ドッペルゲンガー
顔も身長も声も髪色も全く私と同じ人間が、湊の部屋にいる
「おかえりなさい。お風呂にする?ご飯にする?そ・れ・と・も……私?」
しかも私が勘違いしていた言葉を使えている
私のドッペルゲンガー⁉︎
ということは見てしまった私は死んでしまう⁉︎
……なんてそんな非現実なことじゃない。そもそも死んでいるので問題ないんだよなぁ
彼女は 月代 初芽。私の5つ下の妹だ
5つも下のはずだが、双子と間違われるぐらいに似ている。というより同じと言っていいと思う。
初芽が中学に入った頃には、高2だった私と背丈、体重、顔立ちが私と同じになった。
私達を産んだ親でも私達のことは見分けがつかない。
性格は全然違うけど、見た目の判断材料にはならない
だから間違われないように私達は髪の長さを変えた。
私は長くして、初芽は短く切った
だけど初芽は私が死んでから、髪を伸ばし始めた。
私がいなくなったことで、間違われることがなくなったからでも元々長くしたかったわけでもないらしく。
……初芽が湊のことが好きだから伸ばしている。そう私は直接初芽から聞いた
墓前の前で言ったのかな?と思われるがそうではない
死人の私の目を見て言ったのだ
そう。初芽は私と樹里のことが見えている。薄らじゃなく、クッキリと見えているらしい
実際、今湊が見ていない隙に私と目を合わせたのだから……
♢ ♢ ♢
「どう?美味しい?」
「うん。美味しいよ」
「良かったー!」
初芽が作った料理を湊が平らげる。 こんな風に週に3回ペースで通い妻みたいなことをしている
姿が私と一緒だから、昔の私と湊を第三者の目線で見ている気分になる
……正直に言うと、私は初芽と湊で結ばれて欲しくない。
これに関しては完全な私情なのだが、湊と私そっくりの姿の人でイチャイチャされると……嫉妬に狂い始めてしまうかもしれない
元は私の居場所で、今もあそこにいるのは初芽じゃなくて私だったはずなのに……と
7年経った今でも未練がましく思う私がいる。たったそれだけ。妹の恋さえ応援できない最低な姉だ
だから応援なんかするわけない。徹底的に邪魔してやる‼︎
「それでねー?あのお店の中に入ったんだよー」
「へぇ。そんなことになってたんだな」
邪魔だては何度だって出来る。幽霊になった私に対して初芽は無力だ‼︎まずは身体を乗っ取って、湊に向かって嫌いって言ってやる‼︎
私は身体を奪う為、初芽に向かって飛び出した
「ゔぇふ⁉︎」
だが初芽は私のことを左手で思いっきりビンタをかました
「ん?どうした?」
「ごめん!蚊が飛んでて気になっちゃって……」
「え?まだ春になったばっかりだぞ?」
「蚊じゃなくてハエだったかも!」
初芽は私の方を見て、悪そうな笑みを浮かべた
「な、なんで触れるの⁉︎ビンタ痛っ⁉︎生きてる状態だったら絶対歯折れてた‼︎ていうかなんで幽霊なのに痛覚あるの⁉︎痛覚だけは必要なかったよ‼︎」
……多分マグレだ。マグレで触れれただけに違いない!
