第118階層
「しかし、それではイース様が悲しんでしまいますよ」
「だったらさ、最初から偽装死をすることを伝えてれば良いじゃん」
「ええ……それだと、作戦自体に意味がないんじゃね?」
そんな事はないよ。
ようは、イースさんの前からアクレイシス女王という存在をドロップアウトさせたい訳だ。
だったら何もおなかの子をクレスフィズ皇子との子供じゃなく、他の男性との子供だった。
その男性と駆け落ちするので死んだ事にしようと思う。
などと言って、協力を仰げは良いんじゃないかな。と仰る。
「なにそれ、私ビッチじゃん。さすがにそれはヤだよ」
「マイナス1もマイナス1000も一緒なんでしょ? そう打ち明けるのはイースさんだけなんだから、問題なくない?」
「まあ、そう言われればそうかも……」
「アクレイシス女王が居なくなれば、私との婚姻もお流れになる。そうなれば、私がイースさんを狙う意味もなくなるんだよ?」
アクレイシス女王が考え込むそぶりを見せます。
まあ、悲しむ人間はイース様だけはないのですが……
皇子との婚姻が白紙になれば、帝国の影響を削げるメリットはあります。
逆に、帝国との同盟関係が薄れると言うデメリットもありますが、現状はデメリットよりメリットの方が大きいでしょう。
なんでしたら、ファミュ将軍とバクラッド大統領にも事情を説明して味方につけても良いかもしれません。
「しかし、女王陛下のお仕事は誰が引き継ぎますの?」
ガー様がアクレイシス女王へ問いかける。
「どうせ、私のやっていることなんて知れてるから、誰がやっても一緒じゃね?」
「まあ、陛下のなされていることは、外交勤務のみですしね」
それすら満足になされているかどうか微妙な所。
兼務業務でも十分に務まると思われます。
「ファリスの嬢ちゃんもまだまだ、人を見る目が足りてねえなあ」
などとウドゥがボヤキやがります。
「まっ、俺は政治にゃ関係ねえから良いけどさ、イース卿がいりゃ、なんとか回すだろう」
イース様がなんとしなくてはならない時は、大抵あなたも巻き込まれているのですが、自覚がないのでしょうか?
さすがのウドゥの危機察知能力も、悪意がない場合は察知できないもかもしれませんね。
イース様も思い付きでウドゥを巻き込みますし。
「あとさ、オキクさんがアクレイシス女王だったなんて、私、聞いてないんだけど~。髪どころか目の色まで変わっているってどうやったの?」
などとクレスフィズ皇子が聞いてきます。
まあ、それは企業秘密です。
もっと腕の良いアサシンですと、声や背丈どころか性別まで変えて来ますよ。
むっさいおじいが幼女のふりをして潜入していた、とか聞いた事がありません?
まあ、アレの何がキツイって、見た目じゃなく、幼女のそぶりをするおっさんの神経ですがね。
「あとは誰が、イースの旦那に告げるかってとこか」
「女王陛下ではイース様にお伝えするのは無理でしょう。それができていましたら、今、こんな状況にもなっていなかった訳ですし」
「なるほど、ではどなたかお伝えするのですか?」
私がそう問いかけると、一同がそろって私の方へ視線を投げかけてきます。
えっ、私!?
「そうですね、私どもの中でも一番イース様と接触していた期間が長い訳ですし」
「おお、俺たちの中でも一番の古株じゃねえか」
などと、すかさずブロスとアイサムがそんな事を言います。
コイツラ、自分たちがやりたくないものだから、私を売ったな?
特にブロス、前職時代と合わせて、コレで2回目だぞ。
3回目があったら、覚悟しておけよ。
「まあ、そちらはそれほど急ぐ事でもないよ、それよりも仮死状態にする方法も考えないとね」
私が帝国の宝物庫を漁ってこようか? とクレスフィズ皇子が仰います。
「ロケットで爆散じゃダメなん?」
「死体がないと帝国貴族の一部が強行するかもよ」
カーラード王家に皇家の血筋を入れる事に拘っている人もいるそうです。
その方達のおかけで、クレスフィズ皇子とアクレイシス女王の婚姻を推進できた訳だしとも仰る。
そしてその筆頭が、皇帝陛下な訳でしょうね……
さて、クレスフィズ皇子をどこまで信用するべきですかね。
イース様の事をなんとも思っていない、と言うのは嘘でしょうね。
本当に何も思っていないのなら、今、動くことはないでしょうから。
それに、愛する努力も、今、する必要はなかったのですよ。
本当の家族になってからでも遅くはないのですから。
「やだなあ、ファリスさん、私の事を疑っている? 皆にははっきりと言ってなかったけど、私はつい最近まで普通の町娘だったんだよ~、そんな変な企みなんて思いつかないから」
イースさんの事だってこないだまで嫌ってたぐらいなんだから、そうそう心変わりなんてしないって。などと仰る。
ですがね、普通の町娘が、元とは言えアサシンからの警戒を見破る事ができるのは、普通ではないのですよ?
それにあなたの笑顔、本当の御父上とまったく同じ笑みになっていますよ。