好きな子にはイタズラしたくなる
結局あれから15分ほど経過したが、蘭さんはここで知り合った?っぽい人と2人でまだ『ハロウィン以外でカボチャを食べて何がいけないの⁉︎』の展示コーナーで盛り上がっている
グッズを手に取っては、そのポーズがどのシーンで再現されたかを語っていた
よく飽きずに話してるなーと思っていると、2人はアクリル製で出来たキーホルダーを持って、お会計の列に並んだ
「そういえばさー。今日は1人で来たの?」
「……いいえ。他に3人いますわ」
「全員女の子?」
「3の1ですわ」
「どういう集まりそれ?」
「好きな男に群がる3人の女性……ですわね」
その人は呆然としていた。まあ混乱するのも無理はない
「う、浮気性なの?その人は」
「いえ。単純に男性側は私達に恋愛感情がなくて、私達が必死にアピールしてる……って感じになりますわ」
「な、なるほど……」
恋愛感情については、最近は微かに希望の光が差してる気がしている。この前のハロウィンでの宣言を信じるのであればの話だけど
「蘭はどのぐらいの立ち位置にいるの?」
「立ち位置って?」
「その男性からして、自分は何位に位置すると考えてるの?」
「そりゃあもう……ねぇ?」
フフン!という声が聞こえてきそうなぐらい自信たっぷりなご様子
「まあ確かに顔はすっごく整ってて可愛いから、そりゃあーー」
「3位ね」
「最下位なんかい⁉︎」
自信たっぷりの様子が失われ、どんよりとした雰囲気が背中から出ている
「な、何で最下位だと思うの?」
「だって……悪態ついちゃうから」
唯一の弱点であり、超大きな弱点だ
「え、す、好きな人相手にってこと?」
「うん……話してると恥ずかしくなって。私でも制御出来ない感覚が押し寄せるの」
「へ、へー。難儀だね」
やっぱり今日出会っただけの人でもそう思うよね。私は実際にそのシーンを何度も目撃してるから、難儀というより可哀想という感想が真っ先に出てくる
「ハロウィン以降は少しはマシにはなったとは思いますが……」
自分が好意を寄せていることを伝えられても、この状態が変わらないことには、湊との関係は縮まらない
「何で悪態ついちゃうんだろうね?好きだったら普通良く見せようと思わない?」
「普通はそうだと思いますわ。でもどこかで聞いたことがあるのですが、好きな子にイタズラなどをしてしまう人種もいると……私はその類なのだと思いますわ」
「んんんー?それは一緒なのかな?」
悪態というより生意気なお姫様といった感じに変わるのは蘭さんぐらいだろう
「ですがこの旅行中に、私は普通に会話出来るようになってみせますわ」
ぜひともこの意気込みは達成してほしいものだ
「ならさ?ここに私と話してないで一緒に行動するべきだったんじゃない?こんなところで油売ってる暇ないんじゃない?」
「……いいのです。ここは由布子さんに任せるべきなのです」
「任せるって?」
「私の目的は、湊さんと普通に会話が出来るようになることですが、この旅行の目的自体は湊さんを元気づける為のものなので」
「……ふーん。まあ何があったか分からないけど頑張りなよ‼︎可愛さは十分‼︎声も良いし勝ち目あるって!」
「ありがとうございます」
蘭さんは慰めの言葉を貰ったあと、話は『ハロウィン以外でカボチャを食べて何がいけないの⁉︎』に戻った。湊の話題がこれ以上出なさそうだったので、私は湊達の方へと2人より先に戻ることにした
ただ……3人は別の場所へ移動しており、『鉄パイプは舐めるとマズイ』の展示場所と由布子さんの作品の場所では姿が見当たらなかった
人も多く広いこの空間で3人を見つけるのは骨の折れる作業だ
「どこに行ったかなぁ……あっ」
私はとある物が目に入った
「『ジャリージュリージョリーの大冒険目次録だ!まだ連載してたんだ……」
私が生前にハマっていた作品。引型文庫の作品なのは知っていたが、まさかまだ連載されていたとは……
「連載開始から30年記念⁉︎あの展開からさらに7年も続けたの⁉︎」
この作品の大まかなあらすじは、父親、母親、そして5人の兄弟の7人家族で平和な生活を送っていたある日。長女のジィリーと次女のジェリーが魔王に気に入られて連れ去られてしまった。2人を助ける為に、3人の兄弟達が魔王を討伐する為に旅に出るという話だ
「私が死ぬ前に魔王を討伐して、2人の兄弟を助けて平和を迎えてたはずだけど……こっからどうやって7年も……」
すごい気になる……でも早く見つけないと……でも……
余命宣告された時、まだ『ジャリージュリージョリーの大冒険目次録』だけは完結まで読めて良かったと思ってたのに、そこから7年分の物語があると思うと……
「ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ……」
私の幽体は、『ジャリージュリージョリーの大冒険目次録』の作品展に赴いた




