第105階層 空に浮かぶ無重力
アメリカ$ダンジョンに向かい、上空に浮かんでいると言う物体を見に行く。
巨大な、卵型の楕円の物体が空に浮かび、それを円形のサークルが囲むように配置されている。
その輪と卵との間には、いくつかの通路の様な物でつなががっている。
それは以前、メイクィースさんへプレゼンした、宇宙ステーションを思い浮かばせる形をしていた。
中心の卵が地球で、それを囲むサークルが宇宙ステーション。
「落ちてこないよな? アレが落ちてくると、街が滅ぶぞ」
かなり巨大な物体だ。
地上にある街をすっぽりと覆うほどの大きさだ。
…………確かに、落ちてきたら街はぺっしゃんこだな。
もう絶対に、ここのダンジョンコアは破壊出来ない。
破壊すると多分アレが落ちてくる
まるで、街を人質にとられたような感じだ。
まあ、狙ってやった訳じゃないんだろうけど。
相変わらずダンジョンは怖い場所だぜ。
しかし、あそこまでどうやって行くのだろうか?
と、思っていると、メイクィースさんが目の前に現れる。
そして、その場で巨大な魔方陣を作り出した。
どうやらその魔方陣から、あの上空の建造物に飛べる模様。
日本円にある、転移エレベーターみたいな物だな。
転移先は卵の中で、その一番下に転移させられた。
見上げると、ただ、巨大な空間が広がっている。
卵の中は唯の空洞の様だ。
『スキナヨウニ、ツカエバイイ』
好きな様に、とは言われてもなあ……
なお、卵の中は無重力状態で、空中を自由に移動する事が可能である。
中央にロケット開発用の足場を作って、左右部分に訓練室や研究室を作ればどうだろうか。
また、卵の中ほどには扉があり、そこから卵を囲む円環へ続く通路に繋がっている。
通路から先は普通に歩いて行ける、無重力エリアではない。
無重力なのはあくまで卵の中だけ。
そして円環には何があるのかと思えば、日本円ダンジョンの様な無数の部屋があった。
どうやら居住エリアのご様子。
至れり尽くせりだなあ。
しかし、中身が空洞とは言え、これほどの施設、それに無重力&空中設置。
どれだけ魔力を使ったのやら。
ハーキャットさんみたいにダンジョンコアを催促された訳でないのだが、どこから調達したのだろうか?
『ワナ、ヘラシタ。ツヨイヤツ、サイセイシナイ』
どうやらダンジョンの罠の維持費を削減、およびモンスターのリストラを決行した模様だ。
メイクィースさんのダンジョンは結構な広さと階層がある。
その二つをするだけでもかなりの魔力が浮く訳だ。
しかし…………
「ダンジョンは、やろうと思えば人間を滅ぼすなど簡単な事のようですね」
「………………うむ、こんな物を上から落とされれば、街など一溜りもない」
皇帝陛下が身震いしながら答える。
街どころじゃないんですよねえ。
もっと高く、それこそ宇宙に近い位置から、加速を付けて落とされれば、メテオストライクですよ。
たかが罠と一部のモンスターでこの大きさ。
作られたそのメテオの大きさ次第では、地上の生物を絶滅させる事だって出来うる。
まあ、言わないがね。
何事も知らない方が幸せと言うのはあるものだ。
世の中、気づいたときには手遅れなのですよ。
千年規模を誇るダンジョンには気を付ける必要がありそうだ。
地上に戻ると、メイクィースさんが周りの建物を指差して、全部壊して良いか? と聞いてくる。
イヤイヤ、良くないと思いますよ?
オレは隣に居る、皇帝陛下に目を向ける。
陛下は慌てて、側近連中を連れて建物の方へ向かう。
さすがは皇帝陛下だ。
あっという間に立ち退き交渉を成立させられる。
まあ、皇帝陛下に言われて、逆らえる国民は居ないとは思うけど。
全員の避難が終わったようで皇帝陛下のGOが出る。
オレはメイクィースさんの方へ目を向ける。
目があったメイクィースさんがうなずく。
するとだ、建物が地面に取りこまれる様にして消えていく。
あっという間の出来事でござる。
「…………我々はなんと危険な所へ住んでいた事か」
避難して来た人がそんな事を仰る。
ほんと、恐ろしいですよねダンジョンさんは。
人間は唯、生かされていただけに過ぎない。
強すぎだろダンジョンさん。
動けない、という制限が取っ払われたら、敵うモノなどいないのではないか?
そして更地になった場所へにょきにょきと四角い建物が生えてくる。
その中には、最下層にあった素材を変化させる機材が並んでいた。
なるほど、地上にあれば、わざわざ最下層まで行かずにすむ。
ロケットの開発も上でするなら、ここにあれば便利だ。
「ふむ、上にアレがあるのも心配であろう、いっその事、居住区を全て取り壊し、旧都市部分は全て工場化するか」
皇帝陛下がそのような事を仰る。
街を全部ぶっ壊して、新たに作り直す。
さすがアメリカさん、やろうとする事がワイルドですね。
おっとアメリカじゃなかった。
まあ、そうすれば日照問題も解決するし、作り直す際に地下へシェルターを作って置けば、万が一落ちてきても被害を押さえられる。
しかし、帝国もさすがに人手不足なのでは?
最近、帝国の事務官からアクレイシス女王経由でチクチクチクチクと、小言が入ったお手紙を頂いているんだよな。
旅行ブーム真っ最中のリニアモンスターカーの運営。
しかも経由駅の開発依頼がそこら中から舞い込んでいる。
品不足の続いている穀物販売。
国同の折衝から、大規模農場の開発まで、そりゃまあ、猫の手も借りたいほどだろう。
そしてここに来て、巨大工業都市の開発。
さすがにキレるんじゃね?
オレにキレられても困るんだが?
あと、なぜかお手紙は全部、アクレイシス女王を経由されるのだがね。
お前となんか、直接話する価値はねえよって事なのかな?
そういえば、こういう時、一番にすっ飛んで来そうな女王陛下が今日は見当たらない。
変な物を食べておなかでも壊しているのだろうか?
結局、あのあと謝りにも行けてないし、この後、部屋にでも寄ってみる事にしようか。
 




