第114階層
パレードの終了後、女王陛下の妊娠が発覚した。
前国王陛下は、大層お喜びになってオレの肩をたたいて来るのだが。
…………身に覚えがないのですよ。
ええ、女王陛下とそういった行為に及んだ記憶がまったく御座いません。
となるとだ、おなかにいるお子様は誰の子だ? って話になるのだが。
まあ、十中八九、あのお方だろうなあ……
なんだ、やる事はやってたんじゃないか。
だから女王陛下はいつもオレから目を反らしていた訳だ。
というかクレスフィズ皇子、まだ正式に婚姻されていないのだが、どうするんだよこの状況。
まあ、オレの子として発表するしかないんだけども。
生まれて来た子がクレスフィズ皇子とそっくりだったら、むっちゃ火種になりそうだなあ。
まあオレも人様の事は言えない。
むしろオレの方が先に裏切っている可能性だってある。
「イース様、女王陛下が来られていますが……」
「後でこちらからお話に行くと伝ておいてください」
とはいえ、今はあまり顔を合わす気にはなれない。
ショックがなかったかと言えば、ウソになる。
さりとて、何の行動もしなかったオレが悪い話でもある。
その上、こっちはこっちで浮気と言えるような事をしている。
話をするのなら、こちらの話もしなければならない。
ちょっと顔を合わせづらいのですよ……
女王陛下が去った後、オレは気分転換にでもと思い、日本円ダンジョンを探索する。
今回、国境を引いた事により、ダンジョンの自国エリアの拡張については各々でハーキャットさんと交渉してもらう事にした。
なお、どんな拡張になろうとも我々は一切の責任を負いません、とは念を押しておいた。
さっそく、国ごとに特徴のあるフロアになりつつある。
言葉が分からなくてもスタンプだけでも意思の疎通ができている様だ。
各国は、ハーキャットさんのスタンプと同じような絵を描いた用紙を持参してやり取りしている。
写真により、画家の仕事が少なくなったかと思ったら、こんな所で活躍されているでござる。
スタンプだけで会話を行うと言う遊びもはやっている様だ。
アメリカ$ダンジョンの素材変更装置のおかげで、紙と鉛筆は大量に生産が可能になった。
料金もお安い。
帝国も見る目があるよな、真っ先に量産したのがそれだった訳だ。
だてに周辺国を率いていない。
発展途上国に真っ先に必要なのは文房具だと言う人が居る。
人と獣の分かれ道は、何かを描く事から始まった、と言う人も居る。
全ての歴史は記録されない限り、後世に残れない。
知識を学ぶ事にも記録が必要だし、学んだ知識を保持するためにも記録が必要なのだ。
文字でなくたって良い、絵でもなんでも、まずは描き、残す事から始まる。
そして描く事によって発想する事につながる。
誰かが発想したその絵は、次の誰かの発想にもつながる。
そうやって延々と受け継がれて来たものが歴史であり、新しい時代を作る発想の元になるのだと思う。
と、とある廊下でハーキャットさんとスタンプでやり取りしている人を見かける。
最近はハーキャットさんが出現すると、周り中から人が集まって来るので、人が多い所には出現しなくなってきた。
そのせいでハーたんを探すのが大変でつらい、と仰っている人も居る。
めったに会えず、会えると幸運だと言う事で、今じゃ幸運を呼ぶ妖精だと言われている始末。
そんな妖精に会うために、毎日、徘徊している人も居るのは勘弁してほしい所だ。
ちゃんと仕事はしてほしい。
「おや、バーセルク兄上もその様なアニメ調のイラストを描かれる様になったのですか?」
今回、ハーキャットさんと一緒に居たのはバーセルク兄上だった。
そのバーセルク兄上がスタンプの絵をいくつか持っていた。
「いや、コレは全てこの娘が出したものを模写したものだ」
そう言っていくつかの絵を並べる。
「コレとコレ、それにコレだな、何やらつながっているように見えるのだ」
まあ、元がアニメキャラですからね。
ストーリーがあって、そこから引っ張ってきている。
つなげると意味がある物になるのも頷ける。
オレは兄上が持っていた画用紙に、鉛筆でそのスタンプをコマ割りして漫画の様につなげて見せる。
「こうやってつなげていくとストーリーができます」
「ほほう……」
「これをさらに何枚かつなげれば、物語を綴る本になります」
小説を、絵で表現する訳か……と納得されている。
「描かれてみますか?」
バーセルク兄上が描く漫画を見てみたい。
皆様もそう思うでしょ?
「…………ううむ、興味はあるのだがな」
一枚の絵でも描くのは大変なのに、それをそんなに大量に描けないと。
まあ、それだけクオリティが高ければ時間もかかりますよね。
絵の質を落として……などと言うのは兄上のポリシーに反するでしょうし。
なのであまり強要も出来ない。
まあこれだけスタンプがはやっているのだ、いずれ誰かが気づくだろうと思っていたのだが。
それから数日後、部屋を出ると、通路に大量の人間が土下座をして待っていた。
なにごとぉ? と思って話を聞いてみると、
「どうか! 我々にマンガとやらの描き方を教えてください!!」
と言われるのであった。