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ナトちゃん



結局、私が手出ししないと何も起こらない2人は、湊が用意した朝ご飯を食べて、由布子さんは管理人さんに事情を説明して家を開けてもらったのちにそのまま帰宅した



手を出せば、天に還される危険性があったので、残念なことに私はただ由布子さんが帰っていくのを指を咥えて見ていることしか出来なかった



「ーーだから何も出来なかったんだよ〜。樹里ってば酷くない?」

「全然思わんのぅ」



私は昨日の不満をぶつけるが、軽く返事を返されてしまった



「むしろ樹里が悪用せずに、真っ当な使い方をしてることが聞けて良かったわい」



そうだった……そもそもの話、()()()()()()()で邪魔されたんだった……



私は今、死んだ者の世界。いわゆる『あの世』と呼ばれる場所に来ていた。昨日の約束破ったから樹里に天に還されたわけではなく、自主的にここに来たのだ



そして私と会話をしているのは神様の『タナトス』。のナトちゃんだ



喋り方はお爺ちゃんのようだが、見た目は完全に幼稚園児。積み木やレゴブロックで遊んでても、スモックを着てても違和感がなーー



「ぐわっは‼︎な、なんで急に殴ってきたのさ⁉︎」

「今、スモックの話が聞こえた気がしたからの」

「あれ⁉︎樹里と同じ能力者?」



神様だからその能力を持ってても疑いはないが



「それより能力の使用感はどうじゃった?」

「まだ3つしか使ってないけど、電気以外は完璧かな」

「うむ。電気に関しては想定通りじゃな」



やっぱりナトちゃんといらないと思っていたらしい。本当に無駄なことをしてしまった……



「じゃなくて‼︎私文句言いに来たの‼︎」

「文句?7年も幽霊させてやって能力までくれてやったというのに、ワシは李華から文句を垂れられねばならんのか?」

「うっ……」



言いにくい……樹里の件で邪魔されたのは間違いないけど、そもそもナトちゃんがいなければ、湊の行く末を見ることすら叶わなかったのだ



「な、なんでもありません……」

「そうじゃろ?何かあるわけなかろうて」



ふふんっ!と、ふんぞりかえるナトちゃん。その様子はまるで幼稚園を取り仕切るリーダー的おじょーー



「ぐへぇっ‼︎だ、だからなんで殴ったの⁉︎」

「いや、幼稚園と聞こえてな」



やっぱりそういう類の能力持ってるな……この神様は……



「それで?2年以内にどうにかなりそうなのか?」

「うーん……まだ使えて1日しか経ってないから分からない。でも前進はした気はするよ」

「ほお。ならばよかったじゃないか」



足踏み状態だった現状から、少しでも動かせる気がしているだけでと進歩と捉えるほかない



「……あのさ。聞いてもいいかな?」

「なんじゃ?」


「もし私が幽霊じゃなくなった後に、湊が結婚したってなったらさ。私がその報告を聞くことって出来るの?」



あくまでタラレバの話だ。私はこの2年の間で、絶対に湊を結婚させるつもりなのだから。ただ万が一にも見られなかった場合のことが気になった



「無理じゃ」

「それは……私が消えちゃうから?」

「機密事項じゃ。教えられはせんし、聞かん方が良いじゃろ」

「……そっか」



ナトちゃんの言葉を聞いて、私は尚更気が引き締まった



「ほれ。話が済んだんじゃったら帰れ帰れ。ワシは忙しいんじゃからな」

「え?ナトちゃんって忙しいの?」

「当たり前じゃろ‼︎死んだ者全てを選定してるの私なんじゃ!人間だけじゃなくて、生物全般が私の元に毎日来るんじゃぞ⁉︎わざわざ時間割いてやってるんじゃからありがたく思うが良い‼︎」

「そ、それは忙しいね……」



いつもここに来た時はナトちゃんはいつも休憩してたから、まさかそんなに忙しいとは



「じゃ、じゃあ今日はこの辺で失礼しまーす……」

「次来る時は茶菓子の1つや2つ持ってくるがよい!」

「いやいや!どうやって持ってくるのさ⁉︎1回30秒しか持てないんだから!」



私がそう言うと、ナトちゃんは人間には何て言っているか分からない言語で何かを唱え出し、そして私に向けて放った



「物に触った状態で『我が身で触れし物を、神 タナトスに捧げる』と言えば私に届くようになる!」



私に勝手に付与された能力は、完全にナトちゃん用のものだった



「でも湊の家から取ったとしても、どっかのお店から取ったとしても泥棒になりません?」

「幽霊だから気にするな‼︎と言いたいところだが、幽霊であろうとも泥棒はいけない。供物として捧げた物のコピーがこちらに送られてくるから、実際になくなることはないから安心せい」

「コピーって……そんなの食べられるの?」

「神を侮るな元人間よ。味、風味、食感、栄養価、温度まで完全コピーよ」

「そ、そうなんだ……」



まあ犯罪に手を染める訳じゃないからいいか……出来れば生きてるうちにそのコピー能力欲しかったなぁ……食費も浮いただろうし、美味しい物食べ放題だっただろうに……



「とにかく次から頼むぞ!」

「はーい」



私はナトちゃんに別れを告げ、人間界へと戻った



♢ ♢ ♢



「プリンなんてどうするんです?」

「んー?ナトちゃんに供物として捧げるの」



早速だが、時間を割いてもらったナトちゃんに、湊の冷蔵庫に入っていたプリンを供物として捧げることにした



「我が身で触れし物を、神 タナトスに捧げる」



私が唱えると、プリンは眩い光を放ち、そして上に向かって飛んでいった



「……飛んでいきましたけど」

「本体は残ってるから、ちゃんとコピー品が飛んでいったのかな?」



今度ナトちゃんにプリンの感想を聞くことにしよう


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