計り知れない力
旅館のチェックアウトを済ませた5人。昨日の建物が並ぶ道と打って変わって、少し殺風景な場所を歩いていた
「うぷ……ぎもぢわるい」
「蘭さん。そんなにたくさん飲んだんですか?顔真っ青ですけど……」
初芽の肩を借りながら歩く蘭さん。湊の買ってきた酔い止めとお水で大分マシにはなっている
「せいぜい缶1缶半じゃない。なんでそんな状態なってるのさ?」
「わかんない……いつもはあんな量じゃこんなことにならないんだけど……」
蘭さんは朝の出来事がすっかりと飛んでいるみたいだった
「ほら。もうすぐ着くから頑張って歩いて」
「もうちょっと揺らさずに歩いて……」
「え?なんですって?」ユサユサ
蘭さんの身体を大きく横に振れた
「こ、この鬼女……由布子さんに代わって!」
「わ、私ですか?」
初芽に代わり、由布子さんが蘭さんに肩を貸した
「お……重……くないです!ウソです!」
女性に重いというのは失礼だと思ったのか、寸前でなんとかかわした由布子さん
「え……初芽。私って重い?」
「いえ。軽いと思う」
「良かった……プルプルしてるからそんなに重いのかって不安になりましたわ」
「由布子さんが非力すぎかな」
初芽と違って全然余裕のなさそうな由布子さん。このまま一緒に崩れ落ちるんじゃないかってぐらい不安定だ
「やっぱり初芽代わって!崩れそうで不安だしそもそも身長差で中腰キツいですわ‼︎」
蘭さんは恐らく160前半ぐらいの身長。対して由布子さんは140前半辺り。確かに体制的にもキツそうだ
「えぇ……」
「俺が代わるよ」
「み、湊さんはダメです‼︎なんでか分からないけどなんか絶対ダメ‼︎」
覚えてないがさっきのことが本能的にチラついているのか、蘭さんは顔を赤くしながら拒否した
「そ、そうか」
「初芽……お願い」
「ジュース奢りね」
「意外と良心的な取引」
確かに初芽にしては良心的だ
「あ、あそこじゃない?」
5人は目的地である神社に到着した
今日の予定はお寺巡り。蘭さんが提案したもので、温泉街の近くに御利益のあることで有名な神社が多いらしい
「随分と長い階段だな。蘭さん登れます?」
「……私は今、人生で1番絶望的な瞬間に立っているかもしれません」
今の蘭さんは、階段が絶望に感じるほど酔っているようだ
「……あ!蘭だぁ‼︎」
手を振りながら近づいてくる女性。他の3人はポカンとしていたが、私は誰か分かった
「蘭さんのお知り合いですか?」
「昨日の展示会場で少し一緒に行動させてもらった方ですわ」
「どもどもー‼︎まさかまた会えるなんてねー!ってなんかグロッキーじゃない?」
「飲みすぎましたわ……」
「飲みすぎてないけどね。弱すぎるだけで」
追加で飲んだ分を合わせるとまあそこそこに飲んだ方ではあるかもしれない
「そ、そうですわ!これからご予定は?」
「予定?別に買い物済ませて家に帰るだけだけど」
「じゃあ申し訳ないですけど、私をここで看病してもらえません?」
相当登るのが嫌な様子。顔色も良くないし多分登り切る前に吐いてしまいそうだ
「そんなしんどいの?まあいいけどね。私が蘭のこと見てますんで、お三方はゆっくり楽しんできてください」
女性は、蘭さんの手を引いて近くのベンチに座った
「……すいませんが蘭のことお願いします。じゃあ私と由布子さんと湊さんで行きましょうか」
「は、はい」
「蘭ー。帰ってくるまでに酔い醒ましといてね」
「無茶言わないでー……」
3人は長い階段を登り始めた
♢ ♢ ♢
長いといっても、下から頂点が見える場所にあるし、常人なら2分もあれば登り切れる
「おい……あれもうちょいで見えそうだぞ」
「おっ。動画回しとくか」
3人の後ろを歩く2人の男。2人は前を歩く由布子さんのスカートの中を激写しようとしていた
由布子さんのスカートは膝より少し上辺りの丈はあるため、普通ならば見えないが、高低差のせいで見えそうになっていた
この状況で、私が何もしない訳もない。身体を乗っ取って携帯を半壊させるのも良し。触る能力を使って携帯を階段の下に落とすも良し
……と、ここで由布子さんの前を歩いていた湊はワザとスピードを落とし、由布子さんの背後に回った
由布子さんが無反応だったところを見るに、声は聞こえていないはずだが……これは危機察知能力の高さから来る行動だろうか?
