第47階層
一国二制度、それは読んで字のごとく、一つの国に二つの制度を用いる事だ。
ここ、ダンジョンシティはそのまま共産体制を続ける。
仮に王都を移すにしても、全ての機能を持って来る必要は無い。
今の王都はそのまま経済の中心として動いてもらって、こっちは政務中心とする等、役割を分担するのもありだろう。
ただでさえリニアモンスターカーの運営で、てんてこ舞いなんだ。
それになにより、ここの主目的はダンジョンで日本円を稼いで来て米と小麦に変える事だ。
この上、全ての行政を持ち込むなど完全にキャパオーバーだ。
収容人数が増えたとはいえ、建築構造もただのホテルでしかない、経済を構築するには少々物足りないだろう。
「今までの王都はそのまま王都機能を残し、ここでは新しい事業を始めたいと思っています」
「ふむ……旧王都は誰が治める?」
「ファミュ王子が治めますか?」
「それは実質、私が王になるのと同じではないか」
そうなりますなあ。
君臨すれども統治せず。
あのお方に今までの枠を当てはめるのは少々酷かとも思いますし。
ならば今までの方法での統治は、別のお方が行えば良い。
「領地を統治する者の代表者、大統領と名を変えて治めてみるのはいかがでしょうか?」
「…………いや、私は一度辞退した身、それならば、弟のバクラットに任せよう」
まさか、ハーたんと離れたくないから、そんな事を言っていないですよね?
「しかし、新しい事とはどんな物だ?」
「まずは……研究機関ですかね」
オレが今まで教会や、村でやっていた、穀物の効果。
それにダンジョンで獲れる品々、特に、焼き肉のタレ(回復特典付)、しゃぶしゃぶのタレ(毒消特典付)について、食べ続けて体にどんな影響があるか調べたい。
自販機で出る塩や砂糖だってなんらかの効果があるのだろう。
マウスでも用意して、本格的に調査するのもありなのではないかと思っている。
「研究機関か……ならば学園機能をこちらへ移すか?」
「それはいい案かも知れませんね」
穀物を主食にすることで知能の低下を防ぐことは分かっている。
この地では上でも下でも採れ放題だ。
これまでモンスターにヤラレ放題だったのも、道具や知恵を使えば挽回が可能かもしれない。
特に平地での防衛が確立出来たのなら、地上での小麦栽培も一気に進む事だろう。
なんなら各国から優秀な頭脳を集めても良い。
そう、よくある学園都市を目指してみるか。
それならホテル機能だけでも十分可能だ。
ここの産業は地下のダンジョンで日本円を回収する、地上で農業を行う、の二つぐらいしかない。
平たく言えば、唯のダンジョンの上にホテルが建っているだけだ。
規模だけはデカいが、所詮はホテルでしかない。
この建築構造を利用するなら、研究施設や学問を行う方法が一番ではないか。
さらにダンジョンなだけあって、万が一、火事や事故が起こっても、別の階層には影響が出ない。
中央にある吹き抜けの縦穴に飛び込もうとしても、見えない壁があって進めないし、上下に移動する事も当然出来ない。
ダンジョンの階層を超えるには、例の転移エレベーターを使うしかない。
逆に言えば、転移エレベーターを使わなければ、問題が起こってもその階層だけで収める事が可能という訳だ。
「人も増やさねばならんな」
あの女王様が暴走したおかげで、出費がとんでもない事になっている。
一気に増えたリニアモンスターカーに与える魔石も買わなきゃ追いつかない。
元々が他国のダンジョンコアだし、本体は他国の所有にするかという案もあったんだが、その国が経費削減とかで魔石を与えなくなって暴れたら、こっちが被害を受けかねない。
他国との直通通路も出来たおかげで、穀物の輸出も急かされる。
大量の日本円をダンジョンで回収して来て、小麦と米に変える必要がある。
地上の小麦も混ぜて水増しするにしても、地上の栽培だって人が足りていない。
もうちょっと緩やかな成長で良かったんだがなあ……あの女王様のおかげで十年は時代が早まった気がする。
「魔石を買うのなら、ダンジョンで稼いだ日本円で小麦を出し、売れば良いではないか」
それも、結局はダンジョンに潜らなくてはならない訳だ。
ほんとダンジョンさんも、良く考えたもんだ。
何が何でも探索させる気マンマンですよね。
あと、ランキングについてなんだが、各階層ごとに変わっていた。
さぼっていたり、手を抜いたりするとランキングが下がる。
なので皆さんのやる気も上がっているという仕様。
ただ問題は、ほぼ日本円しか落ちないので、一攫千金を狙おうという、ごく一般の冒険者はやって来ない。
となるとだ、他所から人を引っ張って来るより、自前で育てた方が良いかもしれない。
学園機能に、冒険者育成コースを突っ込むか。
そう思い、地上に一番近い階層の倉庫になっている場所にトレーニングルームを作る。
さあ、マシンを王都から持って来ようかと思った所、なぜかすでにトレーニングマシンが所狭しと並べられていた。
しかも、オレが作った奴よりクォリティが高い奴。
隣で『がんばった』と言うアニメキャラのスタンプを出しているハーキャットさん。
あんたが作ったんかい。
で、そんな高クオリティのマシンなんかあったらスッ飛んでくる人物が約1名。
まあ、あれはほっとこうと思った所へ女王がやって来る。
「イース君、君んところに縁談の話が来ているのだが、どうかね」
えっ、オレに?
「なんで自分の旦那に嫁を世話せにゃあかんのだよ? 残っているだろ約1名」
「そう言えば残っていますね」
という訳でその1名の所へ向かったのだが。
「私の国は平地ばかりで、ダンジョンもなく、差し出せる宝物もありません。唯一差し出せるもの、それは、この身だけなのです。どうか! 何卒、この身を貰っては頂けませんか!!」
等と言って、その1名に迫っている女性が居たのであった。