私はもう一度初芽に向かって飛び出した
「あっ!ハエ飛んでる‼︎」バチンッ
「ベフッ⁉︎」
またも強烈な一撃が私の左頬に決まった
「な、なんで触れるのよぉ……」
私達の存在を観測する人間さえ今までいなかったというのに、こうやって触れられる事が出来た人間がいるなんて……しかもよりによって初芽だし……
「李華さん」
「な、なによ」
「初芽さん。最近この世界で一番有名な霊媒師さんの所に行ったらしいんですよ」
「……それで?」
「その人から身につければ幽霊に触ることが出来るブレスレットを買ったそうです」
「なにそれ……そんな詐欺っぽい商品にお金出したの?」
「128万7200円したって言ってました」
「128万7200円⁉︎」
たった1つの商品だけにそこまでのお金をかけたことに驚きが隠せない。生前の私は2万のバッグさえ買うか悩んでいたというのに……
「でも実際効果あるみたいですし、128万7200円の価値はあるのかもしれませんね」
「確かに……128万7200円の価値はあるかもしれない……でも128万7200円ぐらいの効力なのかと言われれば疑問な気もしなくはない。さすがに128万7200円は高すぎ……って
128万7200円128万7200円ってうるさいな‼︎」
「いや1人で何言ってるんですか?」
初芽は厄介な物を手に入れてしまったようだ。よりによって1番妨害したいやつに……
「ならば違う手でいく!初芽に触れられてしまうのなら、遠距離から攻撃すればいい!」
「攻撃⁉︎もしかして残った4つ目の能力ですか⁉︎」
「ふっふっふ……私の技!光る指先で邪魔してやる!」
湊の後ろに周り、私は初芽に向かって指先を光らせた
だが、初芽に効いている様子は全くない
「な、なんで効かないの⁉︎」
「それ幽霊の私達以外見えないんじゃなかったんですか?」
「……あ」
「天然通り越してバカ通り越してアホですね」
「アホはバカの強化版の言葉じゃないわ‼︎」
「あ、怒るとこそこなんだ」
大誤算だ。この能力が効かないなら私は遠距離攻撃をする術がない。残ってる能力は今は全く使い物にならないし……
だが……IQが高い私は、更なる作戦を思いついた
「初芽が左手に付けてるあの青いブレスレットが霊媒師から買ったやつだよね?」
「そうですよ?12はーー」
「もう値段はいいから‼︎ということはだよ?あのブレスレットさえ初芽から外してしまえばこっちのものってことだよね?」
「……まあそうですね」
ならば簡単。湊が見えない場所に手があるときにこっそり奪い去ればいいのだ
私は初芽に悟られないように周りを飛び回った
初芽は私のことを目で追いながら、ご飯を食べている
チャンスは左手を下ろした瞬間……別に急がなくてもいいのでは?と思うかもしれないが、私にとっては緊急事態で、即対応に当たらないと困る
その時!初芽は左手を膝の上に置いた
机が邪魔になって、湊からは見えない。私は机を貫通しながら、初芽のブレスレットを掴んだ
「アバババババババババババ⁉︎」
ブレスレットを掴んだ瞬間、私の幽体に電流が流れた。約7年ぶりに浴びた電流に、私の意識は昇天しかけた
「なに今の……?危うく死にかけたんだけど……」
「もう死んでますから大丈夫ですよ。……あのブレスレットに幽霊が触れたら、幽体に強力な電力が流れるらしいですよ」
「なんでもっと早く言わない⁉︎なんで事が終わってから話す⁉︎」
「面白そうだなって」
「最低だな⁉︎訴えてやる‼︎」
「誰にですか……」
強力な電力……電気風呂とかそんなチャチなものじゃない。電線に素手で触れるレベルの電力が流れた。人間だったら身体全体が焦げてる
「くっそー‼︎初芽今無敵じゃんか‼︎手出しできないじゃん!」
「まあ諦めるのが1番かもしれませんね」
「いーやーだ!絶対邪魔する!絶対泣かす‼︎」
「私怨が混じってますよー?」
と、ここで突如初芽が席を立った
「すいません湊さん。少し席を外します」
「うん」
初芽は、湊が見えないように、私についてくるように促してきた
「ついてこい……って言ってますよ?」
「えー……嫌だなぁ」
間違いなく文句を言われるのは目に見えているからついていきたくない
「でも見てくださいあの動作」
「動作?」
初芽は右手首に、左手の親指を当てて横にスライドさせる動作を見せている
「あれがどうかしたの?」
「わからないんですか?あの動作は……来なかったら首を切り落とすってことですよ」
「怖っ⁉︎あ、あんな簡単な動作にそんな意味が⁉︎」
「右手首は多分首を表していて、左の親指は刃物を表しているんでしょう……これはついていかないと大変なことになります」
「くそがぁ〜……」
私の姉としての威厳が底に落ちている気がする……