何にしても、やはりこういう気遣いの出来る湊はさすがだ
「ちっ……邪魔されたか」
「おいおい……空気読めよな」
さてと。湊がいい男だと再確認も出来たし、私は私でやる事をやっておこう
バキッ
「はっ⁉︎お前‼︎何してくれてんだよ⁉︎」
「何って……携帯壊してやっただけだよ?」
「それが意味分かんねえんだよ!」
「だって他にもどうせこんな写真とか撮ってたんだろ?そんなもの処分しとかないといけないしな」
「はぁ⁉︎それはお前も一緒だろうが‼︎」
「あーそうか。じゃあこっちも割っとかないとな」バキッ
と、ここで身体から追い出された。撮影していない人間の方の身体を乗っ取ったが、わたしの判断は正しかったようだ
「……あれ?俺一瞬意識飛んでたような……」
「何訳わかんねぇ事言ってやがんだ‼︎お前携帯代弁償しろよ⁉︎」
「はぁ?そっちこそ何訳わからんこと言ってやがんだ‼︎」
後ろの2人組はその場で立ち止まり、大声で口論を始めた
「……な、なんか後ろが騒がしいですね。何かあったんでしょうか?」
「さぁ?でも何かあったんじゃない?」
「気にしない方がいい。それよりもうすぐ着くよ」
3人はそのまま頂上へと登り切った
「意外と人がいない……」
かなり有名な場所と聞いていた為、それなりに人通りが多いと思っていた。ただ平日のお昼ということもあってか、10人程度しかいなかった
「まあ平日だしな。お守り売ってるけど見ていくか?」
「安産祈願のやつ欲しいです!」
「予定ないだろ……」
「じゃ、じゃあ私は……縁結びのやつで」
「蘭には……金運のやつでいっか。お友達の方にも一応……ってなにこれ?」
色の配分が悪運を呼びそうなお守りがあった。しかも糸が所々ほつれている。まるでごみ収集車で粉々に砕かれそうになるギリギリで救い出したみたいに見える
「これは……お守りですか?」
「あー……それは悪運を呼び寄せるお守りです」
「守るじゃなくてですか⁉︎」
「はい……私共としてはあまりそういったものを売りたくはないのですが……興味本位で買っていってしまうお客さんは結構いらっしゃいますね」
お守りというより、呪いのお札って言った方が正しい気がする
「へぇ……これのせいで被害が出たみたいなお話はありますか?」
「そうですね……最近だと有名なゲーム実況者さんがSNSを一瞬だけ乗っ取られて不謹慎な言葉をあげて炎上したとか」
「おお……それは結構なことですね……」
「あとは7年の付き合いがあった彼氏と別れることになったとかですかね?」
「よし!これは蘭にピッタリなお守りだ!」
「さ、流石に蘭さんが可哀想ですよ……」
由布子さんの説得により、結局そのまま金運のお守りを。そして友達の方には健康祈願のお守りを買った
「よし……じゃああとはお参りして戻りましょうか」
「そ、そこのお方ー‼︎」
大きな声を上げながらこちらに近づいてくる人影があった。お坊さん頭のおじさんで法衣を纏っているので、ここの住職の方だろう
「じ、自分ですか?」
「そ、そうじゃ……はぁはぁ……お、お主からは計り知れない程の力を持った霊が取り憑いておる‼︎しかも相当な年数取り憑かれておるようじゃ‼︎」
お坊さんは湊に向かってそう言い放った。私の方を直接見ていないところを見るに、ハッキリと見えているわけではなく、オーラ?的なものが見えているのだろう
能力ももらってるし、7年近く取り憑いている。お坊さんの言葉は正しい
「そ、そうですか……」
「これは一刻も早く祓ってやらねばならん……本来儂の役目ではないが、儂はその界隈にも精通しておる。特別に祓ってやるからついて参れ!」
「あっちょっと⁉︎」
と、お坊さんは湊の腕を引っ張り、半ば無理矢理に連れていかれたのだった




