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傷心旅行②



5人は旅館に荷物を置き、旅館の外へ出た。

今から向かう場所は電車に乗って一駅のところにあり、そこで()()()イベントが行われていた



「み、皆さん。もうすぐ着きます」



温泉街の街並みと違い、ビルが並ぶいかにも都会といった雰囲気のある場所に来た5人。一駅超えただけなのにこれほど街並みが変わる所も珍しい



「由布子さん。買い物でもするの?」

「いえ……あの……今から行くところはお、お2人にはた、楽しくない場所かもしれません……でもその後にここら辺で買い物でもしませんか?」



3人はお互いに顔を見合わせた



「いいよ。てか由布子さんに企画を任せっきりにしたんだし、私達に文句を言う資格はないよ」


「ありがとうございます……あ、こ、ここです」



後ろでワイワイ盛り上がっている間に、目的地に到着した



「……引型文庫フェス?」



女性陣は?マークを浮かべてしっくり来ていない様子なのに対して、湊は目に見えて興奮していた



「引型文庫はわ、私の作品を出してる会社なんです」



この文庫会社はオリンピックと同じ4年に一度、イベントホールを借りて数日に渡ってイベントが行うようだ



物販であったり、描き下ろしの展示。アニメ化した作品の出演者達による舞台上のイベントなど様々な催しがある



私はこのイベントの存在を、由布子さんと時雨さんの会話で知った

なんでも作者として自身の作品を書くに至った経緯などを舞台上に上がって欲しいと依頼があったのだ



当然、由布子さんはその依頼を拒否。大勢の人前で話すほどの勇気は持ち合わせていない



その為、イベントの出演者として参加するからこの3人を連れてきた訳ではない。私が旅行の行き先としてここを選ばせた理由は簡単



湊が由布子さんの作品の大ファンだからだ



湊は本をよく読む。これは私が死ぬ前からの趣味だ

私の家に居候していた時は、なるべく自分の荷物を増やさないように図書館で借りるか、買った本を読んではすぐに売りに出していた



今の家には大きな棚二つ分の本が置かれている。ジャンルは様々。アクション系、コメディ系、恋愛系、サスペンス系。唯一読まないのはホラー系のみ。そして小説だけでなく漫画も読む



湊はいわゆる隠れオタク(別に隠してるつもりは無いと思う)なのだ



現に今の湊の目……今年で1番キラキラしている



「へー。この規模のイベントが行われるってことは相当な大企業ってことだよね?そんなところで連載持ってるなんて、由布子さんやるね」

「う、運が良かっただけです」

「作家活動してるのは知ってたけど、すごいね。ジャンルはなんなの?」

「えっと……れ、恋愛です」

「へぇ。意外ね」

「意外……ですか?」

「うん。恋愛経験がない人だと思ってたから」



確かに意外ではある。頭が良いみたいなので、ミステリー系の物を書いてると思っていた。だが実際は恋愛物。しかも結構ドロドロした……湊と顔を合わすだけで赤くなるような人が書いてるとは思えないような作品だ



「ええっと……み、湊さんが初恋です……」

「そうなの?恋愛経験が豊富な人がああいうジャンルの物を書くんじゃないの?」

「そ、そういうタイプの人もいます。でも経験ないからこそ妄想で色々書ける人もいるんです」

「なるほど。てことは由布子さんの作品には、由布子さんの妄想が詰まってるわけですのね?」



蘭さんって意地悪な人かもしれない……そんな言い方したら



「っ///」



顔を真っ赤に染め、初芽の背中に顔を隠してしまった



「あーあ……初芽。その言い方はダメですわ」

「えっ⁉︎私何かした⁉︎」



意図的ではなかったようだ



「あのね?察しなさい」

「……あっ」

「理解したようで何より」



初芽は由布子さんに頭を下げた



まあ自分の妄想物を好きな人に見られてるわけだから、恥ずかしいって気持ちが芽生えても仕方ない。自身の創作物を知り合いに見られたくない人は結構多い



それをわざわざ違う人から突きつけられたのだから、尚のことだ



「み、湊さん……一応私の作品専用のブースがあるみたいなので、行ってみませんか?」

「……ちょっと待って」



湊はサイフの中を確認した



「ごめん。ちょっとお金下ろしてくる」



湊は近くのコンビニへダッシュした



「……初めてあんなにテンションの高い湊さんを見ましたわ」



はしゃぐ……とまではいかないが、テンションは上がっている様子。お父さんが釣りに連れて行った以来、多少マシになった様子だったが、これを機にさらに調子を取り戻してほしいところだ


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