表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/121

第15階層 イースチルドレン

 ガーネットという少女は、そんなイースチルドレンの中の一人だ。


 彼女は穀物中心ながらも、オレの言う、バランスの良い食事とやらを実践し、肉・野菜も満遍なく食べて成長した。

 結果、体の発育は遅れながらも、知力、体力共に他の子に劣らない成長を遂げた。

 どうも、食べれば食べるるほど効果が高い、という事もなく、どちらも一定以上摂取しておけば良い様だった。


 やはり、どこの世界、何時の時代であったとしても、バランスの良い食事が体に一番良いと言う事だ。


 この娘は、オレが行くといつでもすっ飛んで来て、異世界の話を聞かせてとせがんで来る。

 最初の頃は、素直でなんでも言う事を聞いて、可愛いざかりだったので、ついつい構ってしまっていた。

 それが成長するにつれ、増長しだしたのか、自分達はイース様に選ばれた民なのだとか言い出して、他の人間を見下すようになっていった。


 色々、注意はしてみたのだが、あまり効果は無く、むしろ言えば言うほど意固地になっていく。


 周りの大人達からは、もっとビシッと言わないからだ、とか言われるんだが、実はオレ、この世界の言葉は敬語しか話せない。

 最初に思い出した前世知識は、実は日本語なのである。

 周りの人達が何か話していて、アレ、何かおかしいぞ、どこの国の言葉? 等と思った時に、ふと前世の言葉に関する記憶が蘇った。


 その後も貴族生活であり、学ぶ言葉は基本、丁寧な言葉遣いだ。


 普通の子供はそれでも、どっからか拾ってくるんだろうが、オレはかけらも興味がない。

 さらに、どうしてもここは外国という認識が先行して、日本人らしく、外国では模範的な行動をするというのに囚われてしまっていた。

 その結果、相手が平民だろうと子供だろうと――――スラムの浮浪児だろうと、同じ丁寧な態度で接する事が身に付いていたのだった。


 周りからは色々言われたよ?

 そんな対応では貴族として侮られるやなんやらと。

 でも、身に付いたものは覆せない。


 という訳なんで、厳しく叱ろうにも、叱る方法が分からない。

 そのうちガーネットさんは、自分はオレの一番のお気に入りなんだから、他の奴らは全員自分に従うのが当然だと言い出す。

 下の子達をいじめるし、気に入らない奴がいれば暴力だってふるう。


 いつの間にか出来上がっていた孤児達のカースト制度。


 あれだ、令嬢じゃないんだけども、まさしく悪役令嬢って言葉がぴったりなお方になっていた。

 大丈夫かウドゥ、そんなんに任せて?

 というか、そのガーネットさんがトップになったのかあ……寄付を貰いに行きづらくなったなあ。


「ククク、それだけでも、あいつをトップに据えた甲斐があったってもんだ」


 そんな理由で決めていいのかウドゥ?


「それだけじゃねえ、アイツはな、人に命令が出来る人物だ」

「命令? それは誰でも出来るものではありませんか」


 分かっちゃいねえな。と、ウドゥは続ける。


 本当の意味で人に命令できる奴ぁ実はそんなに多くはない。

 ただ誰かに何かをやれって言っても、その誰かが動かないのであれば、命令したとは言えない。

 単に吠えてるだけの小者でしかない。


「人に命令するってえのは、人を動かすって事だ。そして人を動かすって事は簡単にはいかねえ。特にうちのようなゴロツキ連中はな」


 そう言って以下のように続ける。


 人に命令するには大きく分けて3つの要素が重要になる。


 その3つとは地位・正当性・恐怖だ。

 地位とは単純なもんだ、人は伝統的に上からの命令に従う様に教育されている。

 立場が上になるってだけで、従う人間はある程度は出てくる。


 次に正当性だ。

 それがやって当然の事、と思わせればそいつは動く。

 正義感の強い奴に、これが正義だと説けば、人殺しだって平気でやる。


 そして一番簡単で効果の高いのが恐怖だ。

 命令に従わなければどうなるか思い知らせれば良い。

 見せしめって奴だな。


 おっと、コイツを否定させはしねえぜ。


 何せ、どこでも誰でもやっている事だ。

 人殺しをすれば罰として、さらし首にされる。

 それだって、さらし首という恐怖をもって、人殺しを無くさせようとしている訳だ。


 そもそも罪を犯せば罰がある。

 て~のがおかしな話だ。

 本当に裁かれるべき奴は、いくらでものさばってやがるんだぜ。


 なら罰ってなんだよって話だ。

 それは単純な話だ。

 罰があるから罪を犯すなって事だろ。


 それが恐怖を用いた命令以外のなんだってんだよ。

 それにな、失う物の少ないゴロツキに、立場も正当性も通用しねえ。

 恐怖こそが従わせる最善なものになる。


 だから俺はそれを多用してきた。

 許す許さないって問題じゃねえんだよ。

 オレが命令者であり続けるための手段だったんだよ。


「ガーネットさんはそこまで非情にはなれないと思いますが」

「暴力だけが恐怖じゃねえんだよ」


 おめえさんがいじめって言っている事もそうだ。

 私怨なんかじゃねえ、あいつは意図的に、自分に従うように教育をしていやがる。

 だからこそ、あんなんでも、イースチルドレンの連中は付き従っている。


「それに奴には正当性を説く能力にも秀でている。さらに立場を与えりゃどうなるか」


 面白くなると思わねえか? などと良い笑顔で答える。


「それに国一番の商会のトップだ、おめえさんだって迎え入れるのに障害が減るだろう」

「なぜ私がガーネットさんを?」

「向こうがそう言ってたぜ」


 そう言って悪い笑顔を湛える。

 こいつ、確信犯だな。

 クソッ、もうあそこ行けねえわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