好き嫌い
「「「いただきまーす」」」
湊の料理、初芽の料理がずらりと並んでいる。
蘭さんは結局、料理を作らせてもらえなかった
家が無事じゃ済まなくなっちゃうから仕方ないんだけど……
全員が食事を楽しむ中、由布子さんは飲み物だけをちょびちょび飲んで食べ物に手をつけないでいた
「どうしました?ご飯食べないんですか?」
由布子さんがご飯に手をつけないことに気がついた湊は理由を尋ねた
「……衣装が汚れちゃいそうで。李華さんの物ですし、汚すわけにはいかないですから」
コスプレのウェディングドレスとはいえ、真っ白な衣装なので汚れは目立つ。ただ、3000円そこらで買った物だし、もう着ることもないので、私としては全く気にしなくていいんだけど……
「別に気にしなくてもいいですよ。李華も全く気にしないと思いますし」
まるで私の思考を読み取ったかのように代弁した湊
……7年経った今でも、私の1番の理解者は湊のようだ
「ですが……」
「気になるなら紙エプロンがあるので貸します。それに食べないと初芽ちゃんが怒りますよ?」
「そうね。私の料理がマズいから食べない理由にしてるの?」
「そそそそんなことないです!ま、前に頂いた時の料理もすっごく美味しかったです!」
「ならちゃんと食べて。4人分の量作ったから食べてもらわないと湊さんの冷蔵庫を圧迫することになるの」
「わ、分かりました。い、頂きます」
「よろしい」
湊は持ってきたエプロンを由布子さんに渡した
「あっ……蘭さんキノコお嫌いですか?」
「ばっ!わざわざそんな報告しないでいいって!」
「また残してるの?」
「嫌いなんだからしょうがないじゃない!この食感だけはどうしても無理なの!」
「細かく切ってるじゃん」
「細胞単位で存在するだけで無理!」
「どうしようもないじゃん……」
駄々をこねる子供とそれを叱る母親の光景に見える
「嫌いな物は誰しもあるんだしいいんじゃないか?」
「湊さん……甘やかしてはダメです。この子好き嫌いが多すぎるんですよ」
初芽によって、蘭さんの新たな情報が手に入った
「キノコにこんにゃく。タコにイカ。ピーマンに人参。私が知らないだけで多分もうちょっとありますよ」
どれも料理によく使われる食べ物だ
「嫌いな物をわざわざ食べる必要もないと思うよ?」
「その通りよ!たまにはいいこと言うわね。褒めてあげるわ!……あっ」
味方をしてくれる湊に嬉しくなったのか、ついついいつもの調子で湊に話してしまった
「ど、どうも……」
蘭さんは机に伏せてしまった
「……まあ今日は我慢出来たほうなんじゃない」
机に突っ伏す蘭さんに、耳元で初芽がそう囁いた
「……死にたい」
今日ほぼ喋ることがなかった理由は、私の推測でしかないが、多分湊に悪態をつかないようにするための工夫だったんだろう
先行きが不安だ……でも!デレることが出来ればギャップ萌えで湊をKOする事ができると私は信じている
♢ ♢ ♢
料理を食べ終え、食器も片付けた所で千夏さんは全員を集合させた
「はーい!今から王様ゲームしますよ!」
初芽は手に4本の割り箸を持っていた
「何ですかそれ……私は参加しませんからね」
蘭さんは不参加を表明した
「そっかー……今回のルールは王様が番号の書いた人に命令じゃなくて、質問に絶対に答えてもらえるって内容にするつもりだったんだけどなー。いつもは聞けないようなことを聞くチャンスがあったのになー」
2人の顔つきが変わった。上手くいけば湊に質問するチャンスがあるということ
返答を拒否することも出来ない。秘密の多い湊のことを知るには絶好の機会だろう
「や、やっぱり私も参加してあげるわ!」
「わ、私も……」
「よし!じゃあ王様ゲームスタート!」
「俺はOK出してないんだけど」
「湊さんは家の主人だから強制参加です!」
「なんだその理屈は……」
強引な理屈を立てつつも、湊を参加させることに成功した
♢ ♢ ♢
「王様だーれだ⁉︎」
初芽の掛け声と同時に割り箸の先端を見る。棒の先が赤く塗られていれば王様。番号が書かれていれば、王様の指示に従う下僕となる
「あ、私だ」
王様を引いたのは、蘭さんだった
「じゃあ……3番の人。自分の性癖を暴露してください」
初っ端からかなりキツめの質問をする蘭さん。引いたのは……
「わ、私……⁉︎」
性癖を暴露することになったのは、由布子さんだった
「はーい由布子さん。それでは暴露をどーぞ!」
「うぅ……せ、性癖……え、えーっと……お、おへそを触るのが好き……です」
顔を赤くする由布子さん
「可愛いー!小さい子とか触る子多いよね?」
「小さい子はね」
「は、早く次にいってください……」
割り箸を再度初芽さんの手元に戻し、両手を擦り合わせる要領でシャッフルし、全員割り箸を取った
「王様だーれだ!」
初芽だけの掛け声で割り箸の先を見る
「俺か……」
王様を引いたのは湊だった
「そうだな……2番の人。身長を教えてください」
さすがに優しい質問をする湊。体重を聞いてたらエア右ストレートが炸裂するところだった
「ま、また私っ⁉︎」
2番の番号を持っていたのは、由布子さんだった。これで2回連続のご指名だ
「言いたくなかったら言わなくても……」
「ダメダメ!ダメですよ湊さん!確率は平等!黙秘権は行使出来ませんから!」
「し、身長ぐらいなら……まだ……」
体重はともかくとして、身長を晒すことに抵抗のある人もいる。由布子さんはそういうタイプの人間なのだろう
「……1年ぐらい前に測ったのが最後なので、正確じゃな、ないですけど……149cmです」
小柄で巨乳……私的に最も刺さる体型だ
「思ったより小さいわね」
「こらっ‼︎気にしてるかもしれないでしょ。デリカシーなさすぎ!」
「そ、そうね。ごめんなさい……」
「だ、大丈夫……です」
確かに見かけ170近くある蘭さんからすれば、由布子さんは小さく映るだろう。だが小柄な女性も男性からすれば需要はある。悲観する必要は全くないと思う
「気を取り直して……王様だーれだ!」
変わらず初芽以外に声を出す人はいなかった
「あー‼︎私だ‼︎」
初芽の手に王様が渡った
私はこの時を待っていた
「樹里!湊の番号確認して!」
「分かりました!」
樹里は湊の後ろに回り込んで、番号を確認した
「2番です!」
「2番了解!」
私は初芽に合図を送った




