クリスマスケーキ
「で、最後にこの人間の血液を中に入れたチョコエッグを置いて完成!食べる前に割ってケーキ全体に血液をトッピング‼︎どうどう?」
「ドラキュラが食べる物としては満点かもですね」
街一帯が暗く、静かになった時間に私達はリーナさんから呼び出された
もうすぐクリスマス。クリスマス用に出す新作を一緒に考えてほしいとのことだった
「去年はどんなコンセプトで作ったんですか?」
「去年はー、返り血を浴びた殺人鬼をイメージして作ったケーキね」
「思考が死神のそれ」
元々死神なのだから仕方ない
「そもそもそんなの売れたの?」
「用意した材料分は売り切れたよー」
「すご……材料って?」
「豚の血だけど?」
「豚の血だけど?じゃないよ⁉︎狂気に満ち溢れてるでしょ⁉︎」
「そんな怒らないでよー。そもそも普通に食べてる地域もあるし、ボトルに詰めて売ってたりするんだから」
「ウソ……でしょ……」
この前世間って狭いなーって思ったばっかりなのに、やっぱり世界は広かった
「とにかく血から離れませんか?そんなグロッキーな物じゃなくてポップで可愛いものにしましょうよ」
「私可愛いってわからないー。樹里ちゃんちょっと案出してみてよ」
「そうですね……ケーキをホール状じゃなくてハートの形にするとか?」
「うーん……結構その手のケーキはあるし、何よりホールってなったら複数人で食べるだろうから、均等に分けにくい形にするのは私的にちょっとねー」
「なるほど……結構良い案だと思ったんですけど」
「案自体は良いよー。クリスマス用じゃなくて、バレンタイン用だったら採用!」
奥の部屋にあんな魔女の壺みたいな物を生成してるくせに、ケーキ屋の店長としてはまともなことを言っている
「じゃあ次は李華ー。何か案出してくーださい!」
「えぇ……そうだなぁ……去年のやつがインパクト強すぎるけど、それを超えたら更に売り上げが見込めそうな気もする」
「豚の血よりもさらにインパクトとあるものかぁ……」
「たとえば口の中に入れた瞬間、ケーキが弾けて口いっぱいに生クリームが広がる……とかどう?」
「私のこと狂気じみてるって言ってる割に、李華も相当狂気だよー。そもそも歯とか弾け飛んだら賠償問題になるし」
「そっかー」
「作れはするんだけどね」
作れるんだ。口内入れたら爆発するケーキを
「はぁー……どうしよ……」
頭を抱えるリーナ。クリスマス前はどこの洋菓子店もこんな様相なのだろうか?
「とりあえず方針だけでも決めませんか?たとえば豪華にするとか、今までケーキになかったような○○の味!みたいにするとか、さっき李華さんが言ったようにインパクトの強いものにするとか」
「私的にインパクトの強いやつがいいなぁ。豪華にすると経費がかさむし、ケーキ買ったのに違う料理の味だったら、私なら凹むし」
「ならインパクトの方針でいきましょう」
「でもねぇ。去年を超えるってなると相当なんだよね」
「別に超えなくても良いんじゃないですか?」
「超えないと不安になる……」
「死神でも不安になることがあるんですね」
とりあえず方針は決まった。あとは案を出し続ければいずれ解決するだろう
♢ ♢ ♢
「これもダメ!」
話し合いを始めてから2時間が経過したが、2時間前と全く状態が変わらないでいる
人間が食べる物でインパクトの残せるもの……ちゃんとケーキとして美味しくてインパクトを出すのは難しい
「7層にして虹にするのはどうでしょうか?」
「それも結構あるんだよねぇ」
「生クリームに見せかけて泡にするとか!」
「クレームが止まなくなるね」
「数個だけ当たり枠としてケーキに500円玉を入れて、おみくじケーキとかどうです⁉︎」
「間違ってお金食べて歯欠けたりしても困るし、おみくじならお正月に並べるって」
「ならもうかの有名なスポンジボ○さんにスポンジの代わりをしてもらうしかない!」
「あの黄色い人気者は食べられる方のスポンジじゃないから」
こんな感じで出した案を全部却下されている
「もっと他ないのー?」
「もっとって……結構挙げたよね?」
「だって1人危険思想を持ってるんだもん。実質私と樹里の2人で考えてるようなものじゃん。李華は戦力外なの」
「全然危険思想持ってませんけど⁉︎」
「持ってるよー。歯壊したすぎだから」
インパクトって面では負けないと思うんだけどなぁ
「もう陽が上がりそうですね」
窓の外から少しの光が差す。太陽が少し顔を出していた
「もうそんな時間かー。仕込みの準備しないと」
「え?洋菓子店でこんな朝早くから仕込みがあるの?」
和菓子店やパン屋などは早いと聞く。洋菓子店もその部類に入っていたとは
「違う違う。釜の方よ」
「釜?……釜ってあの釜?」
「あの釜よ」
ここの釜=魔女の壺。得体の知れない毒物のようなものだ
「仕込みって……あの釜に完成形があるんですか?」
「ない!でもやればやるほど臭くなってくからやめられないのよね」
なぜか中毒になっている様子
「また倒れないでよ?」
「今の臭いには慣れたから大丈夫!レベルアップしたらまた気絶するかもしれないけどねー」
あれよりレベルアップするのか……元死神を気絶させるに追い込めるほどの異臭が
「……あっ」
「どうしました?」
「この釜のやつ使おう‼︎」
「「……マジ?」」
元死神様はとうとう狂っちゃったらしい
♢ ♢ ♢
クリスマス当日。「取り扱い厳禁ケーキ」という名で、釜の中身を詰め込んだケーキが販売された。事前告知をして、その中で事前予約をした者のみが18時45分〜19時までの間に指定した場所に取りに来るというシステムにした
そしてそのケーキは真っ赤な箱に入れられ、買う前に『もしなんらかの身体的に害が及んだとしても、こちらは一切の責任は取りません』とだけ書かれた誓約書にサインさせていた
そんな危険な商品になぜか注文が殺到。最初の作成数の2倍ほどの量を結局作ることとなった
「心配になってちょっと見に来たけど大盛況ね……」
「中身見たら絶望しますよきっと」
翌日。医療機関に迷惑をかけることになったことは言うまでもない




