目が合う。
ニパッと笑う女王様。
いやいや、アイツは男だぞ?
元だが。いやいや、意識なんてしていないぞ……していないよな?
「それでは我らも食事といこうか」
「ああ、それですが、少し、味を変えてもよろしいでしょうか?」
「ふむ……」
オレは許可を得て、黒い粉を野菜の上に振りかける。
ここの人達、食にこだわりが無いのか、味付けも薄いんだよね。
素材の味を活かした季節の生野菜、と言えば聞こえは良いのだが、ドレッシングすら無いのはどうなんだ?
そこでコレだ! ペッペケペ~、カレーパウダー。
おっと違った、キャロパウダーだった。
例のカレーの味にそっくりのキャロウェイさんの料理。
乾燥させて粉にしたモノがこれです。
水に溶かせば、カレー味になるし、そのまま掛けてもカレー風味が出る。
どうです一つ、お肉成分は入っていませんよ。
「あっ、自分だけずるいぞ」
そう言って女王様が分捕っていく。
皇子様の分にも勝手に掛けている。
大丈夫かおまえ、その人、大国の皇子様だぞ。
そんな得体の知れないモノを掛けたら怒られないか?
「凄い! 美味しい!! えっ、たったこんな粉なのに、味が全然変わっている!」
怒る事もなく、皇子様は絶賛してくれている。
どうです陛下もお一つ。
と、差し出してみると、味見役らしき人にそれを試させたあと、自分も食べてみる。
「むぐっ!?」
むぐっって言ったよこの人。
えっ、コレを売って欲しいって?
良いですよ、なんでしたらレシピも買われますか?
おお、こんなに!?
ちなみに昨日の絵画を描いた人の奥様が考案された料理です。
なんて言ったら目を丸くさせていた。
小麦を食するカーラード王国には、優秀な人材が多いのだな。とそう呟く。
当然、絵の方も結構なお値段で買い上げて頂けました。