禁止事項
「そりゃ無理な相談じゃ。李華よ」
「そんなぁ……」
私は今、ナトちゃんに相談していた。ただ良い返事は返ってこなかった
「神が生きている人間に直接手を下すのは禁止されておる。どんな理由であっても例外なくな」
「……絶対なの?」
「絶対じゃ。もし生きている人間に直接手を下していいなら……妾は悪事を働いた人間全てを消しておるわ」
その思想を持つ者が神に居てもおかしくない。でも実際そうなっていないから……ナトちゃんの言っていることはウソじゃないと理解できた
「じゃあ私に記憶を消す能力を付与するっていうのは?」
「だから無理じゃ。お主にばっかり妾のリソースを割くわけにはいかん。それに……出来ても能力使用時から1日前までしか消すことは出来ん」
「つまり……もうあの日の記憶を消せないってこと?」
「……そうじゃ。そもそもそんな能力を与えるつもりもないが」
また1つ解決案が消された瞬間だった
「……もう潔く湊と話すしかないの」
「私が……?」
「それ以外誰がいるのじゃ?」
「でも……湊と私が直接話すのって、ナトちゃん的にはあんまり良くないんでしょ?」
以前忠告を受けたことがある。理由までは聞いていなかったが……
「別に絶対にダメってわけじゃないが……お主と話してしまったら、また湊の心はお前に戻ってしまうぞ?事実、今そうなっておるんじゃからな」
「……確かに」
「じゃろ?まあただの警告じゃ」
その警告がなくても、私は多分湊に話しかけることはなかったとは思うけど
「……でも、ナトちゃんに頼れないとなるとどうしようかな……」
「どうしようも何も、初芽ちゃん達に任せればいいじゃろ」
「……初芽達に?」
「妾は上から見ておったけど、初芽はお主に「乗り越えてみせる」。そう言っておったじゃないか」
「見守れ……って言いたいの?」
「……妾個人の意見としては、これはチャンスでもあると思っておるぞ」
チャンス……?私にはピンチとしか思えないが……
「どちらにしても、湊のあの性格では、お主のことを引きずったまま、他の子と付き合おうなんて考えておらんじゃろう。これさえ乗り切れば、湊の心は、湊の心についた氷を溶かした人に一気に近づく……そう思わんか?」
その通りではあるんだけど……
「ハードルが高すぎると思って……。自慢だけど、湊にとっての私の存在って相当大きいものだから」
「自慢なのか。まああんなモテモテ男からそう思われとるんじゃ。自慢でもおかしくないわな」
「そうでしょー?でもそれが仇になってるんだけどねぇ」
愛されてたせいで障害になってしまうなんて……何とも皮肉な話だ
「……とりあえず、3人に任せてみるよ」
「見守るんじゃな?」
「ちょっとは手伝うつもりだけどね」
「ほどほどにしておくんじゃぞ」
「うん」
あんまり調子に乗りすぎると、また気づかれてしまうかもしれない
「じゃあね。また来るよ。あ、明日の貢ぎ物はどら焼きらしいよ」
「質の高い物で作るように頼むぞ」
「リーナさんに言っておくよ」
「……帰る前に1つ」
「ん?なに?」
私は人間界に戻る手前で呼び止められた
「決して人を殺すでないぞ。これは警告じゃない。一発アウトじゃ。殺しを行った時点でお主の幽霊としての生活は終了。そのまま魂を浄化させてもらうからの」
私がしようとしていた事をナトちゃんは見抜いていたみたいだ
「大丈夫。幽霊生活が終わるギリギリになった時にするから」
それならば、幽霊生活を打ち切られたところで痛くも痒くもなくなる
「何が大丈夫なんじゃ……言っておくが、お主が人を殺せば、妾にも迷惑がかかるんじゃ」
「……え?」
「死者が生者を殺すなんて言語道断。死者に自由を与えた私に問題があったとして、妾も死ぬハメになるじゃろう。良くても神の称号は剥奪じゃ」
……私が事を起こす前に教えてもらえて良かった
「……分かった。ナトちゃんにワガママ聞いてもらえたから、私は今こうしてここにいられる……そんなナトちゃんに迷惑かけるわけにはいかないもんね!」
「もう十分迷惑はかけられておるがな」
「……確かに」
一瞬で納得してしまった
「あ、拷問はセーフ?」
「まず過激な事をすること自体をやめる気はないのか?」
「お願い!どうしても懲らしめたいの!今回の件もだけど……初芽を怖がらせた罪をあがなってもらう」
「はぁ……多少は目を瞑ってやろう。度が過ぎることをしたら、樹里に止めてもらうからの?」
「ありがとうナトちゃん!今回のどら焼きのレアリティは更に一段階上の物にするね!」
「そりゃ楽しみじゃの」
♢ ♢ ♢
人間界へと戻ってきた私。解決法を見出したわけではないが、ナトちゃんのアドバイス通りこの問題は3人に任せることにした
初芽が全員に湊の現状を伝えてくれたらしい。ただ私が幽霊として存在していることを知らない蘭さんには、かなりぼかして内容を伝えたようだ
「樹里ー。湊の様子どう?」
「変わりませんね。ずっと動かないんでカカシと勘違いしそうです」
「そんなに微動だにしてないんだ……」
30分ぐらいはあっちに行ってたはずだけどなぁ
「それで?解決法はあったんですか?」
「ううん。でもアドバイスはもらったし、なんとかする。……なんとかしないといけないから」
1日も無駄にしたくないのに、ウジウジされては困る。早く湊には立ち直ってもらわないと
ピンポーン
と、ここで新たに来客があった。たださっきの初芽の時同様、湊が微動だにしない
「はぁ……荷物の配達とかだったらどうすんのよ」
私が呆れていると、扉の鍵が開く音がした
「今……開きませんでした?」
「うん……開いたね」
湊も扉が開いたことに気がついたはずなのに動かない。多少の危機感さえも消失してるようだ
鍵持ちは初芽しかいないから、贄を切らして突撃してきたのだろうと大方予想は出来るが、もし違った場合にはマズいので、一応確認しに行くことにした
「初芽ー。結局鍵使って入っ……」
そこにいたのは初芽ではなく……
「お、お父さん⁉︎」
私の実の父親だった……




