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年越し



私が生きていた頃と幽霊になってからでは、私への態度がガラッと変化した初芽。歳を重ねて大人になったと言われればそこまでだけど、私はそれが理由じゃないと思っている



「え……ウザいから」

「ストレート過ぎない?」



嘘の言葉だと理解しているけど、さすがに私でも傷ついた



「……別によくない?どうでも」

「まあ……絶対に聞き出したいってほどじゃないけど」

「ならいいじゃん」

「いや!やっぱり聞きたい!ぜーったい聞きたい‼︎」



このまま話されないとモヤモヤが残る。私は空中で駄々をこねた



「やめなよ三十路手前でそんな子供みたいに」

「私は22歳で死んでるから22歳ですー!」

「精神年齢は8歳ぐらいやね」



実際歳を取るという概念が消えたから22歳と主張しても問題ないと思う



「……ん?今22歳?」

「そりゃそうよ」

「てことは私と立場が逆転したわけだ」

「へっ?」

「これからは私のことお姉ちゃんと呼ぶように」



いつの間にか形勢も立場も逆転してしまった



「いやいやいや!私の方が先に生まれて初芽が後に生まれた事実は変わんないから、それは成立しないでしょ?」

「でも妹より年下な姉はこの世に存在しないよね?」

「そ、それはそうだけど……」

「私は24でそっちは22。これはもう覆りようのない事実だよね?」

「うぅ……」



やばい……そんなわけないのに勢いで妹にされてしまいそうだ……



「……冗談だよ。こんな幼稚な人でも私の姉だった事実は変わらないよね」

「は、初芽ぇ‼︎」



私は勢いよく触れる能力で初芽に抱きついた



「ギャァァァァァ!」



それと同時に信じられないほどの電圧が私の全身を駆け巡った



「……このブレスレット、意図しなくても勝手に効果が出るんだから無闇に私に触ったバカ姉が悪い」

「ま、真っ黒になるかと思った……」



私が幽体じゃなかったら、焦げて真っ黒になっていた



♢ ♢ ♢



「痛ったぁ……」

「幽霊なのに痛みがあるのなんか面白いね」

「面白くないし……痛みなんて1番いらないのに……」



よりによってなんで残ってるんだろ……これもナトちゃんの策略だったりしそう……



「あ、てかもう時間じゃん。ほらっ。早く帰った帰った」

「いやだ!聞くまで離れないから!」

「またビリビリ喰らいたいの?」

「天井付近なら当たりませーん」

「……実はさ。こういうことも出来るんだよね」



初芽はブレスレットについていたスイッチを押した



「喰らえ‼︎電流ビーム!」



ブレスレットから勢いよくこちらに向かって電気が飛んできた



「危なっ⁉︎な、なにそれぇ⁉︎」

「チッ!かわしたか……」

「だからなにそれって聞いてるの‼︎」

「改造してもらったの。205万3390円で」

「に、205万3390円⁉︎」



また対私のためだけに7桁の金額を出費してる。ここまできたら本気で嫌われてる気がしてきた……



「次は当てるよ?」

「くっ!て、撤退するわ!」



さすがに遠隔まで打てるようにされては私もなす術がない。ここは大人しく引き下がることにした



「……ったく。やっといなくなった」



最近なんかバカ姉の私の部屋への出入りが激しくなってきてる気がする。お札も売ってたし買おうかな?可愛くないからあんまり部屋に貼りたくないんだけど……



「冷たくする理由……か」



いずれ聞かれるのは分かってた。でも私はこれについて答えるつもりはない。なぜなら



「本当はもういない存在の人に、いつまでも甘えるわけにはいかないもんね」



こんなこと、恥ずかしくて本人に言えるわけがない



「……なるほどね。そういうこと」



逃げたふりして壁に張り付いてよかった。おかげで初芽の真意に気がつくことが出来た



「そうだよね。確かにそうだ」



私はそのまま湊の元へと戻っていく



「ずっと近くで見てたから忘れてたけど、初芽ももう立派な大人なんだよね」



近過ぎて成長してることを実感出来てなかった。

もう私の手なんて必要のないくらいに……



悲しいような嬉しいような複雑な気分になった



♢ ♢ ♢



湊の家に戻ってきた。私が出ていった1時間前と何にも変わらず、コーヒーを片隅に置き、本を読んでいた



あと1分後には年明けを迎える。でもそんなことには微塵も興味がなさそうだ



「……まあ。湊らしいっちゃらしいか」



基本的にイベント事は無関心な湊。私が生きていた時だって「あー。そういえばそんな日だっけ?」的な反応を何回もされたことがある



でも、今年は比較的そういった行事にもあの3人のおかげで参加してたし、そういった意味でも大躍進した1年だった



と、ここで携帯の通知が3連続で鳴った



「……あ、年越してる」



3人から届いたメッセージのおかげで年を越したことに気がついたようだ



「……湊。今年もよろしくね」



この言葉を言えるのもこれで最後だ

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