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第102階層

 しまったかなあ、ちょっと大人気無かったかなあ。


 TS薬など最初から本当は存在しない。

 そんな疑惑があって思わず口をついてしまった。

 あとはあれだ、クレスフィズ皇子の事だ。


 どうやら皇子の容体はあまり良くないらしく、大半がサラサフィルさんが身代わりになって表に出ている。


 その状況でTS薬を飲ませば、と言われてもなあ。

 逆にサラサフィルさんが男になるよ。

 もしかしたら、女王陛下のベッドで寝ていたのも、容体がよろしくなかっただけかもしれないな。


 とはいえ、ちょっと言い過ぎた感じはある。


 感じ悪かったよなあ……

 後で謝っておくか。

 反省していると部屋にオキクさんが入って来る。


 そのオキクさんはオレに抱き着く様にして隣に座る。


 今日は何か元気がない様に思える。

 何かあったのだろうか?

 甘えるようにして顔をうずめてくる。


 ヤっちまった以上、むげにも出来ない。


 オレだってオキクさんと、このような状況なのだ。

 アクレイシス女王を責める権利は全くない。

 良し、このあと謝りに行こう。


 そう思っていた所、なにやらお客さんが来られたとファリスさんが言ってくる。


「青色の絵具の作成方法を教えてほしい」


 客間に入るなり、青色の絵具がほしいと詰め寄って来る年配の男性。

 どうやらカーラード王国の旧王都の宮殿に飾ってある絵を見て、ふんだんに使われている青色に気づき、画家であるバーセルク兄上に突貫したらしい。

 すると精製方法は弟であるオレしか知らないと言う。


 そこでオレを訪ねて来た。


 宮殿に飾ってある絵なあ……

 初めてグランサード帝国に行ったとき、女王陛下が修正済みの自画像を自慢気に見せていたので、だったら王宮にも飾って置けばどうだと、バーセルク兄上に頼んで大きく描いてもらった。

 だが、そんなオレの行動を見越してか、それに女王陛下がとある注文を付け足していた。


 出来上がった物を見た時、思わず、ブホォって吹いちまったよ。


 そう、そこに描かれていた物は、女王陛下――――と、ツーショットで映っているオレの、超絶美化された画像であった。

 人を呪わば穴二つ、と隣のファリスさんが呟いていたのが、とても印象に残りました。

 いやもう、その通りでございます。


 さらにこの画像、とある特徴があった。


 何を隠そうこの絵画の絵具は、全て宝石で出来ているのだ。

 昔、兄上にチラッと話した、宝石で出来た絵画、それが、コレなのだった。

 えっ、コレ一体、いくらしたの?


 むちゃくちゃデカいんですけどぉ?


 戦々恐々としながら兄上に料金を聞くと、驚きのプライスレス。

 なんと、この絵は寄付であると言う。

 さっすが兄上、太っ腹。


 キャロウェイさんが発案したキャロルゥも辛さを押さえたシチューの様な物、逆に甘くしたココアの様な物と、さまざまな改良版が発売されている。


 その度に大ヒットを続けている物だから、結構なお金が家に溜め込まれているそうだ。

 そしてバーセルク兄上は根っからの貴族主義者。

 高貴な人間はそれに伴う義務がある、持つ者は持たざる者に施しを与えなければならない。


 一人で富を溜め込むのは悪であり、貴族は金に支配されてはならない、という理念の持ち主である。


 なので今回、たまっていたお金を大放出して、豪華絢爛な絵画に仕立て上げたと言う。

 ちょっとだけ方向性が違うような気もしない訳ではないが、ありがたく頂いておこう。

 これ、数百年後には、とんでもない価値のある絵画になっていそうだな……


 嫌だなあ……そんな絵に、自分が描かれているの。


 しかも、本人とは似ても似つかない、超絶美化モード。

 もう別人だった事にならない?

 なお、現時点での価値も計り知れない。


 なにせオレの服装にはふんだんに青色の絵具が使われている。


 結局のところ、宝石から色を抽出する方法は公開していない。

 それで宝石の値段が上がっても嫌だからな。

 そのうち写真機も開発予定だ、それが出てからでも遅くはない、と思っていたのだが。


「バーセルク卿は分かっておらん! あのような空想上のモノに高価な絵具と使うとは!」


 絵画とは、現実そのものを正確に描いてこそ価値があるのだ。

 などと、目の前の方はおっしゃる。

 どうやら兄上とは真逆のタイプのご様子。


 いや、写実画を否定する訳じゃありませんよ?


 写真とそっくりな画を見ると、素直にスゲ~と思いますわ。

 でもですね、写実画以外を認めないと言うのはどうんなんですかね?

 この人、写真機が出たら、いったいどう思うのだろうか?


 どうしたものか……


 写真の登場と共に写実画は下火になって行く。

 今、宝石から色を抽出する方法を教えても、それを使う先が写実画であれば、下手すれば大枚はたいて作った絵具が台無しになりかねない。

 バーセルク兄上の様に転身を遂げられるなら良いが、そうでもない人も居るだろう。


 良し、これも帝国にブン投げるか!


 それから数日後、帝国から写真機の発表と同時に、青色の絵具が売りに出される事になった。

 写真機の方は……即席だからそれほど性能は良くない。

 だがまあ、普通の人が手で描くより鮮明だ。


 写真機の開発は今後も続け、より鮮明になって行くと伝えてもらっている。


 その上でも高価な青色の絵具を買って写実画を描くというのならもう止めない。

 後は自己責任だろう。

 それに原料が宝石と公言もした。


 宝石で描かれると言うだけでも価値が出るかもしれない。


 しかし当然、宝石の値段も上がった。

 なかなかこのサイズの絵画を宝石の絵具で描くのは、今後は難しいと思われる。

 するとだ、ますます、価値が上がるオレと女王陛下のツーショット。


 全てが宝石で出来ているという事で、それを見に来るだけの人まで現れる。

 リニアモンスターカーの普及にあわせて、各地の人の移動も活発になっている。

 この世界で初めての観光名所ができたかもしれない。


 なんか世界中の人に晒し者になった様で、ヤなんですけどねえ。

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