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第14階層

「怪我、治ってんだが」


「………………」

「………………」


 オレ達は暫く無言で顔を見合わす。

 そのうち、商会長のウドゥは黙々と残った焼き肉を消化しにかかる。

 しばらく食い続けてポツリと呟く。


「これ毎日食ってると、どうなるんだろうな」


 どうなるんでしょうかねえ。

 つ~かコレ、ポーションなの!?

 いや、ダンジョンで落ちるビンとかポーションの類なのは分かるが!


 ちなみに焼き肉のタレだけじゃなく、しゃぶしゃぶのタレも落ちたんだよなあ。


 もしかしてあっちは毒消しとか?

 よく見ると、焼き肉のタレのビンは、一般的に流通している回復ポーションが入っているビンに似ている。

 しゃぶしゃぶのタレのビンは、毒消しポーションのビンとそっくりだった気もする。


 ちゃんとビンに、焼き肉のタレ(回復効果付)、しゃぶしゃぶのタレ(毒消効果付)とか書いといてくれないと。


「誰か毎日ポーションを飲んでいた金持ちとかいないんですか?」

「健康な奴がポーション飲んでもなあ……まっ、やってる奴は居たかもしれねえが、それの結果が出回ってねえって事は、変化はしねえんだろうゼ」

「じゃあ、大丈夫ですかね」


「まあ、穀物で寿命が延びるなんて例があるから一概には言えねえがなあ」


 しかしコレ、ポーションとして売りに出すのはまず無理だろうな。


 普通のダンジョン産のポーションならそこそこで売れるんだが、怪我をしたからと言って、コレを一気飲みするのは危険だろう。

 前世でもそんな勇気のある奴は居なかった気がする。

 傷口にかけるのでも凄く滲みそうで、普通のポーションとして使うのは絶望的。


 食用ポーションとして売りに出せばワンチャンあるかも? という程度。


「分からねえぜ、小麦と同じように健康食品として売りに出せば、買う奴は居るかもしれねえな」


 小麦は健康食品じゃねえんだがなあ……まあ、今の品質ならそう言われても仕方ないんだけど。


「まっ、その辺りは新しく会長になったガーネットが考えるだろ」


 ん? ガーネット?


「あの……新しい会長はガーネットと言われるのでしょうか? 女性の方が代表になられるのですか?」


 オレがそう問うと、ニヤリと笑って答える。


「ああ、そうだぜ。あんたも良く知る、イースチルドレン筆頭のあの、ガーネット・ゼロワンだ」


 は! ガーネット!?


 この国の貴族にはいくつかの公共施設を運営する事が義務付けられている。

 その代表的なものは教会だ。

 一定以上の領地を持つ貴族には、土地を用意し、建物を作り、教会を建て、運営していく義務が課せられている。


 教会と言っても、神に祈って幸せになりましょう。等と言うスピリチュアルな奴じゃない。


 もっと実務的な冠婚葬祭を担う場所。

 孤児院・養老院・障害者施設などを兼ねた社会的弱者を守る施設でもある。

 領地を持たない貴族については免除されているのだが、社会的貢献として教会機能の全てではなくとも、一部施設を作って運営している者も多い。


 だが、我がクライセス家は代々金遣いが荒く、そんな物を作っている余裕はなかった。


 ただ、オレが商会から多額の寄付を受けつけるようになり、金に余裕が出てくると、作らない訳にもいかなくなる。

 なので新たに施設を作る事にした。

 とはいえ、辺境にそんなものは今のところ必要ないし、王都でも飽和気味だ。


 だから、王都の外周、街の住民とみなされていない人が住む場所、危険で貧しいスラムに作る事にした。

 他の貴族は、そんな奴らを相手にしてもメリットは無いし、せっかく作っても荒らされるぞ、とは言うが、そういう場所にこそ必要な施設だと思うんだよな。

 そしてついでなんで、穀物の食用に当たり、様々な実験に付き合って貰う事にした。


 若返る、寿命が延びる、等、良い事尽くめ、とは限らない。


 ジジババが食べてそういう効果があるのは分かるが、幼い頃から食べ続けるとどうなるかは、サンプルはオレ一人では心もとない。

 最悪、ヤバい効果があるのなら、生産の中止も検討が必要だ。

 まず無いとは思うが、モンスター肉をほとんど摂らないと、この世界では生きていけない体になる可能性だってある。


 それを続けて幾数年、ある程度の傾向がつかめて来た。


 肉のみを食べている子は20歳まで緩やかな成長をするが、穀物を中心に食べていた子供達は、18歳には成長が止まった。

 止まったというより、成長が早まった感じだ。

 大体、前世と同じぐらいの成長速度。


 普通に穀物を主食として食べていれば、前世と同じぐらいになる様だ。


 逆に、なぜ肉食中心なら成長が遅いのか?

 それは多分、モンスターの肉には毒というか魔素のような物が含まれているのではないかと推測する。

 その毒に適応する体になる為に、成長が遅くなり、ピークを過ぎて免疫力が落ちたとたん、一気に老化が始まる。


 あくまで仮説ではあるが、だいたいあっているのではないか。


 さらに、肉食中心の子は、穀物中心の子より、体力・腕力に優れる。

 だが、逆に知力が非常に残念な事になっている。

 オレが前世で学んだ事、数学・物理・経済などについて思い出した事、それらを『日本語』で教え込んだんだが、肉食中心の子は、ただの足し算ですら苦労した。


 逆に穀物中心の子は、頭の回転が非常に良い。


 まるで、それまで何かに押さえ付けられていた堰が外れたかのように知識を吸収していく。

 えっ、なんで日本語で教え込んだのかって? そりゃあんた、この世界の言葉に翻訳できない単語が多数あったからだ。

 それに、他に知識を持ち出せない暗号の代わりにもなる。


 まとめると、モンスターの肉には魔素のような体を強化する栄養が含まれており、それを摂取し続ける事で、モンスターに対抗しうる力を人々は手に入れている。

 それを穀物中心にしてしまうと、モンスターに対抗できうる腕力が失われてしまう可能性がある。

 ただ、モンスターの肉には人の知能を低下させる副作用もある。


 何千年とモンスターと戦っているのかは知らないが、落とし穴すら発展していない現状をみると、あながち間違っていない気もする。

 もっと罠と道具使えよって、最初モンスターとの戦闘を見た時は言いたくなった。

 なんで剣と盾で戦っているの、馬鹿なの? とまでは言わないが、ただ突進しかしてこない敵に向かって、ただ突進するだけなのはどうかとは思った。


 まあ、そんな穀物中心で育った子の中には、それなりの知識を持った子供達が出来上がる訳で。

 それら異才な子供達を周りの大人たちはいつしか、イースチルドレンと呼ぶ様になっていた。

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